第64話 死闘

15階 エレベーターホール前



衣服と骨以外ほぼ食べ尽くされた健太の遺骸



床や壁にこびりつく血糊と小さな肉片が辺りに散らばり



そんな中 壁に背もたれ、座り込んで眠っている理沙の姿が見られた。



意識下の1つの回路が突然プツリと切れ、理沙が目を覚ました。



線が切れた… あの子死んだ…



理沙がゆっくり立ち上がる



化粧や手入れなどしていないのに…



人間よりも人間らしく



髪の艶、肌の艶



まだあどけなさの残る少女だった筈の理沙がいつの間にやら容姿や雰囲気さえも妖艶で色気を帯びた美しい大人の女性へと変身を遂げていた。



理沙「あの子が殺された…」



理沙の周りでうめき声や独り言をわめきながら徘徊するゾンビや感染者達



そんな中



理沙のしもべなのか…?



親衛隊を思わせる3体の特異感染者がつかず離れずの距離で立ち尽くし、空虚なまなこで理沙を見守っていた。



そして溜め息混じりに理沙が口にした。



理沙「ハァ~ もぉー 理沙は見つけるだけでいいって言ったのに… 命令に背いて勝手な事したんだ…」



ある一定の距離を離れると繋がる意識下の共有された視覚映像や交信が出来なくなる



ただ…回路自体はどんなに離れていても繋がっている



その回路が先程絶たれた



理沙を囲む3体の特異感染者が無言で近づいてきた。



すると 理沙が2体を指差した。



理沙「さっきの子が人間に殺された… だから貴方と貴方 この女を捕まえて来て頂戴 でも決して殺しちゃ駄目よ 新鮮な状態で連れて来て頂戴」



理沙の思い浮かべるエレナの映像が2体の特異感染者へと送られた。



え?他の人間?



それはもう… 殺してもいいし仲間にしても食べてもいい… 貴方達の好きにしていいよ… でもまずはこの女を優先して捕まえてきて…



いーい… さっきの子みたいに勝手な行動しちゃ駄目…



まずはこのメスを理沙の所に連れてくるのよ…



貴方達別行動もしないで…



貴方達2匹でしっかり協力しなさい ちゃんと生け捕りにしてくるのよ…



いーい? 分かった…?



理沙「うん…そう いい子ね… じゃあ 行って」



1体の特異感染者の首にぶら下がるプレートには医療法人小野田心理クリニックと書かれている



生前心理カウンセラーとしてこのビルの診療所に勤め患者の心の治療をしていたメンタルドクターだったのだろう



そして、もう1体はキャップ帽を被りツナギの作業服姿の特異感染者



生前このビルのメンテナンスを行う作業員だったのだろう感染者だ



そしてもう1体 理沙の横で佇む特異感染者の姿



外傷も見当たらず長身で俳優の北村一輝に似た特異者が理沙を見詰める中



2体は理沙からの指令を受け動き始めた。



これより新たな2体の刺客が送り込まれ…



エレナ達に襲いかかろうとしている。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



警備室前通路



どこまでも汚く…アンフェアな奴等だ…



こいつらに情けも容赦も無用…



殺す…



金属バットを振りかぶる純や



しゃがみ込み倒れた江藤の髪の毛を掴むデスに怒り漲る一打が振るわれた。



超豪腕からのフルスイング



当たれば即死間違いない



ブン



そんな殺すつもりで振り抜かれたバットだったが標的はヒットすれすれでそれを避け、大振りなバットが空を斬った。



デスが寸前で頭を下げ回避したのだ



バットはそのまま壁に激突、小さな穴が開き壁の広範囲にヒビが生じた。



デスの表情は一瞬青ざめ、すぐに立ち上がって後退



純や「おぃ 避けるな」



完全にキレた純やは左手にバットを握りデスに迫った。



デスは純やの気迫に押され後退、扉にぶつかりドアノブを捻るやそのまま警備室へと逃げ込んだ。



その扉が閉まる寸前ドアが蹴り飛ばされ全開、開いたまま扉が止まった。



純やも警備室へと足を踏み入れた



次の瞬間



扉の死角から突如デスが飛び出し、スタンガンを押し当ててきた。



そして放電



スタンガンが打ち込まれた。



ヂヂヂヂヂヂヂヂ!



