第65話 閃光

3階廊下



ハサウェイ、エレナvs芹沢



超振動の摩擦熱に加え、球体から伝導する高熱、電流よって細胞が瞬時に焼き切られてる



頸動脈が切られ、骨が切られる…



簡単に人体のあらゆる箇所を切断する



そんな芹沢の特殊武器



鋼糸によって顔面を踏みつけられた特異感染者の首に糸が巻かれ切り落とされた。



断面から出血しない手足、そして頭部が無惨にも身体から切り離され転がる。



糸が球体に戻され、芹沢は不適な笑みを浮かべた。



芹沢「フフ」



ハサウェイの弓、エレナの拳銃が己に向けられ、狙われてるにもかかわらず…



ハサウェイ「芹沢 鍵を渡せ」



芹沢「フフフ」



エレナは引き金に指を添え、いつでも発射可能な構えで芹沢を睨みつけた。



何…? 何なのこいつのこの余裕な顔は…?



エレナ「あんた 何がおかしいのよ?」



芹沢「フフフ お前らそんなに鍵が欲しいか?」



エレナ「当たり前でしょ さっさと渡せ」



芹沢「そうかぁ そんなに欲しいか… 鍵が欲しいんだろ… なら…無闇に俺は撃てないな? 今は俺を殺せない… 当たりだろ?」



ハサウェイ「それはどうかな おまえに致命傷を与えて奪い取る事は出来る」



芹沢は更に笑いを高めた。



芹沢「ハァハハハァ なら何故すぐに撃たないんだ? 撃てよ」



射撃に長けた2人が狙っている今…たとえどちらか片方に糸を放出しても片方がすぐに撃ち抜ける。



同時に両方を狙ってくれば、それなりのモーションが必要になり、その瞬間に撃ち抜ける。



どちらにせよ2対1なこの状況



私達の方が圧倒的に有利な筈…



なのに一つの曇りも無いこの余裕な表情…



心理的に…鍵を持ってる有利さだけで…



ここまで余裕でいられる筈が無い…



こいつのこの余裕…



この状況を打開する何かを持っている筈…



前にもこんな場面があった…



絶対に何かある…



何か奥の手が…



何を企んでるのよ芹沢…



エレナはそんな考えを頭に巡らせた。



芹沢が両手を広げながら口にした。



芹沢「さぁー撃て どうした 早く撃ってみろ」 



ハサウェイ「テメェー」



芹沢「撃てないだろ おまえ達俺が今それを持って無いんじゃないかとふんでるからじゃないのか…どこかに隠してあると思うからお前等は素直に撃て無いんじゃないのかな? 俺が憎くて 今すぐにでも殺したくてしょうがないのになぁ ハハハハ 教えといてやる おまえ達の読みは正解だ 当然キーアイテムは今ここには無い 鍵なら秘密の場所に隠してあるよ」



ハサウェイ「ならその場所をさっさと吐け」



芹沢「フフ それを教える訳無いだろ」



エレナ「教えなさい 生存者をここから逃がせば 私達だって本気であんた達を殺せるのよ あんた達殺し合いが望みなんでしょ!? なら 互いに本気になった方がゲームは盛り上がるじゃない」



芹沢「ハハ なんか必死だね 駄目駄目 大火災の迫る恐怖も始まったんだ こんな最高な条件 どちらかが滅びるまでこのステージから逃がす訳にはいかないっしょ」



エレナ「心底最低な男ね… あんたみたいなもやしの眼鏡小僧…」



ハサウェイ「なんで?なんでおまえらはわざわざ人を殺したがる?殺りたきゃ感染者やゾンビを殺ればいいだろ」



芹沢「そんなのもうとっくにやってるさ 感染者やゾンビ殺しはもう飽きちゃって だって奴等は肉を裂こうが、くり貫こうが…全く反応が無いんだ 痛みによる叫び声が全然無いんだよ」



ハサウェイ「…」



芹沢「それに比べ生身の人間は違う いいリアクションを見せてくれるよ 痛みつければ痛みつける程に いい反応見せてくれるんだ ハハハハだから獲物を人へと変えたんだ」



芹沢は更に両手いっぱいに広げた。



芹沢「ゾンビにはホント感謝してるよ この国の腐った制度やら縛られたルールを全てぶち壊してくれたおかげでこんなにも素晴らしいカオスの世界にしてくれた 何をするにも自由で毎日がワクワクで止まらない」



ハサウェイ「…」



芹沢「特に法律ってのが無くなってくれたおかげで人さえも本当の意味で弱肉強食の世界になって… まさにこれこそ原点回帰だよね 本能の赴くままに…欲求を満たすままに…俺等はやりたい事をやれてるからね」



