第156話 四体

1階エントランスホール



ハサウェイ、エレナ、純や、由美、矢口VS芹沢VS理沙率いるアンデッド



純や「あの野郎 本当に現れやがった」



ハサウェイが小声で矢口へ



ハサウェイ「矢口さん 弾はあと、何発残ってますか?」



矢口「マガジンに入ってるののみです…10発あるかないか」



ハサウェイは手探りで筒の矢を数えた。



残り5本か…



中階段に落ちてる散弾銃とその手前に転がる金属バットを目にするハサウェイ



ハサウェイ「由美ちゃんは?」



由美「30発ぐらいです」



ハサウェイ「弾も矢も全然足りない…あいつの一声でこいつらすぐに襲いかかって来るぞ」



純や「芹沢が今目の前にいます…今が奪うチャンスですよ」



ハサウェイ「馬鹿言うな こんな状況で狙えるか…こいつら100体…いや200体はいる…まずこいつらを何とかしないと…」



純や「何とかって…この数をどうやって?」



ハサウェイ「それを今考えてる…とりあえずここは分も場も悪過ぎる…きっとすぐに混戦になるぞ…」



三者が対峙するホール内



高見から見下ろす悪逆無道な若者



ヒビの入る眼鏡の奥には…



芹沢のその目には殺意や蔑み、嘲りの他、痛手を負った憎しみや憤怒、思い通りに行かなかった憂えや逆恨みの念が宿っている。



芹沢は脇腹を抑えながら理沙へ



芹沢「おい クソビッチ おまえに貰ったこの傷… 非常に痛むんだよね…」



理沙「あ… あ~もしかしてあなたあの時のぉ~」



芹沢「忘れてたってかぁ?」



理沙「覚えてらんないよぉ~ どうせ消えて失くなる種の事なんていちいち…」



芹沢「なら… もう忘れないようにしてやんよ」



芹沢が左指で球体をデコピンした。



すると



たちまち糸が流伝し、長身な特異感染者の左手5指全てが瞬時に切断された。



キレイな断面で切られた5本の指がボトボト床に落ち、急速に糸が収納された。



理沙から笑顔が消え、芹沢へ向け掌をかざすや1本の触手が伸ばされた



螺旋を描く高速な触手が一瞬にして芹沢の上体へ到達



芹沢の身体に巻きついた。



そしてそのまま引き寄せようとした寸前…



触手が切断される



途中で分断された触手のみ空しく主の元へと引き戻された。



芹沢が鋼糸を使い、触手を断ち切っていたのだ。



理沙「わぁーおー 切られちったのぉ~」



ほくそ笑む芹沢が巻きついた触手を剥がしながら



芹沢「俺の糸とおまえのその糸…力の差は歴然のようだな こっちの方が優れてんだよバァーカ」



切られた触手を眺める理沙



解かれた触手が床へ投げ捨てられ



芹沢「今後… おまえを殺さないと寝つきが悪くなりそうで… 晴れた気分でここを出たいんだよ… だからおまえには小間切れのサイコロステーキになって貰うよ」



口角を上げ



芹沢を見上げる理沙もにやついた。



理沙「ヒャハ やってみなぁ~ いっくよぉ~ ヒューマンめぇ~」



理沙がおどけた笑顔で芹沢へ両掌を差し向けるや



今度は6本もの触手を伸長させた。



蛇行や弧を描き、様々な角度から速延する触手



馬鹿がぁ…



にやつく芹沢が球体から10本以上もの糸を放出、飛来してくる触手を次々に捕まえた。



その後、ボタボタと切られた触手が床へ落ち、弱々しくうねり、這いずった。



理沙「ゲゲッ」



キレイに焼き切られた断面



6本の触手が空中を浮遊している。



芹沢は眼鏡のブリッジフレームを中指で上げながら



芹沢「無駄だよ… 化け物ビッチ」



理沙「フフフ… う~~~ん」



芹沢「…」



理沙が気張った。



すると 生える6本の触手が抜け落ち



理沙「う~~~ん…… エィ!」



掌から新たな触手が飛び出してきた。



新品に生え揃う触手の一叢(むら)



