第117話 回想

虎口へ向かい歩む、エレナ、純や、由美の3人…



一歩… また一歩と1階エントランスに近づくにつれ、由美の心拍数は高まっていた。



お化け屋敷や深夜の廃校へ肝試しに行った時感じたあの恐怖、ジェットコースターに乗った時感じたあの緊張感



どれとも違う… この高鳴りは今までとまるで次元が違う…



そんな生ぬるいもんじゃない…今感じているこの緊張感、恐怖心、不安は…



それは…私が初めてゾンビや感染者を見た時よりも強く…



私があの時、初めて戦ったよりも激しい…



この鼓動の激動



飛び出しそうな程に心臓がバクバクと鳴っている…



ありえない心臓の拍動を感じる…



由美は自分の胸に手を当て強烈にそれを感じていた。



押し寄せる不安



怖い…私…どうなっちゃうんだろう…



心後る由美は、直ちにきびすを返したい衝動、またも逃げ出したい衝動の念に駆られた。



あそこは



あのエントランスは今や…



無数の感染者やゾンビで飽和状態なのだろう…



そして…その基幹にはあの理沙が待ち構えている…



そんな場所へこれから乗り込もうとしている…



普通なら考えただけでも心失す事



由美は一瞬目を瞑り、エントランスの光景を想像させた。



埋め尽くす奴等の数と、混じり合う奴等のうめき声



気色悪いゾンビや感染者の姿を思い浮かべ、由美の背筋に寒気が走った。



ゾクッとさせ、両肩が一瞬上がった。 その時



その由美の想像するビジョンの中、突然振り返り、由美と目が合う一体の感染者がいた。



驚き目を開けた由美



ふと思い浮かべた光景の映像に…



混じり込むその忌まわしき感染者と目が合った瞬間に



あの時の記憶が鮮明に思い出された。



走馬灯の様に超高速で由美の頭を駆け抜けていく記憶。



忘れもしないこいつの顔…



記憶のテープがコマ送りで巻き戻され…



由美の脳内で100万倍速な瞬速の回想再生が行われた。



あの一生忘れる事の出来ない忌まわしき記憶…



今から3ヶ月程前…



千代田区 神田淡路町



「…アイウォンチューーーーー♪ アイニィーチューーーーー♪ アイラァーブューーーー♪」



「イェェェェーイ」



カラオケボックスの一部屋に3人の女子高生がいた。



盛り上がる室内



両手にマラカスを握り、シャカシャカと振り回す制服姿の久恵。



「…ドンドン近づくその距離にぃーマァクースハイテンショーーン♪」



マイクを片手にお立ち台で熱唱する結香



由美「イェェェェー アイウォンチュー!アイニィーチュー」



両手を振り上げリズムを刻みながら大声で共に熱唱する由美の仲良し3人組の姿が見られた。



テーブルにはポテトチップスやポッキー、キスチョコなどの盛り合わせ、ジュースなどのグラスが置かれ、友達の唄に合わせ、テンションを上げた由美が立ち上がってソファーに乗り出すや



