第100話 恐怖

気絶したハサウェイ…



ハサウェイの意識は見知らぬ真っ暗闇の中にいた。



何処だここ…?



空間に浮遊するハサウェイの身体



ハサウェイは訳も分からず辺りを見渡すが…



宇宙空間の様な漆黒の闇の中、目を閉じたと変わらぬただの闇のみが続いていた。



肌の感覚や無重力の感覚はまるで無い…



ただ… 浮遊する身体を上手く制御する事が出来ずハサウェイの身体は前後左右へと回転



未体験な事に思うように身体が保てず、どっちが上でどっちが下かも分からぬままに…



不可思議な感覚のみが感じられた。



何とかバランスを保とうと、もがいているハサウェイの目に



突如 闇の空間の一部が円形に切り抜かれ…突如 その穴から光が差し込んで来た。



何だ…?何だよあれ…?



闇の中から忽然と現れた一筋の差し込む光にハサウェイの視線は釘付けとなり…



何の光だ…?



気付けば先程まで無重力に遊ばれていたハサウェイの身体はしっかりと制止され、見事バランスを保って静止されていた。



そして、その光へと近づくハサウェイ



いつの間にか順応し、移動するハサウェイが光へ差し掛かった時だ



「みちくぅーん ねえ みちくぅん」



女性らしき声がその穴から聞こえてきた。



この声… 聞き覚えのある声だ…



この声…玲奈…か?



ハサウェイが光へと覗き込んだ。



ガラガラン ガラガラン



あらゆるレーンのピンの倒れる音が聞こえる。



ボウリング場…?



これは…一体どうゆう事だ…



暗闇と、とあるボウリング場の空間が繋がっており、ボウリング場の天井付近に開いた穴から、その境目から覗き込み、辺りを見渡すハサウェイ



そして、見渡したその先に…



11番レーンで背中を向けた自分と、ある女性の姿を捉えた。



聞き覚えある… あの声…

 


間違いない… 玲奈だ…



玲奈のあどけない笑顔を直視しながら吸い込まれる様に、ボウリング場へと入り込んだ途端



その身体は一瞬にして溶け込み、背を向ける自分の中に意識のみが吸収された。



今から4ヶ月とちょい前の… 



日曜日



ガラガラン ガコガラン



玲奈「ねぇ 何見てんのぉ? 私が今スペア取ったの見てなかったでしょ?」



ハサウェイが顔を上げると頬を膨らます玲奈の顔を目にした。



道「あ う…うん…ごめんごめん」



玲奈「道くんだよ…次…みちくんの番だよ」



道「あ あぁ~ そっかそっか」



道が携帯をテーブルに置き、ボーリングの球を持ち上げた。



咄嗟に覗き見た画面、置かれた携帯の画面に映る、あるニュース記事の見出しが見えた。



連続通り魔事件、今月だけで50件



なぁーんだ



玲奈「道くん 頑張れぇー」



ガラガガラン



玲奈「わぁ~ 凄ーい ストライクじゃん」



道「だろ~」



2人の楽しいボーリングデートのひとときが過ぎて行った…



そして…



「すいませーん 生2、ウーハイ1」



「いらっしゃいませ~ 何名様ですか?」



「4番さんお帰り~〆てぇ」



玲奈「すいませーん カシスオレンジ1つお願いしまーす」



ガヤガヤと客で賑わう店内に忙しい店員が慌ただしく動いている。



道、玲奈の2人はある大衆居酒屋にいた。



先程行ったボーリングのスコア表を眺めながらカシスオレンジを一気に飲み干す玲奈



玲奈「ねぇ 道くんのハンドルネームでいつも使うこのハサウェイって何なの?」



道「え… それ今更?もうその質問3回目なんだけど」



玲奈「え~嘘だぁ~?そうだっけ?」



道「機動戦士ガンダムのホワイトベースの艦長ブライト・ノアの息子ハサウェイ・ノアから取ったんだって… 閃光のハサ……って おい 全然聞いてなくねぇ?」



玲奈「う~んだって私ガンダムとかよく分からないしぃ」



道「おまえが聞いたんだろ?」



玲奈「それよりさぁー ブクロの西口においしいパンケーキのお店が出来たって香奈が言ってたんだぁ こんど…」



チロリン



そんな時 ハサウェイのlineにあるニュース記事が入ってきた。



普段は特に気にする事も無いのだが



この件に関しては、妙に道の興味をひいていた。



「お待たせしましたぁ カシスオレンジです」



玲奈「はい あっこれも下げて貰えますか」



今… 全国で多発している無差別通り魔事件関連のニュース記事の速報だ



千葉県我孫子市で50歳男性襲われ負傷、犯人逃走



和歌山県和歌山市で22歳女性襲われ重体、犯人逃走



店員が空のグラスと皿を下げ、席をたった。



またかぁ…



なんか…最近多すぎないか…?



