第158話 必殺

理沙の瞳が猫目の線状から一気に膨張、白眼部分が全て黒目に覆われた。



エレナを取り囲む様に放出された触手が浮遊



理沙「さぁ もういい加減満足したでしょ エレナ あなたはただの食料なんだからこれ以上戯れるつもりはないの」



理沙から発する目に見えぬ膨大なエネルギーが再度吹き出され



さっきよりも強力な邪気が瞬間的にホール内を包み込む



なんとも言いようのないビリビリと肌へ感じる嫌な気…



エレナの肌へそれが絡みつく様に伝わってきた。



また更に脅えるゾンビの集団



それは純やにも感じられた。



なんだ?この嫌な感じ…?



まさか… これがあいつから発せられてるのか…?



理沙を目にし、焦りの表情を浮かべる純や



それは… 純やだけじゃ無く



ハサウェイ、由美、矢口も同様に感じていた



霊的な感覚



あいつはヤバい… 気をつけろ…



あいつは危険だ…すぐ逃げろ…



近寄るな…



それぞれの防衛本能がそう注意喚起、危険信号が体内から発せられた。



矢口「なんだよ… あいつ…」



ハサウェイ「く……」



理沙から湧き出る、もの凄い邪気(オド)を皆が感じる中



エレナの瞳は一切臆していなかった。



至近距離からショットガンで狙っている。



この距離からヒットさせれば



確実に…1発で頭は吹き飛ばせる



エレナの眼光が鋭さを増し



ベネリショットガンの引き金に添える指を弾こうとした



その時だ



ある物がエレナのこめかみに押し当てられた。



理沙「ジャッジャジャ~ン」



それは触手を器用にコントロールし、握られた拳銃



ニューナンブの銃口がエレナのこみかみへと当てられていた。



一方… 2階通路では



蜘蛛の巣の様な糸の防壁を張る芹沢



芹沢「はぁ…はぁ」



苦しげに呼吸を乱し、脇腹を押さえていた。



傷口が再度開き、包帯に血が滲んでいる。



また腕や肩、太腿や胸部に至るまで多数の刺衝、斬撃の傷が見られていた。



なんだ… この…疾雷の攻撃…



動きが全く見えない…



チッ… クソノッポが…



阿弥陀仏の僅かな釁隙(きんげき)を針を通す様に突いてくるあれ…



顰蹙(ひんしゅく)する芹沢がそれに目を向けていた。



長身な特異感染者の切断された5本の指



その5指全ての断面から細く長い白い物が突出していたのだ



今まで見てきた触手とは明晰に違うデフォルメ…



今までとは明瞭に異なる空中をぬたくる、ひも状の突起物



その5本の白い触手らしき物が指から生え、正確に穴を抜う攻撃を仕掛けてくる



芹沢「はぁ はぁ」



こいつは…



さっきのザコとは明らかにレベルが違う…



特異感染者が再び腕を動かすや



来る……



芹沢が気を張り、全身に力を入れたと同時に



張り巡らす糸の間を1本の細い触手がすり抜け



芹沢の左腕肘部が浅くハスられた。



芹沢「ぐ…」



触手が即座に引っ込められ



今度は通路より外へと2本の触手が伸延された。



空中で半円を描き



通路に張り巡らす糸の壁を弧状で迂回し、飛んできた。



そして、鞭の様にしなった細い触手が周り込み、芹沢の脇腹へと強打。



芹沢の口から唾が飛沫し、もう1本の触手が太腿へと打ち込まれた。



触手の鞭でシバかれ、よろめいた芹沢



芹沢はたまらず片膝を着き、咳き込んだ



なんだ… この急に重い打鞭…?



鋼糸よりちょっと太いくらいのひも状なのに…



痛みが全身を駆け巡り、芹沢は全身が軋む程のダメージを被った。



こんなの何回も喰らったら… まじヤバい…



無双だった芹沢の表情は歪み、各所の刺創に手を触れた。



これ以上のダメージは死に直結する…



クソッタレノッポ…



芹沢は人形の様に無表情な特異感染者へと視線を向けた。



巧みに操る白い触手が不気味に浮遊



出し抜けに次の動作が始まった。



特異者が再度指をかざすや



5本の触手を伸ばすと同時に



芹沢が眼を光らせた。



1~2秒間のまばたき一つの世界



気づけば



芹沢の喉元数ミリ手前には束ねられた5本の白い触手が停止



ギリギリ手前で多量の糸によって触手が絡め捕られていた。



そう…



特異者が指を前方へ差し向けた…モメントに



前から来る…



そう判断した芹沢



触手発射のタイミングに合わせ、糸防壁の半分を即座に解除、そして隙間を通過するタイミングに合わせ糸を収縮、残りの防壁に糸を引っ掛けながら見事に絡め捕っていた。



絶妙に半分の糸が半分の防壁へと引っ掛けられスピードが殺され、キャッチされた触手群



ほぼ勘だけで行われただろうこの作為



芹沢の一瞬の判断が功を奏した。



捕まえた…



調子に乗るなよ… くたばり損ないの背ぇ高ノッポ…



すると



まるで生き物の様に螺旋に絡みながら糸が伸び特異者の手、腕へと巻きついて行った。



触手はもとより左肩まで侵食し巻きつかれた鋼糸



芹沢が小声で口にし、球が揺すられた。



芹沢「chopped」



そして一瞬にして輪切りにカッテティングされる左腕



2センチ単位の肉片が左肩から順々にボトボトと落ちた。



ざまぁ…



口元を緩めた芹沢がレンズにヒビの入った眼鏡を放り投げるや



逆寄せ開始だ… バラ肉にしてやるよ…



逆襲に転じようとした



その時だ



今度は切断された肩の断面から無数の白い触手が生えてきた。



傷口から密集して突出する白い触手



10本…いや20~30本はある…



それを目にした芹沢



うぜぇー… またかよ…



だが… もうそんなん驚かねぇーよ…



バーカ…



たちまち収納される糸



こうなったら…



体内から細胞全てを焼き尽くしてやるよ…



芹沢が球体を特異感染者へと差し向けた。



右手首を左手でガッシリと掴み



マイクロ波蓄電…



超振動率 MAX強…



熱電フルパワー…



ブラスト全開…



言ってしまうよ…



漫画やアニメみたいに必殺技繰り出す時、いちいち名前とか言っちゃうやつ…



喰らぇー必殺とか… あれ… 普通に言っちゃうよ…



行くぜ クソ化け物…



芹沢「喰らいな トスミクロン砲」



そして



球体からぶっとい糸が長身の特異感染者へと放たれた。

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