第162話 芹沢

大きな落下音が鳴り…



また何処かが崩落した…



手すりが揺れ…床や壁、天井が震動した。



天井から細かな破片やチリが砂の様に落下し、芹沢の手前で零れ落ちる



また非常口の扉、その隙間から火災の煙が室内へと入り込み



いよいよ最下階まで火災と崩落の危機が迫りつつある



タイムリミット 残り 約2時間00分



2階通路 



芹沢vs長身な特異感染者



首無しの仁王立ちする身骨



前後にユラユラ上半身を動かし、肩から怪異に揺曳する触手群



その触手群は生命力に満ち溢れ、豪気に躍動している。



首を落とせば確実に死ぬ筈なのに…



目の前のこいつはやはり今までの奴と違う…



この高層ビルに来て、次から次ぎへといろんな事が巻き起こり



イかれた化け物を見てきた…



もう…これ以上何が起きても驚かない自信があったのだが…



頭が無いのに動く身体…



奴等は頭を破壊すれば活動停止する筈…



なのに…



噛まれると感染する…それと同等に、それは基本中の基本な事で、それがこいつらに適用する唯一の常識だった…



なのに…



目の前のこいつは…今…頭無しでも動いている…



たった今…その常識と固定概念が崩れ去った芹沢



なんでこいつは動くんだ…?



芹沢は困惑した。



一体何なんだこいつは…??



ただ立ち尽くす特異者へ芹沢が驚きの眼差しを向けていると



トスミクロン砲をモロに受け、消滅した断面、その焼け焦げた皮膚の切断面が急激にボコボコと隆起し始めた。



まるで煮えたぎる泡の様に、気泡に似た無数の盛り上がりが現れた。



それを警戒する芹沢



今度は何だ…?



ボコボコと皮膚を盛り上がらせ、次第に激しさを増す隆起



何かが皮膚を突き破ろうと蠢いている。



芹沢は2、3歩後退り、特異者から距離をとった。



今度は何が始まる…?



眉間にシワを寄せ、球体を特異者へと向けた。



すると 突如触手群が肩から生え、伸ばし、手すりへと絡み付けた。



特異者が小刻みに全身を震わせている



また一歩…芹沢が後退した その忽如に



血液をぶちまけ、突起物が皮膚を突き破り首から生えてきた。



芹沢の眼前で妖しく伸びて広がる新たな触手が出現したのだ



血が滴る硬質化した3本の触手



その内1本は捕食用なのか…



触手に口がついていた。



牙の生え揃う触手が空中を浮遊し



その触手が芹沢へ向け、口を開口するや牙を剥いた。



こいつ…



攻撃態勢で身構える芹沢に



急速に空中を蛇行し襲いかかる触手



芹沢はすかさず鋼糸を発射させた。



敏速に放射した糸を巻き付かせ、手首で操作するや軌道をズラし触手の動きを止める。



緊縛された触手が空中で停止、もがきながら口の開閉を行っている。



そして芹沢が球体に手を触れ



躊躇なく揺すった。



骨までぶった切る鋭い刃へと変化する鋼糸



触手へ巻きつく糸へ送電、送熱、送振が伝達したのだが…



触手に何の反応も現れない…



輪切りになる筈の触手が切断されずにいた…



なに…?



不測の事態に芹沢は戸惑った。



そしてもう一度球体を揺すった。



のだが… やはり何の変化も示さない…



馬鹿な…



決して球体の故障では無い



確かに伝道している



なら何故…?



当惑顔の芹沢に逡巡や焦慮が去来



予期せぬ事態に次の一手を失った。



そんなためらう芹沢に、逆に特異者から次の一手が繰り出された。



ハッとさせる芹沢



首から生えたもう2本の触手が飛行して来た。



顔面目掛け飛来する触手を、芹沢は串刺し寸前でかろうじてかわし、触手が通過



そして



頬を掠め、後ろの非常扉へと突き刺された。



ギリギリ回避に成功したのだが同時に激痛が走った。



右の耳が痛む… そして何も聞こえ無い…



音を失った右耳



恐る恐る右耳へ手を当てるや手の平には血がベットリとこびりついていた。



芹沢がチラリと後ろへ振り返るや床には己の落ちた右耳



もう1本の伸びた触手が扉へと突き刺さっていた。



いつの間にか…



もう一本の飛来した触手により…



右耳をもっていかれていた…



えぐられた傷口を手で触れながら



芹沢は長身なる特異者を睨みつけた。



野郎… やりやがったな…



断裂不能な触手、見るに耐えないおぞましい容姿へと変貌を遂げた特異者に



許さん…



芹沢の怒りに火が点いた



再度特異者へと球体が向けられた。



口付きの触手を捕らえまま、蓄電された球体



振動率 MAX強…



連続したら壊れちゃうかもしんないけど…



テメェーにはもう一発かまさないとね…



芹沢は右の手首をガッシリと左手で掴み、固定と反動に備えた。



ブラスト…フル全開…



しかも今回は…今までやった事ないけど…初の応用技を披露しちゃるよ…



技名…技名…



え~ 思いつかねぇ…



まぁいい…



この俺に傷を負わせ、噛みついた事を懺悔しながら…死にさらせ…クソノッポが…



行くぜ…



芹沢「ネオ・トスミクロン砲」



再度繰り出される芹沢の必殺技



何本もの重なる太い1糸の束が球体の開口部から放たれ



飛び出した。



直線的に瞬速で放たれた糸砲が



特異者の腹部を見事に捕らえた。



身体の中心を貫く糸砲



その糸砲の三倍以上の大きな穴が身体に開いた。



芹沢が口角を上げ笑みを浮かべ



これで終わりじゃないよ…



こっからがとっておきの応用技だ…



滅殺…



すると一束する数十本の糸が一気に解かれ



円形状に全方位へと拡散された。



内部から細切れにスライスされた特異者の身体



数十本の白い触手もたちまち細断され



本体が跡形も無く分裂



100ピース以上もの断片され、スライスされ、肉片が周囲に散らばった。



硬質化した3本の触手のみを残し、あっという間にバラ肉にされた特異者



パクパク動かす口付きの触手がしおれて、うなだれ、こうべがダラリと垂れた。



扉に突き刺さる触手も急激に生気が抜け落ち、見る見る萎みながら床へと落ちて行く



ハハッ…



俺の勝ちだ…



芹沢「ふ…ふふくくくくく」



どの軍隊も…どんな殺し屋も…世界中探したって…どこに行ったって無い…俺だけのオリジナリティなこの武器…



この無敵の武器を手にする限り…



おまえ如き化けもんなんかに負けないんだよ…



悪童の凶悪な目つきとなり



余裕の笑みが蘇った芹沢



さて…そろそろ本来の目的に戻ろうか…



手足切り落として…命乞いさせてやるよ…



手足切り落として…たっぷり犯してやるよ…



地獄を見せてやんねぇーとな…



なぁー理沙…



それと…エレナ…

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