俯き携帯の画面を険しい表情で見つめる道



「…る?ねぇ…道くん 聞いてるの?」



ハッ と慌てて顔を上げる道が玲奈を目にした。



ハサウェイ「あ…うん…勿論聞いてるよ」



玲奈「これも香奈から聞いたんだけど、原宿にあるタイガーコペンハーゲンって雑貨屋が今凄く人気あるんだって かわいい~雑貨がいっぱいあるって言ってたから 今度 道くんも一緒に行こうよ」



道「あ… あそう… そうなんだ うん いいよ」



再び俯き携帯の記事へ目を向けた道



何故だか気になるこの凶事の連続



この禍機にやたらとざわつき、胸騒ぎを覚えてならない



今… 道の耳には玲奈の言葉は全く入って来なかった…



ただ…楽しそうにカシスオレンジを飲みながら語らう玲奈の顔を見詰める道



そして



23時を回った頃…



居酒屋での時が過ぎ…今日のデートは御開き、お互い地元同士の玲奈と駅で別れ、道は帰宅し自分の部屋にいた。



道は部屋着に着替えもせずベッドに座り込み、おもむろにテレビの電源を入れた。



液晶テレビの隣りに置かれた棚には、中学、高校時代に熱を入れていた弓道、アーチェリーのトロフィーがいくつも飾られていた。



テレビが点いた途端 またあのニュースが流れる



それは数人の警察官が暴れる男を取り押さえる映像



テロップには、全国各地で通り魔事件続発、被害相次ぐの文字



ニュースキャスター「本日未明、渋谷区宇田川町で男が暴れているとの通報を受け、現場にかけつけた数名の警察官によって男は取り押さえられました。男は意味不明な言葉を口にしながら駆け付けた警察官へ暴行1名の警察官が負傷しました。男はすぐに警察官によって取り押さえられ公務執行妨害と傷害致死で現行犯逮捕 男から詳しい事情を聞くと共に通り魔事件との関連性も調べるようです また本日、白昼に起きた事件です 千葉県我孫子で50歳男性が何者かに襲われ負傷、現在警察が犯人の行方を追ってるとの事です、また和歌山県和歌山市でも22歳女性が何者かに襲われ重体、警察が逃走した犯人の行方を追うと共に目撃者がいないか慎重に調べている模様です。」



気づけば道はテレビに釘付けになっていた。



まだ… 世の中には…通り魔事件としか認識されてない…



通り魔事件が全国に伝染し少々世の中が物騒になった それぐらいの認識



この時点で危機感を持つ者は果たして何人いようか…?



ゾンビ現象だと口にする者は…



果たしていたのだろうか…?



この時点で即対応し徹底していれば、もしかしたら未然に防げていたのかもしれない…



でも…現実は…



この時点でまだ誰一人として奴等を認識していなかった。



それは当然テレビで見ている道でさえもだ…



道が険しい表情でテレビを見ていると、忽然と携帯の着信音が鳴りだした。



着信相手は先程まで一緒にいた彼女



玲奈から



道は携帯電話を手に取った。



道「もしもし…」



すると…



玲奈「道くん お願い 今すぐ家に来て 何だか…お父さんの様子がおかしいの… お願い 今すぐ急いで来て 恐い」



慌てる玲奈の口調



普通じゃない…



道は理由も聞かず、即答した。



道「分かった すぐに行く…」



玲奈は俺と同じ地元の子



家は、チャリを飛ばせば10分もかからない程の距離



お父さんの様子がおかしい…って…



どうゆう事だ…?



玲奈の言葉が引っかかると同時にあの慌てた口調の玲奈



尋常では無かった…



道はとにかく急いで自宅を飛び出し自転車へ飛び乗るや玲奈宅へと向かった。



これから恐怖が始まるとも知らずに…


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