第92話 正体

9階フロアー内廊下



理沙、奇形型感染者vs芹沢



後ろを振り返るや否や、両手を握り締め



芹沢に狙われてるにも関わらず完全に背後を向けた理沙



たちまち真紅の眼を輝かせる。



理沙「きゃ~ なんて可愛いい子~理沙にそのお顔ちゃんと見せて」



そして…



「グフゥゥゥ」



獣じみた荒い鼻息と猛々しい気息を撒き散らし…



頃歩、また頃歩と廊下を歩み、触手の伸縮を滑脱させながら来向かふ奇形感染者



人を毀滅する為冥土からやってきたモンスターの様なその外見の醜さ…



何言ってやがる チッ こいつのどこが…



屹立する芹沢はトスミクロン砲の標的を理沙から突如乱入してきた禍災をはらむ危殆の権化へと向けた。



全身の肌膚に浮かび上がる無数の血管



その無数の血脈が悪心を催す程不気味に波打っている。



肌骨を驚かす変質で常軌を逸脱したあの風貌を…



可愛いさの欠片も無いこの化け物を…



どこが可愛いんだ?このビッチな女郎が…



しかし… まぁ敵に背なんか向けちゃってさぁ…



やっぱこいつはただの馬鹿か…



それとも…



俺の存在は…蚊ほどとでも言いたいのか…?



もしそうなら… あまりなめるなよ…



マイクロ蓄電完了… 超振動波率…強強



ブラスト全開



芹沢の全身にまとわりつく、よこしまな気勢が消えた気がする…



散乱した邪気が感じなくなった気がする…



今がチャンスよ



何が女王だ…



テメェーの玉座もティアラもここには無い…



たかだか低脳なゾンビの分際で…



気取ってんなよ…



こうなったらテメェー等まとめて潰してくれる…



芹沢の脇腹から滲み出る血液



芹沢が左目を瞑り顔を歪めた。



く… しかしまずいね…どんどん痛みが増してきてる…目も眩んで来たし…早く止血しないと…



今だ芹沢へ背を向ける理沙



今なら確実に倒せる最高の状況に再び理沙の後頭部へ狙いを定めた時



な…?



トスミクロン砲の発射の手が止まる程の…



攻撃を忘れる程の…驚くべき光景を芹沢は目の当たりにした。



拳銃を懐にしまい奇形感染者へ両手を広げる理沙



変態したその姿に満面の笑みで嬉しさを表現している。



理沙「うん うん 立派な成虫さんになれたのね~ もっと理沙にちゃんと見せて~」



芹沢の存在を全く忘れ、まるで我が子の成長を喜ぶ母の様に…



奇形感染者を見詰め近寄ろうとした時



何かがおかしい…



奇形感染者は理沙に目もくれる事無く通過、芹沢へと向かって行った。



理沙「うん?ちょっと貴方…?」



理沙の言葉に全く反応も示さず



まるで理沙を無視するかの様にそのまま通り過ぎて行った。



「グゥフ グググフゥウ」



たちまち理沙から笑みが消え始める。



理沙「ちょっと貴方 どうゆうつもり?」



止まりなさい…



だが 奇形感染者は停止する事無く芹沢へと向かった。



理沙は奇形者の背後から近寄りながら



理沙「ねぇ 貴方… この理沙の命令が聞けないの?」



ねぇ 言う事が聞けないなら…



そう意識下から言葉を伝達した時だ



理沙の右側面から鞭をしならせた様な触手が飛んできた。



奇形感染者が振り返り様、理沙の首に触手を巻きつかせ、軽々持ち上げるやそのまま投げつけたのだ



芹沢はその光景に一瞬目を疑った。



廊下を舞い、破壊されたドアから非常口階段まで投げ飛ばされた理沙



今のは何だ…



味方を投げつけた…?



仲間割れ…なのか…?



