第67話 死別

警備室前通路



葛藤vsキラー 



模造刀に全体重が乗せられ、キラーの指がハネられた。



刃に付着する血潮、切り落とされた指が転がる



葛藤「どうよ? かなり気持ち良さそうじゃねえかぁ まさかのドMか?」



痛みでキラーの声が上擦る。



キラー「ぐぅぅぅ テメェー 殺してやる 絶対殺してやるからな… その喉かっ切ってやる」



葛藤「おっと まだ親指がしぶとくくっついてんじゃん やるならキッチリ全部やらねぇとな」



キラー「おい やめろ…マジでやめろ…」



葛藤「へっ やめろって? 冗談言うなよ… 嫌だね どうせおまえみたいなイかれチンポは命乞いした相手を笑いながら殺してきたんだろ?」



キラー「うぅぅぅ テメェー」



葛藤「頭のネジが2~3本イっちまってるおまえには丁度いい痛みだろ 今まで犯してきた悪行の分 人に与えてきた痛みの分 己で知れ」



キラー「このままで済むと思うなよ」



葛藤「あぁ そうかよ テメェーで勝手に苦しめバカヤロー」



親指に置かれた刃に…



再び全体重が乗せられた。



キラー「がぁぁぁ」



つめられた親指も転げ再びキラーの苦痛に満ちた咆哮があがる。



葛藤「ハハハハ まだまだテメェーこそこれで済むと思ってんなや」



葛藤がうつ伏せたキラーの襟首を掴みひっくり返した。



そして仰向けで苦痛に歪むキラーの眼前に刀の刃先を突き付けた。



葛藤「なぁ おまえが前田のおっさんを銃殺したそうじゃねえか どうだったよ? おっさん殺した気分はよ 聞いてやるから言ってみろ」



痛みでキラーは呼吸を乱しながら口にした



キラー「ハァハァハァ… あぁ?誰だそれ…?」



呆れた顔から笑みを浮かべた葛藤



葛藤「フッ そうきたかぁ まるで虫一匹殺した感じかよ… 人1人殺しておいて記憶にも残らねぇとはな… つくづくそのカス具合に反吐が出るぜ この救出作戦に参加した指揮官を務めてた人だよ」



キラー「ハァハア… あぁ あのおっさん等かぁ…」



葛藤「思いだしたか どんな気分だった?聞いてやるからさっさと答えろ」



キラーが葛藤を見入ると次第に口元を緩めた。



思い出し、笑みを浮かべ始める



キラー「どうだったって?ハァハアハァ…ふ…くく…ハハハハ」



そして声を出し笑いだした。



何がおかしい…? 



葛藤は怒りの表情へとサマ変わり、嘲り笑うキラーをギロリと見下ろした。



キラー「おまえ… ハハハハどんな気分だったって… 聞く事じたい明らかに愚問だろ ハァハァ そりゃあ後頭部と額から血が飛び出したんだぜ ピューってよハハ 蛇口みたいにピューてな… そんなの見たら…」



この野郎…



殺意に満ちた表情で刀を振り上げた葛藤



キラー「ウケたに決まってんだろ ハハハハ あんな面白いの携帯持ってれば即YouTubeに面白動画としてアップもんだったぜ アァー ハハハハハハハハ」



刀を突きつけられ、これから殺されるかも知れないのに…



そんな状況におかれてるにも関わらず… その時の光景を思い出し下品な声で本気笑いするキラー



こいつに罪の意識は皆無… 



トンボの羽をちぎったり…蟻の行進を踏み潰したりする無邪気な子供の感覚に近いのだろうか…?



