第137話 四顧 

由美等が学校脱出を図る 同刻



女子更衣室 13時02分



脱出を断りこの場に留まる事を選んだ響子、守、宗一郎、早苗の4名



4人は窓際に貼り付き脱出組を見守っている。



これからグランドを走り抜けるであろう脱出組が無事に抜けられる事を強く願いつつ窓から顔を覗かせていた。



両手を祈る様に握り四顧する早苗



由美から手渡され、忘れていったシンバルを持ちながら俯瞰(ふかん)する守



響子もハラハラしながらグランドを見詰めている。



守「なぁ…あの 校庭のド真ん中にいる奴をヒラリとかわしつつ、抜けるんだろ…?…先輩達本当に大丈夫なのかよ…?」



宗一郎「…さぁ…俺達はここから無事抜けられる事を祈るしかねぇよ」



守「だな 頼むぜぇ~ 誰も死ぬなよ…」



袖手傍観する4人に…



高見からの成功を祈る4人の視界に…



グランドに脱出組が姿を現した。



響子がグランドへと指差す



響子「あ 出てきたよ」



4人の眼中にグランドを駆ける脱出組の姿が映った。



眺望のきくグランドをけささ(障害、邪魔者)な感染者へと突っ込んで行く姿



4人の瞳に淳、茜、結香、由美の順に走るその後ろ姿が映ったのだが…



守「うん?」



響子「あれ?」



4人はすぐにおかしな事に気が付いた…



守「おい 1人少なくないかぁ?4人しかいないぞ…」



早苗「え?ホントだ…」



宗一郎「あぁ…加賀見先輩の姿がない…」



早苗「嘘?なんで~??」



守「まじかよ…何があったんだよ…」



秀平がいない事にそく気付いた4人



4人は周章狼狽した。



響子「多分… 殺られちゃったんだよ…」



守「まじかよ…」



淳が感染者に包丁を突き刺し、茜、結香、由美が横をすり抜けて行った。



宗一郎「よし 抜けた そのまま行け 行けぇ」



響子「あ まずいよ 門の奴に気づかれた」



守「周りの奴も走り出したぞ やばい 来たぞ 早く 早く 逃げろぉ」



拳を強く握り、実況する1年生達



守「やばい やばい これ… このままじゃ門の奴と鉢合わせになるぞ」



早苗「やぁ~ お願い 抜けてぇ」



そして、淳が急激に進路を変え、走行する姿を目撃した。



響子「え?」



守「え??内藤先輩 何を…?」



4人は淳の急な行動に釘付けとなり、一部始終をしかと見届けた。



不死者等が淳を標的に捉え追い回し



懸命にそいつらの追走から逃げ回る淳の姿



3人の女子達が塀に辿り着き



ついに退路を絶たれ、逃げ場を失った淳



骸人が淳を包囲し



淳が足を止めた。



そして、急速にハンチング帽を被った屍人が淳の背後へと近寄り



淳の首をもぎ取った。



響子「きぁあ~」



早苗「きゃ」



響子と早苗は悲鳴をあげ咄嗟に顔を手で覆った。



宗一郎「ウソだろう… 何だよあれ…」



守「内藤先輩が殺された…」



首をもがれた淳の身体が血を放出しながら崩れ落ち



その倒れた淳の死体に感染者が群れ、お食事タイムの凄惨な光景を見せられた4人



由美、茜、結香が塀を越え外へと消えて行くが、4人に笑顔などは無かった。



淳の死体を貪る光景に直視出来ず窓際から離れる。



守「悪夢だぁ~ これマジ悪夢だわぁ~」



深い溜め息をついた宗一郎がベンチシートに座り、両手で顔を擦った。



宗一郎「ハァー 終わりだな… もう駄目だ… 女だけじゃ… あの先輩達も…もう…ハアー」



守「完璧この世の終わりだよ 流石にもう日本は駄目だろこれ…」



絶無に近い希望に覆われる更衣室



守「いっそ響子の言う通り早い所自殺して奴等の仲間になった方が楽かもしれないな…」



宗一郎「悪い冗談よせよ…」



守「あ~ どうなんだこれから…しかも腹減ったなぁ~ 昼飯食いてぇなぁ」



宗一郎は放心状態で守を目にした。



そんな中…



何やらモゾモゾする早苗を目にする響子



響子「早苗タン どしたの?」



早苗「え?…うん…どうしよう…?…こんな時になんなんだけど…申し訳ないんだけど…私…ちょっとトイレに行きたいの…」



宗一郎「トイレ? あ そこの用具入れにバケツあったろ それ使えよ」



早苗「え?バケツにするの?」



宗一郎「あぁ トイレは駄目だ しょうがないだろ それで用をたせよ」



早苗「やだよ~ バケツでするなんて」



守「外出んのは駄目だぞ 小便くらいバケツ持って奥でしてこいよ 心配するな覗いたりしないから」



早苗「やだよ~ そんなの」



