第155話 特命

関越自動車道



ゾンビの頭部が弾け、血液と脳味噌が飛び散った。



空中旋回する数機ものヘリコプターから銃弾が撃ち込まれ、射殺されて行く生ける死者達



後方支援火器ミニミで武装したシーホークが長く延びる死者の行進に銃弾を浴びせている。



航空援護射撃も加わり最高潮に達する激戦のさなか



死屍累々する感染者やゾンビの肉塊が許多にも転がって行った。



またサンダーストームから吐き出された榴弾が弓なりな弧状を描き、椎の実弾がハイウェイに突き刺された。



苛烈を極める戦場にヒトマル戦車の砲口からも煙りが上がり、各所で爆発



奴等の四体が舞い上がった。



鳴り止まぬ連射音



とめどない砲撃の爆音



面白い程に奴等がフェンス前で仆死(ふし)している。



白熱する銃、砲撃で奴等をフェンス前で何とか食い止めているのだが…



巨多な軍勢



殺しても殺しても、鉄条網フェンスには後から後から奴等が到達



フェンスに張り付き激しく揺すっている。



その揺すられるフェンスが…



その固定したボルトが徐々に緩み始めている…



ーーーーーーーーーーーーーーーー



東名自動車道



タタタタタタ タタタタタタ



堀口陸士長「弾倉下さい」



タタタタタタタタタタタタ



安藤修士「どうぞ」



タタタ タタタタタタ



中川2等陸士「安藤!こっちもくれ」



新庄「俺も」



安藤「どうぞ」



89式小銃のマガジンを交換するや、ひたすらゾンビ等へ撃ち込む、堀口、中川、新庄の姿



タタタタタタタタタタタタ タタ



関越同様、激烈な銃撃戦が繰り広げられている。



耳が麻痺して何も聞こえない程の五月蝿い噪音が鳴り響く中



中川「何日間撃ち込まないといけないんだ…これ…?」



安藤「はい?何か言いました?」



中川「何でも無いよ…」



タタタタタタ タタタタタタ



次から次へとフェンスに張り付き、よじ登る感染者達



次第に圧力と重みでぐらつき始めたフェンス



フェンスがもたない…



誰しもがフェンスの倒壊を予期した。



中川は堀口へ近寄り耳元で口にした。



中川「陸士長、このままだとフェンスが破られます」



堀口「えぇ…分かってます… でも今は撃ち続けるしか手だてがありません」



中川「しかし…」



堀口「指示が来るまで勝手に持ち場を離れる訳にはいきません」



あのフェンスは直に破られる…



もし…破られれば、奴等が一気に押し寄せて来る…



この場にいる全ての歩兵隊員が同様にそれを感じ、恐怖を共有した。



後方までの撤退はまだかよ…?



やべぇーぞ…これ…



撤退指示はまだか…?



「おい 上からの指示はまだか?」



「早く撤退されてくれよ」



騒然とする隊員達



恐怖が拡散し辺りを包み込んだ



ーーーーーーーーーーーーーーーー



京都府 京都市 上空



プロペラの回転音を響かせ、2機の陸自用攻撃ヘリコプター AHー64D アパッチ・ロングボウが機体を現した。



後続にはアメリカ軍のAHー56 攻撃ヘリコプター シャイアンが1機



次にAHー1やAHー1Wなどの10機もの コブラ、スーパーコブラが飛行している。



次いでアメリカ軍の戦闘捜索レスキューヘリコプター HHー60 ペイブ・ホークが2機



MHー60S 汎用ヘリコプター ナイトホークが2機



UHー60JA 自衛隊用の多目的汎用ヘリコプター ブラックホークが2機



Vー22 何かと世間を騒がせた、アメリカ軍の最新鋭輸送機 オスプレイが4機



また…軍用以外の輸送ヘリも後続から飛行し現れた



ベルやシコルスキー、ユーロコプター社製の警察ヘリ、ドクターヘリ、山岳レスキューヘリ、消防救助ヘリ、民間企業用ヘリが10機



そして最後方にCHー47JA 大型輸送ヘリコプター チヌークが10機と計30機の救出ヘリコプターが飛行している。



轟々たる羽音を鳴らす飛行船団だ



1機のオスプレイに搭乗する30名の隊員等が何やらボディーアーマーに身を包んでいた。



ビデオカメラが取り付けられたヘルメットにはGPSアンテナ、通信データや視察データ画像、マップや照準装置を処理するサブコンピューターが内蔵され、ヘルメットから延びる右目を覆うスカウンターの様なディスプレイが見られる。