先端がスパーク



純やの体内に電流が駆け巡る。



デス「ハァハハハハハハハハハ 間抜け野郎 眠れやクソがぁ」



チィ クソ野郎… 右手をよくもやってくれたなぁ…



うずくまるキラーが倒れた江藤を目にするやファイティングナイフを手に襲いかかろうと動いた瞬時



キラーの視界に飛び込んできた刃の切っ先



日本刀がキラーの目の前で寸止めされた。



そこには怒りの形相で佇む葛藤の姿



葛藤「おいおい 違ぇーべ 譲ってやったけど遊びはもう終了 おまえのホントの相手は俺だろ…」



バチヂヂヂヂ



純やが倒れ、金属バットが手から離れて床に転がった。



デス「ヘッ ショック死したかぁ ザコが」



キラー「テメェー」



キラーがナイフを握り、双方刃を身構える。



また純やを見下ろしスタンガンを握るデスが葛藤を目にする



あいつも眠らせ一気に始末してやるぜ



そしてデスがキラーの加勢に出ようとした時だ



ドカッ



デスの脊髄に衝撃が走った。



一瞬視界が真っ白となり、全身に衝撃が駆け巡り



デスは思わず口から唾液を吐いた。



な… なんだ…?



硬い筋肉の打撃…



デスは倒れる事無くその場でフラフラと立ち尽くした。



い… いったい…



一瞬訳も分からずピヨッたデスの背後には…



渾身の右ラリアートかます純やがいた。



そして 背後からデスの首に腕を絡ませた純やは身体を半転



そのままデスを投げつけた。



ガシャ ガシャガン ガラン



思いっきり投げ飛ばされたデスの身体はモニター画面やら機器に直撃、何台かのモニター画面が壊れる



なんでだ…?



こいつ… 間違い無く電気ショックを受けた筈なのに…



気を失った筈だぞ…



どうなってんだ…?



純やが指の関節をゴキゴキ鳴らした。



純や「なんでスタンガン喰らったのにって顔してんね 何でか教えてあげようか…」



あぁ なんでだよ…?



気絶するくらい強力に改造してんだぞ…



純や「…それはねぇ…」



ありえねぇ… どうしてた…?



純や「気合いだよ ハハン」



き…気合いだぁ…?



ふざけんな…クソ



それより身体が動かねぇ…ぞ



純や「おまえはここで死ぬしかないから 生きてここからは出さないからよろしく」



クソ野郎…



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ファイティングナイフをがむしゃらに振り回すキラー



だが葛藤は冷静にそれらを避けながらリーチの長い長刀で切りつけ、負傷した右腕を何度も集中的に狙っていた。



その度にキラーは表情を歪ませる



葛藤「ハハ ウィークポイントばっか狙って汚ねぇーかぁ?随分辛そうじゃねえか おまえは簡単には殺さねえからよ」



その言葉に逆上したキラー



キラー「うぜぇんだよ カス」



葛藤へ向けナイフを振りかざすが動きも遅く、隙だらけ



葛藤は再び負傷した右腕に刀を突き刺した。



キラー「ぐあぁぁ…」



キラーはバランスを崩しそのまま前のめりに倒れた



すると 倒れたキラーの右手が踏みつけれた。



グリグリ踏みにじられ



キラー「ぐぁぁ」



葛藤「ハッハハハハ オラオラぁ~」



キラー「マジ殺してやっから」



葛藤「んだと 減らねぇ口だな ならおまえはこの刑だ」



右の手首が踏みつけられ、5指に日本刀が置かれた。



青ざめるキラー



キラー「お…おい… 何する気だ?まさかそれはないだろ」



葛藤「あぁ?おまえら相手に情けなんて必要か?喧嘩売ってきといてそりゃあないだろ」



キラー「やめろ」



葛藤「指つめろや! 歯食いしばれぇ~」



キラー「やめろぉぉ~」



葛藤は思いっきり日本刀を踏みつけた。



キラー「あぁぁぁぁぁ」



指が切り落とされ、キラーが絶叫する。



純やがデスと葛藤がキラーと戦闘を繰り広げる最中



死体と化した羽月の目が突如開かれた。



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