第66話 不穏

京都府 舞鶴市 海上自衛隊航空基地



自衛隊の主力小銃である89式アサルトライフルを肩に担ぎ門の内側から警備にあたる2人の隊員



そして監視塔にも数名の隊員が立ち、辺りを監視していると



数台のエンジン音が警備兵等の耳に届いてきた。



先頭を走行するハンヴィー(M998四輪駆動車)M2マシンガンが搭載された銃座には米軍兵士が見られ



次いでストライカー(M1126ICV装甲車)最後尾にM113輸送車と計3台の車両が基地に向かって近づいてきた。



監視塔の隊員等が何やら無線でやりとりしている



3台は直進、接近するや扉は自動で開き停止する事無く基地内に進入して行った。



敷地内には軍用車両や哨戒ヘリコプター、戦車、民間の大型観光バスから4トントラックなどが乱雑に配置され



改良、整備や点検、補給で多くの隊員達が敷地内を慌ただしく動いていた。



「いいかぁ~ ハングファイヤーやクックオフを起こせば死に直結する 誤作動起こしてからじゃ遅いからなぁ 点検は各自しっかりとおこなうように」



「そこでやるな邪魔だ マガジンの弾込めなら向こうでやれ」



「たった今 座間2個小隊から応援要請が入った これから京都市に向かう おまえのとこの分隊も連れて来い 15分で装備を整えるんだ いいなぁ?」



「分かりました」



忙しない敷地内のド真ん中にハンヴィー、ストライカー、M113が停車



動き回る隊員達は揃って立ち止まり中央の車両に視線が注がれた。



その停車したストライカーのドアが開かれ、1人の米軍兵士が降り立つと周りで直立不動する隊員等に軽い敬礼を行った。



ハンヴィーやM113からも5名程の米兵が降り立ち、隊員等と互いに敬礼しあう光景、M113から何やら物資が運ばれ隊員等に受け渡しが行われた。



「バッファー准尉 お待ちしてました どぞ こちらです」



近寄ってきた隊員に付き添われ1人の米兵が建物の中へと入って行った。



建物内の壁には弾痕やら血痕が生々しく刻まれ、まだ死臭さえ漂わせている。



数日前まで相当数の死者が徘徊し巣くっていたのだから仕方ない



そんな真新しい基地の傷痕を見渡しながら米兵はある部屋へと案内された。



スライド式の扉が開かれ



隊員「失礼します バッファー准尉 只今ご到着致しました」



薄暗い部屋に通されたバッファーは軽いおじぎをした。



日本の残存米軍兵士で現在ZACTの一員である元アメリカ合衆国海兵隊第7艦隊歩兵師団バッファー准尉



宮本「バッファー よく来た そこへ座ってくれ」



バッファーは頷き空いた席へ着くとテーブルに置かれた書類に早速目を通した。



だが 暗くて字が読めない…



バッファーが顔をあげるとその先に



真ん中に組織の総司令官宮本が座り、右側には宮本と同い年くらいの男、元幕僚事務局長の長谷川、そして左には元西部方面隊陸上幕僚監部小西陸将、その隣に元舞鶴警察署署長 村瀬 向かいに元SATの隊長相原、そして猟友会代表の源八、関西の有力ヤクザ組織の代表小林、海上自衛隊もがみ一等海佐



そして海兵隊のバッファーを含めた9名が着席している。



小西陸将「続けてくれ」



薄暗い部屋の中、前方のスクリーンに映し出された日本地図



プロジェクターを扱いながら進行する軍服を纏った男、志水3等陸尉は頷き、再び話しを進めた。



志水「はい 前線の殲滅隊司令部から届いた報告によれば東部3市を除き愛知県全土はほぼ制圧したようです 現在80の分隊に別れ、残り3市の殲滅、また後方支援隊や捜索隊と共に生存者の救助や捜索活動にあたると共に発電所の再発、インフラ整備まで現在進行中との事です」



長谷川「いくらなんでも手際が良すぎじゃないか… 一体どうやってそんな短時間に?」



志水「はい 作戦は大阪攻略戦時と同様 ランナーやウォーカーからのアタックを避けるべく□型作戦を行いました」



長谷川「見渡しの良い幹線道路の十字路中心に車両を□型に配置、屋根からの攻撃…って作戦か」



志水「はい この作戦を行いました。ですが名古屋戦では急遽現場の判断で、弾薬の節約や殲滅の効率が考えられ、小火器による銃撃を軽減もしくわ一時中断が成され作戦が大幅に変更されました」



長谷川「…」



志水「各班ともにある一定の個体数を車両付近へおびき寄せある程度塊が出来た箇所にカールグスタフやRPG、M136、スティンガー、SAM2などといったロケット砲が使用され、一斉砲撃が行われました」



小西陸将「砲撃… たった火砲だけで奴等の駆逐に成功したのか?」



志水「いえ それだけでは流石に…その他にも2次の波状攻撃として爆発物を使用してます 爆発の距離を計算し巻き込まれぬギリギリの距離にセットされたC4やTNT爆薬などの一斉爆破です それによって奴等の大多数を一網打尽にする事に成功してます 必要最低限の弾薬消費で迅速かつ大きな成果がこれら作戦によって挙げられたと報告を受けております」



頷く一同



志水「この戦略方法を全ての部隊が実行した為、飛躍的に成果をあげたのは事実です。南雲が前々から立案していた局地的ピンポイント爆撃の立案書も書類にまとめてありますので後程目を通して頂ければと思います」