また左腕にはリストバンド型の小型パソコンが備わり、背中に取り付けられたバックパックにはEPLRS、通信機、携帯型メインコンピューター、バッテリー、接続用モジュールなどが収納され、脇腹辺りにはGPSユニット、胸にはコントローラーなどが見られる。



まるで近未来の兵士を思わせるハイテクな機器を纏う兵士達の姿



米陸軍が現在実施している、次世代統合型歩兵戦闘システム



FCS フューチャー コンバット システム



通称ランド・ウォーリアーシステム



バッファー准尉から基地へと運ばれ、物質と共に受け取ったこのシステム



早速 1部隊に実戦投入されようとしているランドウォーリアー隊だ



「AHコブラ マルマルロク WP1からWP10までの座標及び承認コード確認」



「こちらCHチヌーク隊008 目標降下地点までおよそ800メートル、目標地点への降下態勢に入ります」



「MHナイトホーク マルヒトより本部へ WP5の進路座標確認、13、62了解 LZ(着陸地点)視認致しました 着点まで3分弱」



「え~本部へ こちらV22オスプレイマルニー(02)目標降下ポイントへ接近、これより散開します。ブレイク開始」



「本部へ こちら救出隊司令機CHチヌーク ジュウ 只今国道を走行中の第5、第8、第13の部隊を発見 退避する車両を確認しました」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



京都府 舞鶴市 海上自衛隊航空基地

通信司令室



モニター画面を見詰める宮本



飛び交う通信に耳を傾けている。



「ザザァ こちら司令機CHジュウ 救出隊各機へ 作戦通り所定位置へのヘリボーンを開始せよ 地上班は降下後敵のアタックへ厳に警戒しろ ザァ」



通信兵18「Dポイント ブラックホーク降下始まりました」



通信兵22「MH02着陸地点到着 ラペリング展開中」



「ザザ 本部へ こちら中央自動車道防衛基地 現在防衛戦良好 01式の擲弾と並行して87式対戦車用誘導弾の使用許可願います ザァ」



「ザザ 東本部了解 MMAT(タンクバスター)の使用を許可する 奴等に撃ち込め ザァァァァ」



「ザァ 中央道コマンド基地 了解 ザザ」



通信兵8「MH01ナイトホークもWP5到着 降下開始」



「ジィ こちらCHマルナナWP2到着 目標ポイントから向かいのビル屋上より降下開始します ザァァ」



通信兵2「本部了解」



通信兵12「戦略ポイント1から10全て作戦開始されました」



頷く宮本の元にもがみ一等海佐が近寄って来た。



共にモニター画面を見詰める2人



もがみ「始まりましたね」



宮本「あぁ」



もがみが東名、関越、中央を映すモニター画面を眺めながらある一言を口にした。



もがみ「このような事態が起きるなんて… まるで何かに引き寄せられてるみたいですね…」



宮本はもがみへと振り向いた。



宮本「引き寄せられてる?」



もがみ「えぇ…同時に波が同じ方面を目指してる様に見えます…」



数秒間無言で目を合わす宮本ともがみ



宮本「こいつらみんなが何かに引き寄せられてるか…」



もがみ「はい…私はそう思います…何かは分かりませんが… ここにその何かがあるんだと思います…」



もがみは日本地図の東京を指し示した。



宮本は地図を見詰め、もがみを目にするやハッとした表情で志水を呼び出した。



テーブルに東京都23区の大きな地図が広げられ



宮本「23区内の防衛網はどうなってる?」



志水「現在は配置されておりません」



もがみ「配置されてない?」



志水「はい 高速道の防衛戦と他県へ通ずる幹線道路、また国道から毛細部に至るまでのバリケードによる防衛にあたってる為、完全に人員を欠いてます」



もがみ「つまり都内は空洞化してる訳か…」



宮本「調査にあたらせる人員確保は?」



志水「司令官 お言葉ですが人員が全く足りてません 全ての毛細部まで手が回ってない状態です…手の回ってない道路から… その穴から続々と奴等が都内へ侵入してる状況です…調査に駆り出す要員などとても…」



すると 宮本はもがみ、志水を目にするや、急に足早で通信室を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



