第122話 地獄

久恵「急げ急げ~」



慌てる3人がダッシュでグラウンドに向かっていた。



久恵「あ~ もう~ 授業始まってんじゃねぇかよ」



急いで階段を下り、おのおの下駄箱で運動靴へと履き替える



結香「しまった… ゆっくりしすぎた…」



久恵「しまったじゃねぇわ もう今度は待たないからね」



運動靴へ履き終え、正面玄関から外へ飛び出すと、ピーカン照りの晴れ模様、出鼻で強い日差しを浴びた3人がグランドへ足早に向かおとした時



どこからともなく2人の生徒が現れ、チラチラ後ろを振り返りながら校舎内へと駆け込んで行った。



脅えを含む必死な表情で校舎内へと消える2人の生徒



それをガン見した由美と結香は…



結香「なんだろ今の…?」



由美「ね……?」



久恵「早く行くよ」



とっくに授業は始まってる…



3人はグラウンドへとダッシュで走った。



結香「もう遅刻なんだし 歩いて行こうよ~」



久恵「駄目 あーたのせいなんだからね ちゃんと走れ」



結香「え~」



正面玄関からグランドまでは真逆な方向の為、建物をぐるっと回り込まなければならない



花壇には色とりどりのカーネーションや薔薇、ブーゲンビリアなどが植えられ、咲き誇る花が人々の視覚を癒やしている。



由美は左手にグローブをはめ、体操着姿でその花壇前を全力疾走で駆け抜けた。



既に授業は始まっており、校舎の開いた窓から先生の声が聞こえてくる。



3人は校舎と体育館を結ぶ渡り廊下を越え、ひたすら走り…



グランドへと辿り着いた。



結香「もう全力で走ったから疲れた~」



広々としたグラウンドの300メートル先では女子がソフトボールの授業を



更にその先では男子が授業でサッカーを行っている。



久恵「やっぱ始まってるよ… 渡辺に怒られる…」



3人は怒られる覚悟を決め、近づこうとした



その瞬時



「きゃゃゃー」「キャア」



突如、少女達の悲鳴が聞こえてきた。



声に反応し立ち止まる3人



「わぁぁぁ」



それと共に1人の男子生徒が3階の開いた窓から落下してきた。



ドンっと音をたて、頭から地面に直撃した男子生徒



生徒の頭部から多量な血が流れ出た。



結香「え?」 久恵「うそ?」



3人は驚きつつその生徒へ駆け寄った。



久恵「え?何?何?」



頭から大量の血を流し倒れる生徒に、動揺する3人



生徒は動く気配がまるで無い…



突然飛び降りで落下してきた生徒に3人は何をどうすればよいのか分からずテンパった。



互いに顔を見合わせ



結香「何よこれ…自殺?」



血の池が広がる生徒へ由美が覗き込むや



目を開いたまま絶命している



由美「ねぇ… この人死んでるよ…」



久恵「え?」



結香も覗き込むや「きゃあ 本当…し… 死んでるよ…」



初めて見る死体に混乱する3人



結香「これ…どうすればいい…の?」



由美「職員室に先生呼びに行かなきゃ」



久恵「なら そこの渡辺に知らせれば…」



その時だ



3階から複数の悲鳴が聞こえてきた。



見上げる3人



1年D組の教室から女子生徒、男子生徒の悲鳴、教師の声が響き渡ってきた。



「きぁあああああああ」



「キァア」「うわぁぁ」



「井伊岡ぁぁ やめなさい」



ガタガタ ガタタァァ ガシャャ ガガガ



上から悲鳴と一緒に机や椅子が乱れ、倒れる音が鳴る



「キヤァァァァァ」



「やめなさい うわぁ… いでぇ…噛むんじゃない…」



「先生ぇぇ~」



「わぁぁああ」



なに…?



何が起きてるの…?



教室内から聞こえる叫び声に由美、久恵、結香の3人は固まり、ジッと上を見上げていると。



すると



窓際に教師の背中が現れた。



そしてその教師が窓から落下してきた。



「うわわわぁぁ」



由美「ええ?」



久恵「はぁ?」 結香「嘘?」



ドン っと大きな落下音をたて



仰向けで大の字に倒れた教師の姿



こちらも頭部から大量に血を流し、円形の血の池が広がっていく



落ちてきた教師…



見る限り… 既に死んでる…



絶句する3人の目が大きく見開くや



上から響いてくる声…



教室内の生徒達が一斉に悲鳴をあげながら逃げ出す音が聞こえてきた。



3人の眼下には2つの横たわる死体…上から聞こえてくる多数の悲鳴



ただ事では無い状況に3人は茫然と立ち尽くしている。



由美「警察…?」



久恵「その前に… 早く先生に知らせないと…」



結香「あそこは確か1年D組の教室よね?あそこで何が起きてるのよ…?」



すると 今度は…



グラウンドから複数の悲鳴が上がってきた。



3人は敏感に悲鳴の先へ振り返ると



グラウンドの小さい門から数名の人が入って来るのが見えた。



授業中の生徒達が慌てた様子でこちらへ逃げてくる



グラウンドを多方面にバラけて逃げ惑う生徒達の姿



「わぁぁぁ 何だあのババァー」



「きぁぁぁぁぁぁ」



もう何度もあがる悲鳴の数々



乱れる生徒達が散り散りに逃げている光景に3人が目を凝らして見ると



由美の瞳が大きく膨張した。



あれは…



200メートル先で背を向ける体育教師の渡辺が地へ崩れ、1人の老婆の姿が映った。



見覚えのある老女…



老婆は左手に何かを持っている…



結香「何…あれおばあちゃん…?」



生徒達がこちらへ逃げてきて3人を通り過ぎてゆく



1クラス35名の生徒達が必死な形相で我先にと逃げている。



何が起きたの分からず、ただ 通り過ぎて行く同級生を見送る3人の前に



1人の同級生が立ち止まり警告してきた。



「何にしてるの早く逃げて あのババァ殺人鬼よ 変なのがいっぱい入って来た 早く結香達も逃げて」



そう言い放ち、同級生は全力疾走で逃げて行った。



3人は歩いて近づいて来る老女に目を向ける。



そして久恵がある物に気が付いた…



久恵「ねぇ…あのおばあちゃんが手に持ってるの…あれって…」



ポタポタ垂れる雫…



それは水などでは無い…



それは赤い雫…



髪の毛を掴みぶら下がる物は…



老婆が手にしてる物は…



人間の生首だった



あの時 由美が見た…



老婆ともみ合いしていた



あの主婦の生首を老婆は手にしていた。



老婆の後ろから続々と人がグラウンド内に入って来た。



そして、倒れた体育教師渡辺へ数人の人が群れるのを目にした。



感染者が校内へと侵入。



地獄が始まる…

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