第118話 兆候

平日 月、火、水、木 営業時間20時~深夜2時まで



金曜、土曜 営業時間19時~朝6時まで



祝日、日曜 定休日



そう書かれた看板を眺めながら制服姿の由美がスタイリッシュに招かれた。



ニューハーフでバースタイリッシュの現オーナー



身長178センチとやや高めで



いくら化粧を施しても顔だちはどう見ても男性



また、喉仏の出る声帯から発する声はどう聞いても男性そのもの



俗に言うオカマのカテゴリーに属するママは、顔も声も立派な男性なのだが…



豊胸手術を施したスタイルは女性の様にか細く、更に心は完全に女性そのものだった



かなり盛況する人気店 スタイリッシュ



常連客からはスタイルママの愛称で親しまれ、店の料金設定もかなりリーズナブル、またいちげんでも気軽に入店し易い雰囲気の良さを醸し出している。



その為か、金曜、土曜は常に満席でにぎわう繁盛ぶり、閉店間際まで客がはける事の無い人気ぶりである。



その店を1人で切り盛りするママは、店と共に客からこよなく愛され、皆から絶大な支持の受け、店は支えられていた。



由美とは中学の頃、常連の1人である父親にたまたま弟と一緒に連れられたのがキッカケで仲良しになった。



今では単に客と言うよりも、単にお友達と言うよりも



2人の間柄は兄弟に近い関係になっていた。



スタイルママは由美にとって、相談事や悩み事など何でも話せる姉さん的存在



そして、スタイルママにとっても由美は客と言うよりも妹的な存在で、慕って来る由美を実の妹の様に可愛がっていた。



こうして由美は、たまに店へ遊びに来ては店の暇な時間ママと何気ない話しをしていた。



由美「なんか久しぶり~ 2ヶ月ぶりくらいかなぁ~」



ジャズのBGMが流れる店内を見渡す由美



スタイルは掃除道具一式を流しの下へ仕舞うと



スタイル「こんな時間まで遊んでたの?」



由美はカウンター席へ座り、再度じっくりと店内を見渡した。



由美「うん 今まで友達とオケってたの」



先程まで客がいただろう痕跡、テーブル席には空いたグラスや食べ残しの食器が置かれている。



スタイルはおぼんと雑巾を手にし、それらを片付け、テーブルを拭く



スタイル「そうそう 最近、泰男さんも全然顔見せないからどうしたんだろうって心配してたのよ たまにはお店に顔出すように言っといてよ」



由美「パパンは今出張が多くて忙しいの 家にも帰ってきてなかったんだ なんか最近やたら忙しいみたい まぁでも…今日出張から帰ってくるって言ってたから… 分かった 伝えとく」



スタイル「頼むわねぇ たーくんは元気?」



由美「うん たーも部活が忙しいみたい」



スタイル「そう… みんなでお店に来て欲しいわ」



由美「うん 聞いてみる……それより店がノーゲスなんてめずらしいんじゃない?」



スタイル「そぉおー まぁ最近平日はいつもこんなもんよ 23時回ったくらいから何組かパラパラ来るかもね」



由美「ふ~ん そうだったっけ あ 姉さん何か手伝おうか?」



スタイル「いいわよ 大丈夫 座ってなさい」



スタイルは流しで食器やグラスを洗い始めた。



由美「テレビ点けてもいい?」



スタイル「どうぞ」



壁に取り付けられた40インチの液晶テレビに向け、由美がリモコンを操作した。



テレビが点くや途端に店内へ響く音声



テレビ画面に女性ニュースキャスターの姿が映された。



「…でした。…続いてはショッキングなニュースです…昨夜、文京区の住宅街で起きた殺人事件 昨夜0時頃、通報を受けた警察官が現場へ駆け付けた所、家の中で警察官を含む5人もの遺体が発見されました。警察官によりその場に居合わせた犯人らしき男は逮捕 男は同じく文京区在住の会社員、御見内道容疑者25歳と判明しました。男は警察官によりその場で取り押さえられ現行犯逮捕。現在、容疑者は殺害動機が不明な上、精神に異常をきたしてるとの事です。その為、回復後に警察による慎重な取り調べが行われる模様です。調べで分かっている事は…刃物などの凶器が現場から発見されず、また、遺体に残された多数の噛み傷からして殺害方法が噛むといった行為によるものだと捜査関係者から情報を得ました 何とも陰惨なこの事件 新たな情報が入り次第引き続きニュースをお届け致します。続いてのニュースです また 通り魔事件が発生しました。本日未明 足立区河川敷で…」