ハサウェイ「それが殺戮なのか… ますますお前等を野放しに出来ん」



芹沢「殺しだけじゃない おまえも男だから俺等男の本当の欲求ってのは分かるだろ?」



ハサウェイ「本当の欲求? 分からねぇよ」



芹沢「フ 嘘つくなって なら一緒にそこの道具にも教えてやる」



エレナに視線を向けた芹沢



芹沢「食う事!? 寝る事!? 違うね 社会のルールによって弱者は守られてきた 母親にも父親にも子供の頃から教え込まれ、強く頭に刷り込まれてきた… そこに理性の蓋で強く押し込まれた事」



エレナ「…」



芹沢「男の本質は女を身も心も完全に支配したいと願う欲求 力づくで押さえつけ、犯して性欲を満たすのは本来持つ忠実な男の本能であり願望だよ」



芹沢はエレナを見ながら嘲笑した。



芹沢「いつの時代もどの国でも混沌になれば真っ先に女は性処理の道具にされるんだ 弱い者は強い者に喰われるんだよ それは歴史が物語っている 分かる?」



ハサウェイ「芹沢 勘違いするなよ 男全てがおまえらと同じ考えだと思うな 一緒にするな 例えそうならそれを守るのも男だ 俺はそんな事思わないしそんなの事認めない お前等なんぞにエレナと由美は渡さん」



芹沢「フゥ ハハ 偽善者だなぁ 女の前だから本音は語れぬか」



ハサウェイ「これが本音だ」



芹沢「まぁいいや 一旦ここは退くとするかな…」



ハサウェイ「退くだと?おまえこの状況で逃げられると思ってるのか?」



すると



芹沢が両手を懐に突っ込み、何かを取り出した。



その両手に握られた物



それは手榴弾だ



既に安全ピンに指が掛けられ、すぐに解除可能なその手榴弾を2人に示した。



芹沢「お2人さん こいつを爆発させれば俺も死ぬけどお前等も死ぬ そして永久に鍵は見つからず、残りもここから出る事が出来なくなる。そして…いずれは火災に巻かれて焼け死ぬ」



表情を険しくさせたハサウェイとエレナ



余裕の原因はこいつか…



芹沢「いいかい よーく考えろ 一瞬の判断の誤りが皆さんを死なせる事になる さぁ!今すぐ武器を下ろせ」



ハサウェイ「クッ」



奴の眉間を撃ち抜き、射殺すれば鍵の在処が分からなくなる…



鍵をこの手に取るまでは…



こいつは殺せない…



エレナ「どうすればいいの?」



ハサウェイ「クソ… こいつ全て計算した上で俺等の前に現れやがったんだ 仕方ない 言う通りにしよう」



エレナ「でも 下げた途端」



ハサウェイが弓矢を下ろした。



次いでエレナも渋々拳銃を下ろした。



芹沢は後退りをはじめ



芹沢「賢明だね 良い判断だと思うよ ひとまず皆様の脱出の可能性が繋がった感じ 助かったようだね じゃあ次にその武器を捨てろ」



武器を捨てた瞬間あの糸を放出して来る恐れがある。



芹沢「言うとおりにしなよ 早く捨てた方がいいよ ほれ」



手榴弾を見せつけてきた。



ハサウェイは背後に隠した小型ナイフに手をかけ準備しつつ、言われた通りに弓矢を床へ捨てた。



ハサウェイが小声で口にした。



ハサウェイ「エレナ 言う通りに銃を捨てろ」



エレナ「でも… 捨てた途端…」



ハサウェイ「言う通りに」



恐らくエレナに来る…



あいつのターゲットはエレナだ…



エレナを連れ去る気だ…



ハサウェイ「いいから 早く」



反応出来るか自信は無いが…



いや やる…



エレナが拳銃から手を放し、拳銃が落下した途中



待ってましたと瞳孔をカッと見開かせた芹沢が素早く右腕を前に伸ばし糸を放出させた。



時速160キロもの目にも止まらぬ放出速度でエレナの首に放たれた糸だが



寸前で小型ナイフが飛び出し、鋼糸はナイフへと巻き付いた。



よし うまくいった…



芹沢「チィ」 



すると芹沢は手にする手榴弾のピンを抜き、2人に投げつけた。



コロコロと2人の前に転がる爆弾



ハサウェイ、エレナの視線が手榴弾に向けられ身体を一瞬固めた。



マズい… ん…?



しかし 形状から見てこいつは…



手榴弾じゃない…



ハサウェイの目が膨張した。



軍事系の本に目を通した時



見た事がある



この形



フラッシュスタングレネード(閃光音響弾)だ!



ハサウェイは大声で発し、身を屈めた。



ハサウェイ「目を瞑れ 耳を塞げ」



そして、閃光弾が炸裂



強力な発光が廊下を包み



キーーーーと強烈な耳鳴りに似た音が発せられた。



咄嗟に耳を塞ぎながらしゃがみ込み目を瞑ったエレナ



同様に耳を塞ぎながら、目を瞑り背を向けたハサウェイ



強力な光と音が10秒間2人を包んだ



そしてそれらが止みハサウェイとエレナは恐る恐る目を開いた。



そして、すぐに気づいた



芹沢が既に姿を消している事に…


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