響子「ちょっと そうゆう問題じゃないの バケツでなんか用たせる訳無いでしょ」



守「なんで?その辺でして来いって」



響子「年頃の女の子がそんな事出来る訳無いじゃない ねぇ 早苗タン」



頷く早苗



守「はぁ?いいからして来いって」



響子「ホント 男子はデリカシー無いんだから 可憐な16歳の乙女がこんな所で…しかもバケツでやれって?しかもあんた達がいる前で出来る訳無いでしょ」



守「だから早苗 誰も見ないから…いいから早くして来いって膀胱炎になるぞ」



響子「いい加減…」



守「四の五のうるせぇーよ ブサイク 少なくともおまえ等の放尿なんかに興味ないんだよ 早苗も観念してそこのバケツでやれよ 漏らすよりましだろ」



宗一郎「そうだよ こんな時に恥じらってる場合かよ んなもん奥行ってチャチャと済む話しだろ」



響子「あんた達 ホント さいってぇ~ 女子にとってはこんな時でも恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ 私が早苗タンをトイレまで連れて行く 行こー」



守「よせ響子 外出んのはマジヤバい」



響子「漏らすよりマシよ 行こー 早苗タン」



宗一郎「ふざけんなよ響子 おまえが外に出るのは危険って言うから俺達は残ったんだぞ」



響子「知らないよ 私は残ってくれなんて頼んだ覚えは無い あんた達が勝手に残っただけでしょ」



守「とりあえず今外出るのは止めろ 内藤先輩や加賀見先輩の様になりたいのかよ しょんべんくらいバケツで出来るだろ?」



響子「無理」



宗一郎「おまえが決めるな 面倒くせぇブス猫だなぁー」



響子「誰がブス猫だって?」



その時だ



早苗「もう分かった… 3人で喧嘩なんかしないで…バケツ持って奥でしてくるから」



響子「え?大丈夫なの?」



早苗「うん… 平気…」



早苗がベンチ横にある掃除用具のロッカーを開きバケツを取り出した。



そして早苗は用をたす為、無言で更衣室の奥へと消えて行く。

 


響子「あんた達見に行こうもんなら殺すからね」



宗一郎「へっ 見ねぇよそんなもん 最初からそれくらいその辺りでチャチャッとやれって話しなんだよ」



響子「はぁー 本当に何にも分かってないのね…デリカシーが無いうえ幼稚で馬鹿で単純で」



守「あぁ?なんだよ…?」



響子「分かんないの?」



宗一郎「あぁ?何が?」



呆れた感じで深い溜め息をつく響子



響子「トイレだけじゃないって事 早苗タンは女の子の日なの それくらい空気を読め馬鹿男子」



あっ っとした表情で顔を合わせる守と宗一郎



それを見た響子が再び深い溜め息をついた。



その時だ



奥からガシャン と扉の閉まる音が鳴った。



守「え?」



宗一郎「なんだ今の音?」



守、響子、宗一郎の3人は慌てて駆け出す。



宗一郎「おい 早苗」



入り口付近に置かれたバケツ



早苗がいない…



響子「早苗タン」



守「おい まさかあいつ出やがったのか?」



宗一郎「ふざけんなよあいつ…」



更衣室を見渡すが早苗の姿は無い



早苗が外へと出てしまった…



激怒する宗一郎と守を前に



響子がドアノブを捻りながら



響子「とりあえず私が行くからね」



宗一郎「クッソ 守 俺達も行くぞ」



響子「あんた達は来ないでいい」



宗一郎「んな訳いくかよ 守 行こうぜ」



響子が扉を開き、2人を待たずに外へと出た。



守「いや 出たくない…俺はここで待ってるわぁ…」



宗一郎「おい おまえ…」



守「勝手に出てったんだからしょうがないべ 俺は残ってるから行くならおまえ行ってきてくれよ…」



臆病風に吹かれた守の表情を目にする宗一郎



宗一郎「分かった…じゃあちっと行ってくるから待っててくれ すぐに戻るから鍵は閉めんなよ」



守「あぁ 分かった これ持ってけよ」



守が宗一郎へシンバルを手渡した。



それを受け取った宗一郎から一言



宗一郎「これ…何に使うんだ?」



守「さぁ…盾?まぁ何もないよりましだろ そうだ 行ったついでにデッキブラシかなんか持ってきてくれよ そっちの方が遥かに武器になる」



宗一郎「あぁ 分かった…じゃあ…ちと行って来る」



守「気をつけてくれよ」



宗一郎「あぁ…」



宗一郎が女子更衣室の扉を開き外へと飛び出した。



これから4人に真の恐怖が訪れる…

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