第161話 火砲

「防衛線が突破された…」



それから二の句が継げない山口…



そして…



「一尉… 大変です 見て下さい」



更に追い打ちをかけ、棒立ちする山口の目に映ずるは…



信じらんない場景を目にした。



微かに漂う煙りのシルエットに浮かぶ揺らめく尾の様な物体



感染者の身体から、この場の誰しも今まで見た事無い異形の突起物が飛び出していた。



目を奪われ、釘付けになる隊員達



隆起した皮膚を突き破り、血液に染まる不気味な触手が顔を出す。



また、頭部が欠損した動く感染者にも異変が生じた。



欠落したその首から次々と3本の触手が出現し、生え揃っていったのだ



息を呑み、言葉を失う隊員達



立ちどころに身体を硬直させた。



山口「本部へ連絡しろ…… すぐにこの状況を伝えて来い」



モンスター…?エイリアン…?



急激に変異を遂げた奴等の姿に…



中央自動車道防衛隊 指揮官山口一尉率いる隊員達はこれから行われる作戦を前に



未知の恐怖にとらわれ、おののいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



東名自動車道



ドドドドドドドド タタタタタタ



「死ねぇ~カス共~ がぁ ぐっ クッソぉ~ があああ」



「退避だ退避~ F地まですぐに退避するぞ いい そんな武器なんて捨てて来い 早く逃げるぞ」



タタタタタタ 



「いてぇ~ ぎゃああああああ」



足音、怒号、銃音、悲鳴が乱れ飛ぶ高速道



はぁ…はぁ…はっ… は…はぁ…



パニックに陥った現場に…



高速道の路肩付近を一列になって疾走する堀口、中川、新庄、安藤の4名が見えた。



「キャタピラが破損して2輌の戦車が擱座してる 救出は?」



「馬鹿言うな ほっとけ 逃げるぞ」



混乱を極める高速道で最後方を走る安藤が後ろを振り返ると



目一杯眼球を広げ、思わず大声をあげた。



高欄上に非常口案内表示板を目にした堀口



矢印には100メートル先の文字が見えた。



はぁ…はあ… はあ…はぁ…



4人は息を荒げながら爆走している。



「母ちゃん~ 助け…わぁぁぁぁあ」



「やめろぉ~ ぐぎぁああああ」



そこら中から断末魔が響き渡る中



中川もチラリと後ろを振り返るや、後ろでは逃げ遅れた隊員に群れで覆い被さる光景、必死に逃げ惑う隊員等を目にした。



押し寄せて来る奴等の姿



迫り来る奴等の群れがはっきり見えた。



顔をひきつらせる中川



すると こちらに向かって1体の感染者が迫って来るのを目にした。



中川「あ…わぁ」



タタタタ



新庄が走行しながら小銃を発砲



被弾した感染者は即座に崩れ落ちた。



新庄は走りながら弾倉を交換し、辺りを警戒する。



新庄「ぼぉーとするな 死ぬぞ」



キャタピラーが動きバックで走行する複数の10式戦車がスラローム射撃に転じた。



砲塔から煙りを上げ、水平発射されたいくつもの砲弾が群れに突き刺さり爆発を起こす… のだが…



数にものを言わせる奴等の勢いを



誰も止める事は出来なかった…



血祭りにあげられて行く兵士達



食べ放題の食料にかぶりつくゾンビ共



地獄の食堂と化す高速道に大量の血飛沫が舞った。



中川の目には



奴等からがむしゃらに逃避する隊員等の形相



その表情や動作がスローモーションに映った…



これは現実なのか?夢なのか?



理性や思考が遠のき



まるで狭間に落ちた、ぼやけた感覚



混乱を通り越し、完全に頭が蒼白した。



先頭を走る堀口が非常口へと辿り着き、勢い良く扉を開けた。



開けた非常口へ



中川、新庄が外に飛び出す。



堀口が扉を抑えて安藤を待つのだが…安藤が来ない…



中川「安藤は…?」



堀口は小銃構えながらゆっくりと顔を覗かせ、周囲へ視線を配った。



その時だ



堀口の血の気が瞬く間に引いた



路肩には安藤の姿体



その姿体が壁へと押し当てられ、5~6体のゾンビ、感染者が安藤の背中や首、後頭部へと食らいついていた。



堀口「安藤さん!」



夕飯にありつく奴等が同時に振り向き、堀口と目を合わせた。



4体が新たな食料を見つけ、堀口に襲いかかる。



タタタタタタ  タタ



薬莢の落下と同時に接近する4体が銃弾をまともに浴び、後ろへと吹き飛ばされた。



安藤の生死は明らか…



安藤を諦め



堀口がすかさず非常扉を閉めた。



中川「安藤は?」



堀口「残念です…」



すると ものの数秒後に



ダン ドンドン ドン



あっという間に奴等が扉の前に集まり、扉を殴打する。



中川が下を見下ろすや高速道の下には点々と奴等が存在し彷徨いていた。



新庄「はぁ…はあ…はあ…」



中川「最悪だ…これからどうなるんだ…俺達は…?」



班の民間兵4名と安藤を失うも何とか九死に一生を得た3人



堀口は高速道の壁を見上げた。



この壁を登らなければ中が見えない



中はどうなってる…?