いや もしかするとそれよりも更に突き抜けた感覚…



毛虫やゴキブリ、蚊といった人からすると害虫と呼ばれる虫を駆除した感覚に近いのかも知れない…



人を殺す事に何も感じない人間…



いくら無秩序な世界に変わってしまったとはいえ その感覚を欠落した者は…



もはや人であって人で無い…



人の皮を被った鬼や悪魔だ…



ゾンビと何ら遜色ない…



殺すに値する人間だ



そう… こいつはそういった人間だ…



葛藤が握る手に力を込めた。



葛藤「おまえのようなサイコパスは地獄に落ちろ そこでしっかり閻魔に説教して貰えよ」



葛藤が刀による死の執行をくだそうとした



その時だ



葛藤の背後でゴソゴソ動きが見られた。



葛藤の手が止まり、恐る恐る振り返ると、そこには切断されしキラーの指を食べる羽月の姿があった。



パリパリ爪を噛砕する音を鳴らし



クチャクチャ肉が咀嚼され嚥下された。



額から八方に幾線もの血が垂れ、肌色の皮膚を赤色に染めている。



削がれた耳からも血を流す元羽月が今度は落ちた人差し指を摘み、丸ごと口に頬張り咀嚼した。



モグモグ味わうゾンビと化した羽月を目にし葛藤は驚愕した。



馬鹿な… よしたかの時と同じだ…



ナイフが脳まで達し、死別した筈なのに…



なのにまたも死体が動き始める光景に葛藤の身体は凍り付いた。



「あ… あ~~~~」



2つの生ける食糧を目にした元羽月が瞳孔を広げ、立ち上がろともがき、早くも硬直する筋肉を動かした。



そして壁に手を付き起き上がろうとする。



元羽月「ぁ~~~あ~~あぁ~」



犬の威嚇のように喉仏を震わせ低音で発せられた不気味な声



いかにもゾンビらしい声をあげ元羽月が立ち上がった



固まる葛藤を虚ろな瞳で見つめ、頭をかしげながらユラユラと身体を揺らし静止



そして元羽月の大口が開き、付着する血によって赤く染まった歯を目にした葛藤も慌てて動いた。



「あぁぁ~~」



飛びかかり、噛みついてきた元羽月の口を模造刀で防いだ



顎の力が強い…



葛藤「くっ」



刃に噛みつく元羽月と取っ組み合う葛藤



2人は悶着した。



振り離そうと刀を揺らすが全く微動だにしない…



葛藤は咄嗟に刀を手離しサイドに逃げ、模造刀をくわえたままよろけた元羽月を突き飛ばした。



元羽月は前のめりに倒れ顔面から倒れ込んだ。



くわえた日本刀が離れる



元羽月「ああぁぁあ~~」



口内から出血させた元羽月が再び起き上がろうとした時



あるものに目が止まり、口が大きく開かれた。



虚ろな羽月の瞳に映ったのは…



また同時に葛藤も瞳を大きく見開かせた。



しまった…



それは目を疑いたくなる光景…



数秒でも時間を戻せたなら… そう思える程最悪な出来事が葛藤の目の前で起こった。



それは気絶し倒れる江藤の右足首に羽月が噛みついていたのだ



嘘だ… まじかよ…



テメェー



葛藤「どけぇー」



葛藤は刀を拾い上げ、すぐさま元羽月の脳天に力強く突き刺した。



大脳深くまで差し込まれた刃に元羽月の動きは止まり、たちまち沈黙



足首に噛みついたまま元羽月はただの死骸へと戻った。



葛藤は茫然と死骸を見下ろし立ち尽くした。



刀から手が離され、頭の中が真っ白になる葛藤



江藤が噛まれたのだ



葛藤は両膝を落とした。



次の瞬間



葛藤の耳元でボソッと聞こえてきた声



「気 取られてんじゃねえよ」



葛藤の喉に深々とファイティングナイフが突き刺され



葛藤「かぁ…」



キラー「よそみしてんじゃねぇ バ~~カ」



ブシャー



頸動脈が裂かれ、喉笛がかっ切られた。



葛藤は吐血、首からも大量な血のシャワーをぶちまける



根元まで突き刺し、かっ捌いたファイティングナイフを抜いたキラーが歪んだ笑顔を見せつつ葛藤の耳元で囁いた。



葛藤「かぁ… く…そ…」



キラー「くっくくぅ… あの世行きはオメェーの方が先だったな まぁお空に上がって例のおっさん等と指をくわえながら悔やめ すぐにおまえのお友達も酷たらしく殺してやるから先行ってな ハハハハハハハハ」



頸動脈から吹き出す血が天井まで届き、赤く染めたまま葛藤は仰向けに倒れた。



そして… 目を見開いたまま葛藤は絶命した。



仇討ちのにっくき相手に殺され、無念の表情を浮かべたまま…



葛藤が殺され、江藤は噛まれる最悪な状況が起こった。



扉の先にいる純やはまだそれに気づいていない…

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