第124話 挟阻

裸足、スニーカー、ローハー、サンダルなどが荒々しくグランドへ足跡を付け、土埃が舞った。



満載に詰められたゴミ袋を持ちながらおばさんは嗄声(させい)で独り言を発して…走る。



また 隣りでは風呂上がり直前に発症したのだろう…肩にバスタオルを掛け、まだ髪の毛の濡れる全裸姿の男性が呂律の回らぬ頓狂声で意味不明な言葉を吐き散らしながら…無二無三で走る。



またその後ろでは眼鏡が斜めにズレたままのスーツ姿のリーマンが甲高い奇声をあげながら…ひた力走(はし)る



その他にも10人程の喚く狂人達が束となりて…熱烈なおっかけファンの如く激走る。



2つの新たな食料を発見した感染者達



口元を赤く染めた彼等は標的目指し、躍起になって爆走る。



ロックオンされた由美と結香



猛追する感染者達は興奮気味にイカれた声で叫び散らしながら…ひたすら死に身で怪走る。



最恐の追いかけっこ



充血する視点のずれた感染者達が老婆の左右を通過し、鬼となりて捕まえに…まっしぐらで暴走る。



由美は結香の手首を握り締め全速力で只今逃走中



真昼の強い日光に照らされ、左右に植えられた花壇を2人は猛ダッシュで通り過ぎた。



由美が走りながらしきりに後ろへ振り向くと



目に映るは大勢の大人達が短距離の競争をするかの様にこぞって本気の走りで追いかけて来るのが見えた。



何なのこの人達は…?



何で追いかけて来るの…?



由美に考える暇…立ち止まる余地は与えてくれない…



訳も分からぬままに2人は走った。



今1つだけはっきり言える事は…



捕まれば殺される…



どう見ても話し合いなど通用する相手には見えない…



更に言えば…どう考えてみても良心の呵責さえ皆無だろう相手に見える…



捕まれば…久恵の二の舞になるのは確実…



由美はそれらを容易に連想させ解釈された。



捕まれば死ぬの単純で明解な答えを導き出した由美に…



死にたくない…



しっかり腕を振り、本格的な走りを見せるキチガイな大人達に圧倒され恐怖する由美



死の恐怖が追いかけて来る



結香も同様に感じたのだろう チラッと後ろへ目を向けるや疾うに涙は止まっていた。



今は…友達の死に感傷してる場合では無い…



そんな…一瞬で涙が止まる程、後ろでは恐ろしい光景が眼に映っていた…



急追するクレイジーな奴等から2人はがむしゃらに逃げた。



追いかけて来るこの大人達の鬼気迫る感じに圧倒されながら…



無我夢中で逃げる女子高生2人



由美と結香は建物の角をノンストップで曲がりコーナーを駆け抜けて行った。



何度も振り返りながら、息を乱しながらひたすら逃げていると



前方に校舎と体育館を結ぶ屋根付きの渡り廊下が見えた。



由美「あそこから校舎に入ろう」



頷く結香が再度後ろを確認した時だ



2人がそのまま前走して近づいて行くと



「キャアアアアアア」



「わぁぁぁぁぁ」



「んだよあいつは…おまえら早く出ろよ」



「キャアア~来たぁぁ」



体育館の中から忽如、悲鳴があがり、途端に多数の生徒達が出てきた。



慌てた感じで、飛び出して来る生徒達



皆、見るからに混乱状態に陥る者ばかりだ



由美等と同様体育の授業があったのだろう 体操着姿の男女が何かから逃れる為、勢いよく飛び出して来た。



そして、2人の目の前をある1人の女子生徒が横切った。



木製タイルの渡り廊下をダンダンとうるさい音をたてながら必死に逃げる女子生徒のすぐ後ろから



今度は全身血みどろの男子生徒が突然現れた。



血みどろの男子生徒も木製タイルを激しく踏みしめ、うるさい音を奏でながら女子生徒を追いかける



こちらに気付く事無く2人の生徒が目の前を通り過ぎて行く。



それを目にした2人は驚き急ブレーキで立ち止まった。



顔面も制服も血みどろの男子生徒は両腕をバンザイするかの様に振り上げ、女子生徒の後を追っかける。



そして、女子生徒が校舎内へ逃げ込む寸前に追いつき、後ろから女生徒へとしがみついた。



ドサッ



2人の生徒は由美、結香の視界からそのまま消え、中で倒れる音がした。



「ギャヤヤヤヤ~痛い~ 止め…痛…ギャャャャヤ~」



たちどころに女生徒の悲鳴があがり



今まで聞いた事無い程の叫喚へと変わって行った。



駄目だ…



息が少し切れてる由美は後ろを振り返りながら、ここから校舎へ入るのをすぐに諦めた。



結香の手を引き、無言でまたも走り出す



2人は、そのまま渡り廊下を通過した。



2人がチラッと入口へ目を向けると女子生徒は既に押し倒され、正常位で覆い被さる男子生徒の後ろ姿を目にした。



「ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃ」



場所は特定出来ぬがあらゆる所から女性の悲鳴が聞こえてくる。



由美達の後ろで3階の窓ガラスが割れ、破片が地面へと落下した。



美術室辺りを通過する2人が再度後ろへ振り向くと



追走者の大半が渡り廊下から校舎内へと入って行くのが見えた。



ホッとしたのも束の間



3人程まだ追いかけて来てる…



1人は裸、1人はリーマン、1人はゴミ袋のおばさんだ



2人との距離は30メートル



結香「正面玄関から入ろう」



由美「うん」



額に汗を滲ませ由美と結香は必死に正面玄関へと向かった。



「わぁぁぁぁ」



また2人の背後で、人が落下。



由美、結香が振り向くや、そこには男子生徒が痛みに悶え苦しむ姿を目にした。



助けないと…



2人は一瞬ためらいが生ずるも、立ち止まる事なくすぐに逃走した。



何故なら…



既に追って来る裸の狂人の餌食になってしまったのだから…



2人は家庭科室を通り過ぎ、調理室を通り過ぎ、音楽室を通り過ぎた辺りで…



またもピタリと足を止めた。



急ブレーキで立ち止まる2人



見詰める先に



青ざめる2人…



2人の視線の先には



正門から続々と部外者が入り込み、正面玄関から校舎へと入って行くのが見えた。



由美が後ろを振り返るやおばさんとリーマンが迫って来る。



結香「やばいよ…挟まれたじゃん…」



息切れする由美は前方、後方を交互に振り返った。

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