第50話 経験

床に倒れた犠牲者の腹から胸にかけ裂かれ…



死体に群がるスーツ姿の感染者達



肝臓、胃、心臓、腸などあらゆる臓器が取り出され、争奪しながら貪り食している…



内臓は全て食い尽くされ空となる腹の中を掻き乱していた。



血の滴る臓器を噛みちぎり一心不乱に食する3体の感染者が純や達の存在に気付くと口に臓器をくわえながら勢いよく立ち上がった。



そして走り出した。



その後ろかも音を聞きつけ猛ダッシュしてくる4体の感染者達の姿



7体が襲い来る



まず1体、その後ろに並行した2体が純や達へ突進してきた。



純やは両手でバットを握ると迫り来る感染者に背を向けつつ踏み込み、回転、遠心力を加えて力強くスイングした。



感染者の側頭部へヒットすると首はへし折れ、頭が180度曲がった。



そして、そのまま並走する感染者にぶつかり3体同時に床に崩れ落ちる。 



純やは、即座によろけた感染者のネクタイを掴むと引き上げ、後方に投げつけた。



羽月、由美の前に感染者が倒れると



純や「トドメを」



そのまま床に倒れた感染者を待ち構えた羽月がツルハシ振りかぶり、頭に振り下ろした。



その間 純やが180度首の曲がった感染者の顔面を踏みつけながら左手でバットの先端部分を掴み、次に襲い来る感染者の顔面を突いた。



走行する感染者は、顔をひと突きされひっくり返る



背中から床に打ちつけ、滑るように由美の前に倒れた感染者



すると純やが由美へ叫んだ



純や「由美ちゃん そいつの頭を潰して」



由美は一瞬ためらうがすかさずスコップの角度を変え尖角面を振り上げ、目を瞑りながら思いっきり振り下ろした。



ザクッ



感染者の頭部から唇にかけ真っ二つに裂けんばかりに食い込んだスコップ



純やは顔面を踏みつける感染者にもう一度力強いスタンプを加えると



純や「どっちか こいつも殺って」



それから純やはバットを両手で握り締め、軽くジャンプしながら迫り来る感染者の脳天に叩きつけた。



感染者の脳天は陥没、耳や鼻、眼球から多量の血が流れ落ちると静かに床へ倒れる。



純やは倒れた感染者に見向きもせず迫り来る3体の感染者へ視線を向けた。



首の曲がった感染者の顔面に鶴はしがブチ込まれる…



羽月が鶴嘴を抜き前方に目を向けると…



肉片を噛み締める感染者、腸を握る感染者、肝臓を口にくわえる感染者がやってきた



純やの口元からうっすら笑みがこぼれるとバッターの様に金属バットを構えた。



純やの背後で若干震えながらツルハシを構える羽月、深々と突き刺さるスコップを何とか引き抜いた由美が身構える中



純やが2人へ「今からあの3体転ばせるから、コケたら前に出てソッコートドメを」



3体の感染者が我先にと互いに体をぶつけ合いながら純や達へ向かって突進してくる。



純やは握力を強め腰を捻ると力強くスイング、同時にバットを手から放した。



ブンブン



回転した金属バットが飛行し、感染者の足に激突



3体共にバランスを崩し、揉み合いながらスライディングで転倒した。



純や「ゴー」



純やの合図と共に羽月が前に出て感染者の後頭部に鶴ハシを打ち込んだ。



また羽月に続き由美も前へ出るとスコップを振りかぶり、やはり直視はまだ無理か…



目を背けながら感染者の頭部に振り下ろした。



2体の感染者は頭部を破壊され手足をピクピクさせながら次第に動きを止め沈黙する。



由美が脳ミソの飛び出た感染者の頭部からスコップを引き抜こうとした時



突如1体の感染者が由美の足首を掴み、食らいつこうと上体だけで飛びかかってきた。



血に染まる歯茎を見せ、感染者の開かれた口が由美の足にかじりつく直前



バコ



感染者の顎が蹴り上げられた。



顎が跳ね上がり、上体が反り返る。



由美が振り向くと純やが感染者の顎をサイドから蹴り上げていた。



上体反らしならそこそこ良い記録が出るだろう



それくらい反り返るが、感染者はまだ生きている…



急激に姿勢を正し、不気味過ぎる無表情な感染者の顔を由美が目にした。



感染者は再び口を開き、足首を掴むと再び食らいつこうとした



その時



ガコッ



鈍い音をたて、感染者の顔面に金属バットが直撃された



今度は、更にありえない程反り返り、首がへし折れ、背骨もへし折れ、頬骨、鼻骨は完全に陥没、右の眼球が飛び出した。



頭部がダランと垂れ…感染者は沈黙した。



純や「今のはちょっとヒヤッとしたね 大丈夫?」



由美「えぇ… あ… はい 平気です」



由美が辺りを見渡すと、7体の転がる死体を目にした。



今の戦闘で… 小規模だが…



ほんの小数が相手だったが



私も倒せた…



今起きたランナー戦を何とか勝利し私は生きてる…



襲いかかってくる恐怖、立ち向かう勇気、肉を突く感触、奴等の行動を不能にできた経験



初陣に等しい由美は初の実戦で複数の感染者を倒し自信をつけた。



私だってやれるんだ…



もっと経験して色々吸収したい



気付けば身体の震えはとうに消えていた…



純やが由美を目にすると「由美ちゃん そう その目だよ いい目になった グッジョブだったよ」



由美「はい ありがとうございます」



表情が変わり思わず笑顔がこぼれた由美



次いで純やは羽月へ「羽月さんもナイスファイトだった」



純やが羽月へ親指を立てた時だ



廊下はクランク状になっている



20メートル先で一端右に曲線しまた直線する廊下



その廊下の奥から突然声が響いてきた。



「本間さーん ほほーんま りぃさぁさぁ~ん 宣伝部までお連れしますょょょょょ~」



このフレーズを早口で何度も繰り返しながら近づいてくる声



由美「この声?」



羽月「いぃ~ こ…この声… 仲間を殺したあの四足歩行する奴のだ」



純や「スピードが尋常じゃない… 2人はちと下がってて ここは俺1人でやるよ」



「ほんまぁさーん ほほほんま りさりささーん…」



曲がり角まで声が迫り四足歩行の感染者がゆっくりと姿を現した。



地面に着ける手は手のひらで無く手の甲 手首が折れ曲がり、強引に手を着いていた。



白のポロシャツはほぼ血で染まり赤黒く変色、目玉はまるでカメレオンの様に不自然に動き、顔の至る箇所には傷口に数匹のウジ虫が蠢いている。



四足歩行の感染者は純や達の存在に気付くと飛び出さんばかりに目を見開かせ、大口を開け、ベロをブランブランと揺らすや襲いかかってきた。

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