第123話 逃走

異臭を放つ汚れた洋服を纏うルンペン



そのすぐ後ろにエプロン姿の小太りなおばちゃん、その斜め後ろには作業着姿のガテン系なお兄さん、次に郵便配達員、セーラー服姿の中学生、白髪頭の普通のおじさんと続く



街を歩けばどこにでもいる人種



少なくとも昨日まではそれぞれ年齢、性別、なり、職業、生活環境、生活水準、地位、価値観、立場、生き方は違い…本来、縁さえ無い関係なのだが…



今は同じ…



今日から大まかにゾンビと言う総称な種として、同類な新種として存在し、同じベクトルを歩む



細かくカテゴライズすると眼の異様な動きが特徴の感染者



心臓は動き、内臓や筋肉は正常に機能している彼、彼女等… 走る事だって出来る。



そんな彼、彼女等には共通してる事が…4つある



1つは外見は人間だという事…



もう1つはもはや人間では無いという事



そしてもう1つは苛辣な渇きといくら食そうが満たされぬ空腹感に陥っているという事



最後に…彼、彼女等が食するのは…いや 食せるのは正常な人間の肉のみと限定されてる事だ



目の前の餌に食らいつくのは…単なる衝動でも興味本位でも激情による殺意的でも無い



脳を書き換えられた彼、彼女等自身…



人を襲う理由は



ただ純粋に食する為



彼、彼女等は…ただ…空腹を満たしたいが為に…



純粋に人間の肉を欲しているのだ…



彼、彼女等は、肉の匂いに誘われこの学校の正門へと辿り着いた。



それからみんな揃って正門をくぐり始めた…



同級生は全員逃げ、グラウンドに取り残された由美、久恵、結香の3名



うじゃうじゃと小さな門からグランドへ人が入って来るのが見える。



その人達は倒れた体育教師へ…



体育教師の渡辺にまた1人覆い、また1人が覆い被さり、気付けば10名以上の人が群れて何かをしている…



由美、久恵、結香はその異様な光景を凝視した。



結香「あの人達…渡辺先生に集まって一体何にしてんの?やばいよ…怖い…私達も早く逃げようよ」



由美「うん しかもあのおばあちゃんは人の首持ってるし、かなりヤバいよこれ… 久恵行こう」



久恵「渡辺はどうするの?」



由美「見る限りみんな普通じゃないよ 他の先生呼びに行こうよ」



久恵「ちょっと待って… ねえあれ…食べてない?」



結香「え?」 由美「え?」



久恵「あの人達…渡辺を食べてるよ…」



由美「食べてる…?」



腰を丸めた老女が提灯でも持つ様に生首を持ち、歩く度に生首が揺れ動いている。



100メール手前まで迫る老婆を目にした由美が久恵の腕を掴んだ



由美「なら尚更だよ それよりあの変なおばあちゃんが来るよ…とにかく早く逃げよう」



結香「賛成 早く逃げよ」



由美が久恵の腕を強引に引っ張った時だ



「う…うぅ…」



目の前に倒れる男子生徒と教師が微かな声を発し始めた。



3人が振り向くと、横たわる死んだ筈の2名の手と足が動き出し、呻いてるのを3人は目にした。



久恵「この2人生きてるよ 運ばなきゃ」



久恵は由美の手を振り払い、教師の前へとしゃがみ込んだ



久恵「先生 大丈夫?」



そして久恵は教師の頭部を抱えながら



久恵「何してるの?2人共 早く運ぶの手伝ってよ」



ありえない…



ウソ…こんな状態で生きてる訳がない…



由美と結香は躊躇した。



教師の頭部からは脳みそが顔を出し、生きてるなんて到底有り得無い…ましてや生き返るなんて事、もっと有り得無い…



2人は疑心した。



結香「そんな…生き返る筈ない…よ」



由美も結香に同意見



由美は直感でヤバいと悟るや久恵を教師から引き離そうと



由美「私もそう思う」



またも久恵の右腕を掴もうとした時だ



忽然に教師が久恵の首に両手を回し、ガッチリ捕まえるや大口を開けた。



久恵「え?」



唾液の糸が伸びる教師の開けた口



教師のその剥き出された白い歯を久恵がハッキリ視認するや否や



教師が久恵の顔面に真っ正面から食らいついた



深々と皮膚へ食い込む上下の歯は、容赦なく久恵の顔面を食い破った。



上唇から鼻にかけ、食いちぎられる久恵の顔



久恵の鼻骨ごと噛みちぎり教師がバリバリと骨を噛み砕く音を鳴らした。



信じらんない光景…



仲のいい友達が目の前で顔を噛みつかれ…今…目の前で食われた…



由美と結香が見ている目の前で久恵が…



教師に食べられた…



久恵の目玉がクイッとこちらへ向き、由美は久恵と目を合わせた。



まず1つ この時の久恵のこの目



助けを懇願した目か



はたまた己の行動を悔やんでの目か



今では知る由も無い…



ただ…私はこの時の久恵のあの目を一生忘れない…



教師はまたも久恵の顔面へかぶりつき、そのまま久恵の体を押し倒した。



無抵抗に食い伏される久恵に這って近づく男子生徒



男子生徒は教師とこぞって久恵を食し始めた。



結香の目に涙が溢れる



結香「い…」



毎日の様に言い争いしていたが、気の合う仲間



いつも口喧嘩ばかりしていたが…



大事な大事なお友達



久恵



結香「いや~~ひさえぇぇぇ」



結香の絶叫がグラウンドへと響き渡った。



無論、由美もショックで心失す寸前まで刻意に苛まれ



酸楚に身を切られる思い



惨痛で顔面蒼白している。



だが 由美は歯を食いしばり気情を持ってこの時を気丈に振る舞った。



その時だ



結香の叫び声に反応した体育教師に群れる感染者達が顔を上げ、立ち上がり始めた。



それを目にした由美は



結香の腕を強く掴んだ



今度は絶対離すまいと力強く握力を込めて掴む結香の手首



結香を連れて逃げないと…



すると 1体の感染者がこちらへ向かって走り出した。



次いで1体、もう1体



門から入って来た感染者もつられて走りだす。



正体不明な狂った人々の個体群がこちらへと襲いかかってきた。



泣き崩れる結香の手を引きながら



由美「来た来た来たよ 結香 逃げよう」



結香の手を強引に取り、その場から逃走を図った由美



逃走する2人を感染者達が追走して来る

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