由美「また通り魔ぁ~ ちょっと多くない?それに、この一家殺人事件、マジヤバいよね」



スタイル「ホントね~ この事件警察官まで殺されたらしいじゃない しかも2人も もう朝からこのニュースでもちきりよ も~最近は全国各地で通り魔事件だなんだって頻繁してて物騒なんだから、あんたも夜道の1人歩きは本当に気をつけてよ」



由美はリモコンでチャンネルを変えながら



由美「はーい あ ねぇ…姉さん それよりさぁ~凄いのがあるんだ」



由美はリモコンを置くや携帯をいじり、YouTubeを開くとある動画をスタイルへと見せた。



携帯を覗くスタイルに



「すいません 撮影は止めて下さい」



先程、結香に見せられたあの動画が流れはじめた。



スタイル「あら これ よくニュースで見るやつじゃない」



由美「そうそう でもね 実はこれ…続きがあるんだぁ 姉さん これ見たらマジビビるよ」



スタイル「へぇー そうなの」



携帯を覗き動画を見る2人



「…野次馬が多い…奥へ連れて行け…」



「うがぁぁぁああぁああ」



発狂した男が3名の警察官に抑え込まれながら奥へと運ばれ



次の瞬間



警察官が一斉に拳銃を抜き始めた。



スタイル「え?」



そして…



パァン パン パン



至近距離から発砲され、途端に暴れていた男は撃ち殺され、叫び声を止めた。



スタイル「何これ?」



こうして動画はここで終わった。



由美「凄くないこれ?」



スタイル「本物これ?」



由美「分かんない でも本物らしぃーよ」



スタイル「警察が一般人の見てる前で普通…こんな事やるかしら…」



由美「普通じゃないから凄いんじゃない ビビった?」



スタイル「えぇ… なんか作り物臭いけど もし本物ならかなりヤバいやつね」



由美はスタイルへ微笑みながら



由美「でしょー 私もメッチャびびったもん いい物見せてあげたんだからさぁ~」



スタイルは由美の笑みを見るや、由美のその笑みに



企みを感じ取った。



長年一緒にいる為、大概、由美のこうゆう笑い方には何か企みや頼み事を含めていると知っていた。



今、由美はそういった笑みを浮かべている。



スタイル「あげたんだから何?」



由美「お酒頂戴」



スタイル「駄目」



由美「いーじゃん ちょっとぐらい…いいもん見せてあげたじゃん」



スタイル「駄目よ あんた未成年でしょ」



由美「いいじゃん そんな堅い事言わないで少しくらい頂戴よ~ 酒ぐらい高校生だってみんな飲んでるんだしぃ~ ね いいでしょ?」



スタイル「駄目 あんた そもそも制服着てんじゃない 客が来て、高校生に酒あげてるなんてバレたら…あんた私の店を潰す気?あんたは、いつも通りこれでも飲んでなさい」



由美の前に勢い良く置かれたオレンジジュース



由美「ケチ」



スタイル「あんたはOJで十分よ」



ぶーくれた顔つきで由美がそれを飲んでいると



店の扉が突然開かれ



「さぁーせん 5名なんだけど今空いてる?」



客が入店してきた。



スタイルはすかさず客へ近寄りながら



スタイル「いらっしゃいませ~ 勿論空いてますよ ささ どうぞこちらの席へ」



スタイルが客を案内



由美はオレンジジュースを飲みながらゲストを目にした。



サラリーマン風の5人組が席へ座ると、ある1人の男性客が口にするのを由美は耳にした。



「っかし痛ぇーなぁー なんなんだよあいつ いきなり噛みつきやがってよ」



「ママ~ とりあえず生5つと、悪いんだけど絆創膏なんかある?こいつ…さっき変な奴に噛まれちってさぁ~ 血が出ちゃってんだわ~」



スタイル「あらあら 大変…すぐにお持ちしますね」



噛まれた…?



由美は噛まれた男性を見ながら不安げな表情を浮かべオレンジジュースを飲み干した。



前兆…



既に箱から奴等は飛び出した…



明日には堂々と街に現れ…



人前に現れ…



すぐに死者や感染者で街は溢れかえるだろう…



これから本当の惨劇が始まる。

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