長野県 上空 Cー1輸送機機内



「네…지금 부정 행위 하 겠 지?(おまえ…今イカサマしただろ?) 」



「What?我不知道我在说什么吗(何て言ってるかわかんねーよ)」



「おい ソンク 止めろ」



「~マイガァァ~ 大内サン アナタツヨイョ~」



まるでゴリラの様に巨体な黒人が両手で頭を抱え、片言な日本語で嘆いている。



「アベバオ オメェーとは賭事の年季がちげぇーんだよ」



相変わらず機内で賭事に興じる面々



また左腕に血管を浮き上がらせ、注射器を手にする男



「テメェー まだ食う気かよ」



近藤「いやいやいや~ いいっすよこれ かなりの良物なんで、ノリさんも一発元気注入しときますか?」



「いらねぇーよ こんな時にシャブなんか」



「あっそ…」



男は静脈へ針を突き刺し、覚醒剤を打っている。



近藤「う~ん いい いいよ~ シビれるわぁぁ~」



荒れ狂う犯罪にまみれた機内の最後方に座り、ありとあらゆるナイフを研磨するmasterこと岩渕



その岩渕の携帯型無線機にある1本の通信が入ってきた。



胸ポケに仕舞われ、バイブレーションする通信機



研磨する手を止め、岩渕がおもむろにそれを取り出した。



岩渕「はい… お久しぶりです…」



「いろいろと報告を受けてるぞ… 成果をあげてるようだ」



岩渕は笑みを浮かべながら



岩渕「フッ ありがとうございます… お陰様で」



「中東から帰ってきてどれくらいになる?」



岩渕「7~8年って所ですかね…」



「昔の感は取り戻せてるな?」



岩渕「えぇ… それも御陰様で ホントに感謝してますよこんな素晴らしい部隊を提供していただいて… 総司令官には」



通信の相手はザクトの総司令官宮本のようだ



宮本「そうかぁ… それを聞いて安心したぞ」



岩渕「どうしたんですか…?直々に連絡してくるなんて?」



宮本「あぁ… 岩渕よ ちなみに奴等の手綱はしっかりと握れてるんだろうな?」



岩渕はゆっくりと機内を見渡すや



岩渕「えぇ… 勿論です… 従順で聞き分けのいい 良い子達ですよ」



宮本「そうかぁ… 今後も生存する人間に危害を加えぬ様、しっかり手綱だけは握っておけよ」



岩渕「アイアイサァ~ それで…それより用件とは一体なんなんです?」



宮本「作戦変更だ 直ちに目的地を変更しろ おまえ等には今から東京に向かって貰う」



岩渕「東京ですか? 分かりました…直ちに…でも…何故急に…?」



宮本「高速道の侵攻はどうやら東京を目指してるようだ」



岩渕「…」



宮本「その東京のどこかに…その引き寄せる元凶があると思われる… したがっておまえ等がそこにおもむき、それを調べろ 必要とならばその芽を摘め… どうだ?やれるか…?」



岩渕「えぇ 仰せのままに 東京の何処です?」



宮本「恐らく奴等はそこへ集まりつつある… 場所なら奴等が指し示してくれるだろう…」



岩渕「分かりました でもいいんですか私達で?」



宮本「あぁ 人間を殺めなければ後はおまえの好きにやって構わん ただしブラックボックスを早急に見つけ出し 取り除け」



岩渕「了解」



宮本「頼んだぞ」



通信を切った岩渕は俯き、次第に笑いが込み上げてきた。



岩渕「フッ…フフフ…フハハハハ」



突然笑いながら立ちあがる岩渕に機内の輩共が目を向けた。



「ど…どうしたんですマスター?」



操縦席へと歩む岩渕が立ち止まり皆へ向け言葉を発した。



岩渕「いいか よく聞けおまえ等 目的地を変更する これから東京へ向かうぞ」



「東京?」



岩渕「近藤 シャブはそのへんにしとけ、これからもっと楽しい事が待ってる」



近藤は岩渕を目にしながら



近藤「マスター 随分ワクワクしてますね」



岩渕「総司令官直々のお達しでな 人をあやめる以外なら好きに暴れてもいいそうだ」



「まじっすか?」



岩渕「おまえ等! ギャンブルは終いだ 装備にかかれ これより東京へと向かう」



宮本から特命を受けた岩渕班が動き出す

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