第134話 犠牲

ドアノブが捻られ、扉が開かれた。



更衣室から廊下へと出る少年少女達



そして、廊下へ出た途端由美をはじめ淳、茜、秀平、結香はある異変に気がついた。



あれ程、混乱し、騒がしかった筈の声が消えている事に…



女子生徒の悲鳴や男子生徒の叫び声が消え、今では静けさが漂う廊下



深閑が不気味さを助長している…



廊下には辺り一面にガラスの破片が散らばり、それに加えて上履きや椅子、衣服や携帯、トイレットペーパーなどが散乱



この荒れ放題に散らばる廊下が不気味さに更なる拍車を掛けていた。



先頭へ立つ淳に秀平が小声で質問した。



秀平「みんな何処へ行ったと思う?」



淳「分からん…」



洋包丁を握り締め淳が歩を進めた。



声一つしない静寂の廊下を警戒しながらゆっくりとした歩調で歩む5人



森閑する廊下に破片を踏みしめる5つの音が鳴った。



5人は恐る恐る階段へと向かった。



廊下へと倒れた教室の扉



その開かれた入口から由美が教室を覗くと



教室の端には喉笛を噛み切られ横たわる男子生徒の姿。



その男子生徒は目を開いたまま天井を見つめ息絶えていた。



結香も茜も死体を発見するや思わず声を出しそうな口を両手で覆う



由美は疑問を感じた。



この短時間でみんな何処へ消えたのか…?



死体はあの1体のみで…他の生者も死体も全く見当たらない…



一体何処に…?



下の階から聞こえて来てもおかしくない筈の悲鳴もまるで聞こえない



混乱が嘘のようなこの静けさ…



まさか…みんな…死…?



それと…何…この張り詰めた違和感…みたいなのは?



この校舎内全てが静に包まれているの事に…変な空気に疑問を感じた由美…



結香がいきなり由美の腕にしがみつく様に手を回しキョロキョロと辺りを見渡した。



結香「なんだかめっちゃ怖い」



由美「私も…」



それは由美だけでなく、その場の誰もがこの張り詰める異様な静けさに違和感を感じていた。



秀平がボソッと口にする。



秀平「まじ怖ぇ~」



壁に引きずった様な真っ赤な血の跡を目にし怯える秀平



先頭を歩く淳が洋包丁を身構えながら階段を下り始めた。



次いでマイクスタンドを両手で握りながら下る秀平



茜、由美、結香と続く



手すりにはべっとりと大量の血液が付着し垂れ落ちている。



5人は階段を下り3階を通過して更に下へと歩んだ



一歩一歩階段を下るにつれ、壁や階段に血の跡が目立ち始めた。



茜は恐怖におののき次第に増える血痕群を見渡す。



秀平「嵐の前の何たらってやつか…」



その時だ



淳「シッ」



2階へ辿り着いた時、淳が何やら物音と気配を感じ取った。



秀平「ど…」



淳「シッ 何か聞こえる」



淳はそのまま2階の廊下を歩き出した。



茜「ちょ 淳 何処行く…」



秀平がすぐに振り返り3人にこの場にいるようジェスチャーを送った。



秀平は淳の後を追い最大限に声を殺しながら叫んだ



秀平「淳 行かないでいい 早く行くぞ」



淳「ちっと見るだけだ」



秀平「ふざけんなよ 茜ちん達をあんな所…」



ガサゴソ ガサガサ



音が2人の耳に確かに入った。



何の音だ…?