芹沢「…」



再生能力とか… ナメック星人かよ…それか…



芹沢「…トカゲかよ…」



理沙「キャハハハハハ… 面食らっちゃってぇ~ ビビっちゃったぁ?ハハハ… あ~ おかしぃ」



途端に額から脂汗を滲ませる芹沢



芹沢「化け物がぁ…」



理沙、芹沢両雄が対立する中



エレナの意識が回復



エレナが飛び起きた。



純や「エレナさん」



由美「エレナさん…良かった…」



ハサウェイ「平気か?」



エレナ「う…うん」



状況を見失ったエレナは慌てて辺りを見渡した。



周囲へ銃を向ける矢口の背中が映り



その先に理沙と争うあの男の姿がエレナの目に映り込んだ。



エレナ「芹沢!?」



ハサウェイ「エレナ 流石にこの数相手はマズい… 一旦ここは退くぞ」



芹沢と理沙を茫然と見詰めるエレナ



芹沢… やっぱり来たのね… やっと見つけた…



ハサウェイ「立てるか? ひくぞ」



ハサウェイ… 駄目… 退けない…



神の天罰も…人の運命も…もし…そうならそれも仕方がないのかなと思う…



そんな地球規模な事… 私にはどうする事も出来ないし何も考えられない…



だけど… どうしても今やらないといけない使命が2つある…



1つは理沙… アンタの好きにはさせられない事…



例え相手が神の使いだろうと…聖なる執行者だろうと…



あんただけは… 死んでも私が阻止しなければならない…



そしてもう一つは… 腹を空かし、餓死寸前な生存者達をここから救い出したい… 



みんな助けたい…



江藤さんも救いたい… 全員連れて帰りたい…



そんな少数の命とか言われるかも知れないけど…



大事な命…



私は近くにあるこの尊い命をただ守りたい…



それだけでも救いたいの…



どうしても助けたい命がここにある…



だから… 今…逃げる訳にはいかない…



なぜなら… 目の前に脱出するその鍵がいるから…



エレナ「いけない…」



ハサウェイ「え?」



だから… 渡して貰うわよ…芹沢…



エレナは立ち上がり、突然歩き始めた。



ハサウェイ「おいエレナ 何処へ行く?」



エレナ「決着つけなきゃ」



エレナが理沙、芹沢の元へと歩を進め出した。



ハサウェイ「エレナ 待て 戻れ」



ゾンビの道をひた進むエレナの後ろ姿を目にするハサウェイ



純や「どうします?」



ハサウェイ「クッ エレナを置いてはいけない…」



理沙「もういい?理沙… あなたの相手するのつまらなくて」



つまらないだと…?



芹沢が急激に形相を変えた。



また理沙が瓢忽(ひょうこつ)に右手を挙げながら



理沙「はぁ~い ではっ成虫さん 出番ですよ~ 出てきていいよぉ~」



理沙の掛け声で4つの唸声がゾンビの群れから聞こえ、その群れから飛び出して来た。



3本の不気味な触手を生やし



3体の四足歩行する奇態なる化け物共



それと1体の奇形型感染者が姿を現した。



興奮しはじめるゾンビや感染者の群れ



突如姿を現わす4体にエレナ、ハサウェイ、純や、由美、矢口…



そして…芹沢が瞠目した。



「ぐうぅぅぅ~」 「クフゥ~ クフ~」



理沙「フフ さぁあなた達~ あいつを食べてどーぞ」



芹沢を指差した理沙



さぁ… 跡形も無く食べ尽くしちゃいなさい…



理沙からテレパシー的命令が4体の奇形型感染者へ下された。



「殺れ」



たちまち4体の奇形体が芹沢を見上げ



「グルゥゥウ」 「フゥーフウー」



4体同時に芹沢に襲いかかった。

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