第135話 脱却

生徒達は皆、変わり果て…



既にゾンビの巣窟と化した学校



校内は死人で溢れている。



素敵な青春時代真っ只中で



不運にも青春を謳歌する事無く死した高校生達



食われずに放置されたその死体は蘇り、人肉と言う食糧を求め…人を探す。



ただ…人肉のみを欲して



生きた人間をかっこうの獲物に



捕まえ、かぶりつき、引きちぎり、食らいたい



そんな食欲と衝動に駆られて



彼等、彼女等は動かされる



ただ…それだけだ…



由美と結香は淳達の後を追いかけた。



後ろを振り返る事もせず猛スピードで階段を駆け下りて行く2人



先に1階へ降り立つ淳と茜は廊下の左右を見渡した。



秀平が奴等に捕まり、餌食にされてしまった…



親友が目の前で襲われた出来事にショックを隠しきれない淳



淳は震撼した。



包丁を握る手、茜の手を握るその手は酷く顫動(せんどう)し、汗ばんだ。



動揺、焦りが色濃い淳は息を荒げながら何度も左右を確かめた。



タンタン タンタン



由美と結香も階段を降りて来た。



茜が振り返り由美等を確認すると



淳「こっちだ」



淳は茜の手を引き正面の教室へと駆け込んだ



家庭科室



由美、結香も教室に入る



淳「ドアを閉めろ」



結香が扉を閉めた。



淳は茜の手を離し窓へ近寄ると窓から付近に奴等がいないか調べる。



幸運にも近くに奴等はいない…



淳「よし この窓から出るぞ 出たらさっき言った通りにこのまま真っ直ぐグランドを突っ走る」



由美が視線を向けるその先に



1体の感染者らしき男が徘徊していた。



茜「待って 淳 あの正面のあいつは…?」



淳「かわせ」



由美「え?」



茜「かわす?」



淳「あぁ 絶対捕まるなよ 捕まっても誰も助けられない 死ぬ気で走らなきゃマジで死ぬからな」



結香は唾を飲み込んだ



淳「あいつを振り切り、あの塀を越えて外に出る」



茜「無理だよ淳 あの壁飛び越えるなんて」



淳「死ぬ気でやれ おまえらもいいか?」



由美と結香は頷いた。



由美は息を呑み窓からグランドを見渡す。



現在小門付近に1体、左方に2体、右方に1体、正面に1体と計5体の感染者がグランド上に存在している。



右方、左方はだいぶ距離もある



猛ダッシュすれば何とか抜けられるかも…



でも…問題は正面の奴と気づかれて迫って来るだろう小門にいる奴



この2体を振り切らなければならない



淳「車まで気合い入れて走るぞ」



淳が窓を開けた時だ



バン ダン バァンバン



扉が強叩され



うぅうううう ううううぅぅう



奴等の声が廊下から聞こえてきた。



ハッ っとして声に振り向く4人



淳が先陣を切って窓から外へ飛び出した。



淳「行くぞ」



聞こえる声からして…廊下には雲霞の如く奴等がいる



結香「ひぁぁぁ 来たぁぁ」



次いで茜が外へと飛び出した。



バァン バン バン 



幾つもの同時に叩かかれ響く音



恐怖のプレッシャーに4人は顔をひきつらせた。



結香が慌てながら外へと出る。



それから続けざまに今度は由美が外へ出ようと窓枠に両手を掛け、足を乗せ、飛び出そうとした時だ



バコン



大きな音を立て、教室のドアが倒れてきた。



サッシの戸庫へ足を乗せたままの由美が振り返るや



入口にはハンチングの感染者の姿



先程秀平を襲った奴が立っていた。



そして、ハンチングの背後からゾンビ化した高校生達が教室へと押し寄せてきた。



ううぅぅうう うううぁうあああ



目が眩む程の生ける屍の侵入



侵食する様に一気にゾンビで埋まって行く教室



淳「早く出ろ」



淳の掛け声で由美が飛び降りる直前に



ハンチングが信じられない初速で動くや由美へと駆け寄ってきた。



淳「早く飛べ」



ハンチングは両手を差し向けながら由美を捕まえようと急接近



口から舌と涎が垂れ、血まみれの手が由美へ届く寸前に



ハンチングの両手は空振りした。



抱きつく様に捕まえにかかった両手は無様にも交差する。



茜「キャアアアアー」



目の前に現れたあまりに醜いハンチングの顔を見て思わず悲鳴をあげる茜



ハンチングも外へ出ようと窓枠に手を掛け、足を乗せ、身を乗り出してきた。



由美、結香、茜の眼瞼が上がる。



ハンチングを目にした淳が目角を立て素早いアクションに転じた。



淳「らあぁぁぁ」



淳の左手に握る洋包丁がストレートに振るわれる。



そして刺突された洋包丁がハンチングの胸部へと突き刺された。



バランスを崩すハンチング



淳は突き刺さる包丁を素早く抜き、今度は安定感を失ったハンチングの胸部を両手で押した。



ドサッ



教内へと倒れるハンチング



倒れたと同時に淳の眼には…



後ろから無数のゾンビ共が迫り、押し寄せて来るのが映った…



淳は慌ててすぐに窓ガラスを閉めたのだが



バリーン ガシャン パリーン



無数の手により普通の窓ガラスは容易に割られ、突き破られた。



無数の腕が伸ばされる。



結香「あやややや」



淳は後退りすると3人へ



淳「行くぞ 車までノンストップだからな」



頷く3人が駆け出そうとした時だ



タタタタタタ



今度は正面玄関から何かが走って来た。



由美、結香、淳、茜が目を向けると



そこには腰の曲がる老婆がこっちに向かって猛ダッシュする姿。



忽ち顔色を失う4人はグランドへと走り出した。

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