志水「これで鹿児島、福岡、大阪に次いで愛知もほぼ奪還に成功したと言っても過言ではないかと思われます」



宮本「そうか…名古屋の市街戦での負傷者は?」



志水「ハッ 1名が犠牲に、3名が爆発の破片物で負傷したとの事です」



長谷川「凄いな 奴等相手に被害はそれだけか?」



志水「はい 現在の所そう報告を受けております」



小西陸将「ハッハッー 宮本 大金星だなぁ~」



宮本「そのようで… 後方の状況については?」



志水「はい 後続部隊は佐世保から3個中隊が大分県の都市部へ殲滅を開始しました。現在75式自走多連装ロケット弾が使用され、進行は極めて良好との事です」



暗がりの中、目を近づけながら再び報告書の書類に目を通すバッファーに



宮本「では米軍の進行状況については?」



志水「現在海自、海保との連携で宮崎県に… バッファー ここで説明を」



志水に呼ばれるやバッファーは慌てて席を立ち、スクリーン前へと立った。



スクリーンには宮崎県の地形が映し出され、一度咳払いしたバッファーが流暢な日本語で話し始める。



バッファー「え~現在、ワスプ級強襲揚陸艦ボノム・リシャール、それからフリーダム級沿海戦闘艦、そしてしらね型護衛艦くらまの計3隻を沿岸に配備、6機のシーナイト(CH46輸送ヘリ)と2機のシーホーク(SH60J汎用ヘリ)により内陸部へ進行後、低空飛行でゾンビを海岸までおびき寄せました」



長谷川「ちょっと待て ヘリでおびき寄せる?成果はあったのか?」



バッファー「えぇ ええ はい勿論です 5時間でビーチには入りきらない程多数の死者が集まり溢れました」



長谷川「それから?」



バッファー「推定5万体の浜辺を埋め尽くしたゾンビ等にリシャールに艦載された3機のハリアーを発進、ハリヤーによるクラスター爆撃、また護衛艦からの5インチ速射砲、戦闘艦からの近SAM21連装ロケット弾などの集中砲火を浴びせました」



長谷川「一カ所に集めて集中攻撃か」



バッファー「はい 現在3回目の誘導を実行中です」



長谷川「その作戦の指揮官は誰だ?」



バッファー「ダグラム少佐であります」



長谷川「バッファー そいつに伝えてくれ アメリカ人は派手にやりたがる 無駄弾だけはするなと」



バッファー「了解しました 必ず伝えておきます」



宮本「よしバッファーもういいぞ 席へ着け 志水!続いて救出者の状況は?」



志水によりスイッチが押され部屋が明るくなった。



志水「鹿児島は20万人、福岡は14万人、大阪で6千人、愛知県は今の所3万人救出されてます」



小西陸将「この大阪の6千人ってのは何だ?なんでこんなに少ない?」



志水「恐らくですが… 殲滅侵攻時から既にランナーの比率が高かった所からして… 大都市の密集人口です 尋常で無い感染スピードによって被害が他の都市よりも大きかったのではないかと思われます」



小西陸将は溜め息を吐きながら「そうか… 大阪だからなぁ…」



宮本「感染の原因については?」



志水「今だ特定はされてません… 生きたゾンビや感染者の捕獲はされてますが分析、検査はまだです 救出者の中に疫学や生物学の学者、研究者などを捜索してますが、今の所まだ見つかっておりません」



宮本「見つかり次第報告しろ、すぐに研究チームを編成するんだ」



志水「了解しました」



その時だ



「失礼します」



突然部屋の扉が開かれ1人の隊員が志水に耳うちした。



志水のもとにある報告が舞い込んできた。



志水「何?本当か?… 阻止は?…分かった… すぐにその映像をこちらへ回せ」



隊員は敬礼するや急ぎ足で部屋を出て行った。



今まで一言も発していなかった70代後半の長く伸びた顎髭をたくわえる老人、源八がボソッとつぶやいた。



源八「何事じゃ??」



一同も不穏な空気を嗅ぎ分け



何かが起きたとすぐに悟った。



志水「少々お待ち下さい… たった今よろしく無い報告を受けました」



そして志水の無線トランシーバーに連絡が入り数分間話し込んだ…



志水「失礼しました ではっ… まずはこちらの映像を御覧下さい」



そしてスクリーンの映像に高速道路が映しだされそこを埋め尽くす死者の群れが映し出された。



隙間が無い程に歩む大量な死者の行進



志水「こちらは東名高速の沼津インター付近を飛行中のヘリが撮影したものです」



源八「ぎょーさんおるのぉ~」



もがみ「これがどうしたんだ?」



志水「はい… それがじつは… これは東名だけではないんです 関越、東北、中央、常磐と…あらゆる箇所で同時に発見されてます… 東部方面隊の地方駐屯地からも続々とこれに関する連絡が入ってきてます 突然ゾンビ共が集団で移動を始めたと……」



宮本「なんだと?」



宮本、小林、相原、村瀬の顔色が変わった。



長谷川「集団で移動を始めた…?一体何処に向かってるんだ?」



志水「えぇ それはルート的に…恐らく…」



志水「東京です」



何かに引き寄せられたのか…?突如関東全域のゾンビ、感染者が移動を始めた。



そして東京に向かって集結しようとしている…




理沙「可愛い幼虫さん達…頭撫でてあげるからおいで…おいで… キャハハハハハハハハ」



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