視線を釘付けにされた芹沢が身を固めていると、再びこちらへ振り向き近づいてきた奇形感染者



芹沢は迫り来る奇形者へ球体をロックオン



テメェー 化け物が…



そして発射しようとした直前



奇形感染者の醜い躰が浮遊し、足元が浮き上がった。



理沙「いったい~なぁー もー」



今さっき飛ばされた筈の理沙がいつの間にか奇形感染者の背後に立ち、背中部の衣服を掴み上げていた。



すると



後頭部から生えた触手が理沙の頬をひっ叩いた。



ボカッ



理沙の身体はそのまま顔から壁に直撃、壁が破壊され、粉塵が舞いあがった。



それから奇形感染者が再度振り返り様 



右肩にまたも触手を巻き付かせ、締め付け、壊壁の瓦礫から理沙をつまみ出すや…



引きずり出すと同時に脳天へ触手の打鞭を振り下ろした。



ドカッ



理沙の頭部は着床しそうな程に屈折そして、床で待ち受けていた物…



今度はカチ上げられた触手が理沙の顎を跳ね上げた。



バチコン



頭部が反り返り、後ろへ回転しながら吹き飛ばされた理沙の身体がそのまま床に叩き付けられた。



「グググフゥゥ フゥゥー」



鼎(てい)を扛ぐる手加減無しな触手の打鞭をまともに受けた理沙



芹沢の肉眼に信じられない光景が映し出された。



奇形感染者は理沙を葬り、芹沢に振り向いた…



そしてモンスターのまなこと合わせた その時



両耳から生える触手が後ろから掴まれた。



理沙「きゃは もう~ この身体お気に入りなんだから傷つけないでくれるかなぁ~」



またも奇形感染者の背後へと立ち、血まみれな理沙が素手で触手を掴んでいた。



そして理沙の真紅の瞳が猫目の様に細く変化し、口調が変わった。



理沙「どうやら刃向かうようね… なら不必要だよ… もういらねぇーよ おまえ…死ね…」



理沙が奇形感染者の両耳から瞬時に触手を引っこ抜いた。



ブチブチ ブチベチブチュー



血液が飛び散り、理沙の手に握られた2本の変形した腸



その腸には肝臓らしき物が変態、融合し、同化している



それらが芋ずる式に体内から引き抜かれ、飛び出された。



「ガググアアアアア」



理沙は握る触手を舐めながら



理沙「フフ あなたはもう栄養分よ… 食べてあげる」



そして後頭部の触手へとかじりついた理沙、奇形感染者本体に襲いかかった。



「グアアアアアアアアアアア」



「キァハハハハ 食べてさしあげちゃう」



巻き起こるえげつない光景



惨憺たる共食い



惨況たる夕餐



惨烈たる悪食



惨酷たる如何物食い



散漫する血液



散満する内臓や肉片



豈(あに)図らんや、美味に心躍る理沙の食欲が進み、一瞬騎虎の勢いで反旗を翻した筈の奇形感染者だったが…



今では単なる食糧の一塊として横たわり、女王自らによって食事が執行されていた。



食べられる…



食刑と言った言葉はこの世に無いが



まさに…そういった鬼誅の制裁を今受けている。



黒髪をかきあげ、耳に掛けると、裂かれた腹から心臓と2つの肺と同化した一匹の動いた生き物が取り出された。



この人間達に寄生する本体の姿



芽殖狐虫、マイクロネーマデルトリックス



この2匹の寄生虫が意志と知恵を持ち、人間を絶滅に追いやる



この怪異症の正体…



そして…こいつが感染者用の寄生虫



本来人体への感染など稀で数例だが…



突如牙を剥いた、細長い悪魔の回蟲



進化したマイクロネーマデルトリックスの姿だ



こいつらが何故…?



これは地球からの指令なのか?



自らの人への粛清なのか?



今言えるのはただ人間のみを無差別な対象に牙を剥いた事だけ…



全人類を根刮ぎ侵略し傀儡し絶滅しようとしている事だけだ…



理沙はその元凶なる寄生虫を内臓から引き剥がし、摘まんだ



理沙「あはっ いっただっきまぁーす」



そして蟲を口へと落とし、噛み砕いた。



それから咀嚼され、飲み込まれた。



そんな食事中 理沙がふと思い出した。



そうだ そういえば…



もう一匹人間がいたよね…?



理沙が後ろへ振り返るや



後ろにいた奴は既におらず



芹沢の存在が消えていた。



そう… 芹沢は既にこの危地から逃走をはかっていたのだ



あれー? いない?



まぁ いいっかぁー



そして理沙は何も無かったかの様に再び奇形感染者を食い漁った。

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