由美は、テーブルに足をぶつけ、3つのジュースをテーブルや床へとこぼしてしまった。



久恵「あぁー もぉー 由美ー 何やってんだょー」



由美「ごめーん」



慌ててテーブルを拭く由美と久恵



結香「…アイラァーブューーーー♪」



ごくありふれた、友達との楽しいカラオケ



その後も順番に流行りの歌、覚えたての歌、持ち歌18番などが披露され、2時間の楽しいひとときを過ごした…



どの街でも年齢問わず誰でも、ごく当たり前の様に、日常的に繰り広げられる遊びの風景



下校時の帰り途中、制服姿の少女達は笑顔で遊びを満喫し、時はあっという間に過ぎて行った。



そして、カラオケを終え、フィールドを変えた3人は…今



ファーストフード店にいた。



窓越しのカウンター席に座り、ポテトをつまみながら



由美「なにこれぇー うけるぅー 可愛ぃーー このコニー自分で描いたの?」



結香「うん そうだよ あーたのログノートも見せてみ」



久恵「あ~これ高田先輩じゃん どうしてあーたが一緒に写ってるのよ」



最近ドハマりしてる事



それは、ノートに好きな写真を貼ったり、自分で絵をイラストしたり、1日1日の出来事や思い出を日記の様に記録しながら楽しむライフ・ログノート



彼女等は、ファーストフード店でそれらを互いに見せ合い、話しに花を咲かせていた。



3人で互いの凝ったノートを見比べてる内



ページをめくる由美がある写真に目を止めた。



由美「あれ…ねえ…久恵 この6月5日のこの写真に写ってる三番目のこの子って…あの例の…C組の子…?」



久恵「うん…岸谷さん…友達の友達の友達だから私はほとんど話した事無いんだけどね… たまたま一緒に写真撮ったんだぁー」



結香「久恵 この子の…事故死じゃないってのはホントなの?」



由美「え?そうなの?でも…朝礼で校長が事故でって話して…」



声量を弱めながら結香「だぁ~か~ら~ 由美知らないのぉーここだけの話し違うらしいよ…なんでも発見された時には…顔が殆ど無い状態で殺されてたんだって話しだよ」



由美「え?」



結香「ヒドい殺され方だったらしいんだぁ…」



久恵「…」



結香「今、全国で凄いっしょー 例の通り魔事件 それとちょっと関係あんじゃない~ もーホント怖いよねー」



最近巷をにぎわすあのワード



最近電車の吊革広告にデカデカと載せられるあの文字



ニュースなどでも頻繁にキャスターが口にするその言葉は



通り魔事件



由美は今まで聞き流し特に気に止めた事はなかったのだが…



結香の話しを聞き、初めて意識した。



結香「え ならこれ見た事ある?」



すると結香がYoutubeを開き、ある動画を2人に見せた。



警察官1「すいません 撮影は止めて下さい」



野次馬の中、デジカメや携帯を映す人々を必死な様子で制止する警察官



警察官2「そこちゃんと抑えろ ここじゃあ野次馬が多い…その奥へ連れてけ」



そして、2人の警察官が1人の暴れる男を地面へうつ伏せに取り押さえ、そして物陰へと運び出した。



警察官「すいません 駄目です 撮るのは止めて下さい」



1つの映像が制止する警察官の隙を突き、すり抜け



しっかりと映像で捉えられていた。



路地の奥で、一斉に拳銃を抜く警官の姿



そして



パァン パン パァン



連続的に乾いた発砲音が鳴り響き、取り押さえられていた男の動きが即時に止んだ



ショッキングな映像にとまどう少女達



久恵「本当にあったんだ…初めて見た」



結香「今まで何度も削除されてたけど昨日アップされてました」



由美「何これ?本物?」



結香「分かんない…でも…これ凄くない?白昼人集りの中で警察が鉄砲撃っちゃってんだからさぁー ツイートで見たんだけどどうやら本物らしいよ この殺された男って…殺される前に5人の人を次々と襲ってたらしぃんだ それも全部噛みついたらしいんだよね マジうけなぃ 噛みつきって おまえは犬かぁ?みたいなね」



久恵「ふ~ん… あ ヤバい もうこんな時間だ… 私もう帰らないと」



結香「ゲッ もう21時じゃん お母さんに犬の散歩頼まれたの忘れてた… 帰ろ帰ろー」



3人はそそくさと帰り支度を済ませた。



結香「んじゃ由美 私達こっちだからまた明日ね」



由美「うん じゃあまた明日」



久恵「バーイ」



手を振り2人を見送った後



別れた由美は、すぐに携帯をいじり始め1人夜道を歩く



今、ハマっているパズルゲームのアプリに夢中になりがらゆっくりした足取りで帰路を進む由美



度々立ち止まっては歩き、また立ち止まっては歩くを繰り返す由美がゲームに夢中になっていると



「由美ー スマホいじりながら歩くのは危ないでしょ」



咄嗟に顔をあげた由美



由美「あ~~ 姉さんー」



そこには女装姿の男がチリトリとホウキを手に立っていた。



由美が見上げると電光の看板には筆記体でSnack bar Stylishの文字



「由美ー なんか久しぶりね~~ たまにはOJでも飲んで行きなさいよ」



由美「うんうん 姉さんお久しぶり~ 軽~く1杯だけ飲んでくー」



※本編から逸れて申し訳ないですが

かなり長い話しになります<m(__)m> 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る