この中の状況が知りたい…



そうだ…



そして耳に取り付けた無線装置を外し、堀口は懐から無線トランシーバーを取り出しオンにした。



たちまち飛び交う無線のやり取りが流れ出す



「ジィ こちらSHマルマルサンサン、本部へ 東名自動車道第1防衛ラインを突破した軍勢、F地へ侵攻中です ジジ」



「ザァ 東本部よりシーホーク各機へ コマンドポストとの通信が途絶えた、そちらの状況を詳しく知らせろ ザザ」



「ザ SH0025、地獄です…地獄そのものです…ザザ」



「ザザ 生存する数を伝えよ…ザザ」



「ザザザァ こちらシーホークマルマルハチ 歩兵隊の生存者不明…恐らく…全滅…全滅です… ザザ」



「ザザ 本部へ こちらSH14号機 バック走行で退避する10式戦車5輌がいます Fポイントへの退避行動するのはこれのみです…後は全てロスト… 全てロストです ザザ」



「ジィ SHマルマルロク 東本部へ、奴等が凄い勢いで第2防衛ラインへ侵攻中です もうこの波を食い止める術はありません 速やかに第2防衛ラインの戦闘配備、即応機動、厳戒態勢を願います ジジィ」



「ザザァ こちらSHマルマルジュウニ 前線で擱座(かくざ)する2輌のヒトマル発見 砲身と壊れたキャタピラが動いてます… 戦車の中にはまだ生存者がいます ザザ」



「ザザ 本部よりSH0012へ 救えるか?ザザァ」



「ガァ こちらマルマルジュウニ 戦車が軍勢に呑まれ、奴等に覆われている為…それは難しいです…手は…出せません… ザザ」



その瞬間



地上からある一線の煙が登り



上空を飛行するシーホークに何かが直撃した。



ボカァァァァ



爆発音を耳にした堀口、中川、新庄



中川「え?何の音?」



ドカァァァァ



またも爆発の音



「ザザァ こちらSHマルマルハチ 本部へ、マルマルジュウニ撃墜…何者かに撃墜されました…ザザァ」



中川「撃墜された…?誰にだよ…?」



すると…



ドカァァアアアアアア



大爆発が起き、またも爆音が響き渡った。



「ザザ 本部へ マルマルサンジュウ、マルマルサンサン2機も撃墜…地上から何者かによる砲撃を受けてます…ザザザ」



新庄「砲撃…?どうなってる…?」



「ザザ 本部よりSH008 誰に砲撃を受けてると言うんだ?現状を詳しく報告せよ ザザ」



「ザザ 不明です…至る所からロケット弾が… あ!奴等の群れの中から上がってます、グレネード弾2、ロケット弾が5です…只今集中砲撃を受けてます 直ちに退避命令を ザザザ」



中川「は?群れからロケット砲?」



堀口がいきなり壁をよじ登り始めた。



「ザザ 本部よりSH008 ゾンビの群れから砲撃を受けてるんだな? ザァザ」



「ガガァ こちらSH14…テールローターに被弾…機体の安定取れません…操作不能…墜落します…ザァァァ」



堀口が壁から身を乗り上げ、高速道を見渡すや一機のヘリが群れの中へと墜落した。



ドカアアアアアア



それから爆発、炎上を起こした。



上空には仲間のヘリが4機旋回している。



「ザザザザ… 部より…機へザザザァァ…避しろ…ザァ」



そして、堀口の目にありえない光景が飛び込んで来た。



「ザァ 本部へ よく聞こえませんでした。もう一度お願いしますガァ」



地上から数発もの放物線を描き、ミサイルがヘリに撃ち込まれたのだ。



回避行動するシーホーク



堀口は小銃の照準器を覗き、正体を突き止めた。



ズームアップしたレンズの先には、ロケット砲を肩に担ぐ、感染者の姿



迷彩服姿の元自衛官らしき感染者の姿を捉えた。



驚きを見せる堀口



まさか…自衛官の感染者…ホントに奴等が…使用したのか…?



そして他の奴を探す為照準器で辺りを探るや、今度は無反動砲に砲弾を詰める感染者の姿を捉えた。



またも自衛官らしき格好の感染者だ



間違いない…奴等の仕業だ…



そいつがヘリに向かってカールグスタフを構え始めた。



撃たせない…



堀口はそのまま感染者のこめかみへと照準を合わせ



タァン



発砲した。



一発で見事にこめかみを撃ち抜き



堀口が無反動砲を放つ寸前に感染者をしとめた。



だが…その即時に…



四方から6発ものロケット弾が同時に空へ飛び、4機のヘリを貫いた。



「ザザザ SHマルマルハチ 本部へ…正体は変異体です…火砲を構える奴等を発見………」



ドカァァアアアアアア ドカドカァァァ



連続で爆発音が鳴り響いた。



その後、メインローターの一本の翼が中川、新庄の頭上を回転しながら飛び去って行った。



中川「またかよ…今度は何だ…」



「ジィ SH008 どうした?応答しろ…008…008…応答せよ…ジジ」



直撃を受け、空中で爆発した2機のシーホーク



もう1機は錐揉みで頭から落下し爆発



もう一機も機体の側面から地面へ落下し、炎上した。



茫然とする堀口の前で…



8機ものシーホークが全機撃墜された。

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