第157話 虫蛆

3体の四足歩行型感染者が人間を凌駕するイかれた跳躍力を見せた。



2体は片手で手すりの鉄棒を掴み、ブラブラとぶら下がって身体を揺らし



もう1体は鉄棒を掴んだ後、そのまま手すりを飛び越えた。



続いてもう2体も手すりを乗り越え、同時に2階通路へと着地



奇形人型感染者は頬と肩から生える触手を伸ばし、手すりに巻き付けるや急浮上



芹沢の背後へと着地させた。



チラッと背後へ振り向く芹沢



前に3体、後ろに1体と奇形体に挟まれた。



「グルゥゥウ」 



威嚇に似た唸り声を上げる獣屍人



鞭の様にしならせ、ブンブン触手を振り回す寄生獣



地に着ける4本の足へ



芹沢は着眼し狙いを定めるや冷静な顔つきで、3体の獣鬼へ放糸した。



扇状に拡散された鋼糸が低空で獣型の足許へ飛翔



反応素早い3体が同時に空へと跳躍した瞬間



新たな糸が飛行



3体を空中で捕縛した。



馬鹿がぁ… クソ猿もどき… さっさと分断しちまえ…



3体まるごと巻きつき全身に絡めた糸



芹沢によって即座に球体が揺すられ



四足歩行型奇形感染者3体がたちまち空中で裂断された。



空中で分解されたパーツ



輪切りにされ、ボトボトと肉片が床へと落下する。



そして、今度は



テメェーも うぜぇーよ…



芹沢が振り返り、すかさず鋼糸を発射



スパイダーネットの様に、奇形人型感染者の全身を包み込んだ。



サイコロになれよ…



そして球体が揺すられ



眼鏡のレンズや頬に鮮血が付着した。



圧倒的 鋼糸の力を前に4体の奇形体が一瞬にしてバラバラ死体と化した。



芹沢は2階から理沙を見下した。



理沙「ハハ やるじゃん」



そんな芹沢を笑顔で見上げながら



理沙「へぇ~ ちょっとは…」



ちょっとだと…?



芹沢「…」



理沙の浮かべる笑みの奥に含む怒りが見られた。



理沙「あなた… あいつを殺りなさい」



すると長身な特異感染者が理沙の一声で跳躍、いつの間にか手すりへと移動していた。



なんだ… このノッポ



芹沢の目つきが鋭くなる



そしてその手すりを飛び越え、長身なる特異者が芹沢の前へと着けた。



それを見上げ、白い歯をこぼす理沙がこっちに向かって来るエレナへ気を向けた。



目を細め、にんやりさせながら



理沙「あはぁ まぁ いい子ねぇ~ エレナぁ~ 理沙グルメだから…心臓かぁ~ 脳味噌かぁ~ ちょっと迷っちゃったんだけどぉ~ 決まったよ~ やっぱ脳味噌から食べてあげる」



エレナ「…」



餌を食らいたい…



奔波する食欲と迸る(ほとばし)本能を抑え込まれている感染者達…



感染者同様、そんな衝動を必死に抑え込んでいる様子のゾンビ達…



奴等の畏敬とも言える理沙への忠誠ぶり、忠実ぶりがはっきりと伺える。



理沙の命令と言う制御でその場から微動だにしない、手を出して来ないゾンビの道を…



エレナは威風堂々とした歩調で中階段へと進んで来た。



互いに視線を合わせたエレナと理沙



理沙「なぁーんかさぁー どうも理沙達が悪い奴みたいな感じがするんだけどさぁ 言っとくけど食べる事は何も悪くないんだからねぇ~ このほしの生き物は誰かが生きる為には誰かを犠牲にしてる訳でしょ 生きる為には他の生き物を食べなければ生きていけないんだから これはあの方達が地球上の生物に科した設定なんだからねぇ~ 食う食われるは当たり前の原理原則じゃない?これを残酷だと思う?エレナ… 理沙達があなた達を食べて何が悪いのかなぁ?」