音は先の教室から聞こえて来る…



淳、秀平は物音を立てずに音のする方向へと近づいて行った。



ガタッ  ガサガサ



徐々に近づく音



音は1年D組の教室から聞こえて来る。



クチャ ガサ ガサ



ガタ ガタ ドン クチャ 



いくつもの気配を感じる…



散乱するガラスの破片を踏みしめないよう慎重に避けながら2人は入口付近まで近づいた。



そして、淳、秀平はゆっくりと中を覗いた。



2人の目が膨張する



そこには目を疑いたくなる様な光景



教室内に20もの血塗れた男女の生徒と5人の横たわる生徒を目にした。



腹から腸を掻きだし奪い合いをする5人の男子生徒達の姿



その横では大人しく女の子座りで脳みそを掻き出し夢中で食べている女子生徒の姿



また…切断した腕をまるでトウモロコシでも食べる様に食らいつく男子生徒の姿さえ見える。



こいつらは…



ゾンビ化した生徒達だ



死した同級生の五臓六腑を食い荒らす同級生達のおぞましい食卓現場を目撃した淳と秀平



1体のゾンビが死体の右足をへし折ろうとするやそれに集まり今度はその右足を巡って本物の醜い争いを始めるゾンビ達



秀平に恐怖よりも突然吐き気が込みあげ口を抑えた時



秀平は手を滑らせ不覚にもマイクスタンドを落としてしまった。



カコーン カラカラン



20体のゾンビが一斉にこちらへと振り向いた。



淳は20体のゾンビ共と目を合わせる



何なら殺してやるぜ…



そんな意欲さえ持っていた淳だが



一瞬にしてその戦意が消し飛んだ



アンド…



奴等に見つかってしまった…



ヤバい…



淳は秀平の肩を掴み猛ダッシュでその場から逃走した。



ガタン バタン ドタドタドタ



一斉に廊下へと飛び出して来た20体のゾンビ達



「うぅぅぅぅ」 「あぁああぁぁぁぁ」



走る事は出来ぬがまだ死後硬直せぬ身体を動かし



早歩きで2人を追いかけて来た。



また 突如 その先の教室からも、わんさかとゾンビ共が現れ、廊下に出てきた。



廊下に落ちたマイクスタンドに無数の人影が通り過ぎて行く



階段付近に待機する由美、結香、茜の瞳にはこちらへダッシュする淳と秀平、その背後に廊下を埋め尽くす程のゾンビの大群が映った。



結香「あわわわわわ」



淳「下だ 逃げろーー」



由美、結香、茜が階段を下り始めた。



淳もすぐに3人へ追いつき階段を下っていく



そして、ワンテンポ遅れて秀平も階段を下ろうとした時だ



ゾンビ共の中にある1体の感染者が潜んでいた。



そいつはハンチング帽に血に染まる白いTシャツ、短パン姿の感染者



ゾンビの大群の中から急激に飛び出し猛ダッシュで秀平に迫り…



そして…そいつは秀平の背後から飛びかかってきた。



秀平の顔が壁に叩きつけられ身体が崩れる。



ガッシリ背後から腰に手を回すそいつは秀平の耳へと噛みついた。



秀平「いだぁぁぁぁぁぁぁあ」



秀平の叫び声があがる



淳、由美、結香、茜は叫び声で後ろへ振り返り階段を見上げるや



感染者に捕まり、耳を噛まれる秀平の姿を目にした。



秀平「いでぇーよ 淳ー 助けてくれー」



淳「クソ」



結香「あやややや」



茜「キャアアアアー しゅ~へぇ~」



そして、そいつは秀平の耳を噛みちぎった



秀平「ぐぁぁぁ ちょー いてぇぇー」



すぐに押し寄せてくる大群



クソ…



親友だが…



もう助けられない…



わりぃー 秀平…



許せ…



淳は茜の手を握り締め



淳「行くぞ」



秀平を見捨て、茜を強引に連れ、階段を下った。



固まる由美と結香は未だ見上げていると



大量のゾンビ共が秀平へと群れた。



淳「おまえらも早く来い」



下から淳に呼ばれ、慌てて由美と結香も階段を下って行く



加賀見秀平が奴等の犠牲になってしまった。



そして、あのハンチング帽の感染者



こいつがこれから由美へ執拗に追い回し、襲いかかる…

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