エレナ「…」



理沙「それにあなた達だって…豚さんや…え~と牛さんや鶏さん…お魚さんだって…野菜だって…殺して食べてるじゃない… 他の種を糧にしてこそ、今まで生きていられたのよ それが食べられる側になっただけ… それだけの事よ」



ジッと理沙から目を離さないエレナ



理沙「だからさぁー 結局あなた達は単に捕食される側になっただけなんだから… ただあなた達に特化してるだけで、理沙から見たらあなた達は牛さんやお魚さんと同じなんだから 素直に受け入れて食べて貰いなよ」



6本の触手を引っ込め両手を合わせる理沙



理沙「そんな中あなただけは特別なんだからぁ 理沙がじっくりと賞味してあげるのよ 嬉しい事でしょ」



その時だ



落ちたショットガンが迅速に拾われ…



ガシャ



フォアエンド(先台 ベネリはポンプ式じゃないですが…まぁポンプ式で<m(__)m>)がスライドアクションされた。



素早く構えられたベネリ



理沙の眼前に銃口が光る



同時にエレナの鋭い眼差しが理沙を射抜いた。



エレナ「へぇー そぉーなの理沙  なら…草食動物だって…お魚だって、死にたくないから必死に抵抗はするわよね 必死に生きようと捕食者から逃げ延びたり、時には撃退する事だってあるわよね 私はあんたの生贄になるつもりはないの それとあんたをここから出すつもりもね」



理沙「強がりは止めなよ… 食われて滅びる運命は変えられない 潔く食されなよ」



エレナ「神様が決めたのなら、いっそ消しゴムで消す様に私達を消しさればいい…それが出来ないのなら…私達人間は最後まで諦めない… 例えそれが自然相手だろうと…」



理沙「相手は創造主よ」



怒りの表情へ変わったエレナ



エレナ「だから もし神様なら一瞬で人類を消し去ってみろってんだ それが出来ないのなら神だかなんだか知らないけどスッこんでろ 私達の相手はおまえ等虫だぁ 絶対あんた達なんかに負けない 私がこの手であんた達を駆除してやる」



理沙「うふふ… キャハハハハハ…フフフフフ あ~ おかしぃ~ こうゆうのを負け犬の遠吠えって言うのかちらぁ~」



ドォン



傾けられた銃口



ベネリショットガンが火を噴き、スラッグ弾が理沙の顔面を横切った。



なびく理沙の髪



エレナ「本来なら 今ので顔が吹っ飛んで終わりなんだけど、聞きたい事がもう一つあるから外してあげたの もう一つ質問に答えろ理沙 その…あんたの中に潜む… 人を乗っ取ってる虫は何なの? その正体を教えろ」



再度ベネリの銃口を額へと向けた。



次は散弾が発射される…



もし…答えなければ…



理沙「いいよ~」 



答えなければ即座に吹き飛ばしてやるつもりだったが思わぬ理沙の素直さにエレナは驚きの顔を見せた。



理沙「…この際特別だからあなただけには教えてあげるよ」



エレナ「…」



理沙「そう… この子達こそあなた達の身体を動かす媒介として選ばれた寄生虫だよ…」



やっぱり寄生虫か…



エレナ「名前は?」



理沙「さぁ 人間が決めた名前なんて知らなぁ~い、ただ一時的な媒介としての借り物だからね この子達はあなた達人間が一匹残らずいなくなれば、また、すぐに普通の虫へと戻るから」



エレナ「やっぱり寄生虫を利用してたのね…なら治す方法は?」



理沙「ブッブー それは教えなーぃ」



エレナ「なら…身体の何処に取りついてるの?頭なの?心臓なの?」



理沙「ブッブー どっちも違う~ 正解は生殖器だよ あ もうこれ以上は駄目駄目~」



せいしょくき…??



理沙「そんな事より それぇ~」



理沙が再び掌から触手を伸ばし始めた。

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