第51話 示唆

13時46分  2階通路



純や、由美、羽月vs四足歩行型感染者



羽月と由美が邪魔にならぬ位置まで後退り、後方へと下がった。



「やややっぱ焼酎ははホットにかぎるよね ホンマに あ 本間さぁ~ん」



感染者の醜い外見にたじろぐ羽月



純やは金属バットを握り締めた。



四足歩行で近づく感染者は生きた人間を目撃するや猛烈に襲いかかってきた。



壁へジャンプ



蹴り上げ、跳ねるや地面に着きもう反対の壁へとジャンプ



それを数度繰り返しながら向かってきた。



「ビール最高~ やっぱ焼酎は常温にかぎるよね」



不気味な程に見開かれ充血した眼が純やの後方にいる由美をとらえ、由美目掛け飛びかかってきた。



一瞬にして間を詰め、由美に飛びかかった時だ



ドカッ



感染者の背中に金属バットが打ち込まれた。



由美の目前で感染者が空中で打ち落とされ地面に叩きつけられると純やは2打目を頭部目掛け素早く振り下ろした。



すると



感染者は頭部へ直撃する寸前、上体を起こし、後ろに飛んでそれを回避した。



純やは逃がすものかと再び顔面を捉えるべくゴルフ打ちの構えでスイングするがそれも空を斬られた。



バク宙で飛び、後ろに回避していたのだ



感染者は地に着くと再びバク宙で更に後方に飛び、着地と同時に今度は純や目掛け突進してきた。



早い…



人間を凌駕する運動能力、瞬発力、初速度…



純やが反応しきれない程のスピードで突っ込んできた…



まばたきする間に大口を開けた醜い感染者が純やへ迫り、押し倒された。



倒れた拍子に金属バットが手から離れ床に転がる。



獣の様に歯を剥きヨダレを垂らし、それが純やの頬へと落ちた。



「バーボン最高 枝豆最強 ほ ほ ほんまちゃ~ん」



純や「ぐっ…」



感染者の両腕、両甲が純やの両肩に押し付けられ身動きが全く取れない。



感染者の傷口を這いずるウジ虫が数匹落下し純やの頬へと落ちてきた。



そして感染者が純やの喉元に食らいつこうとした時



殺られる…



純やがそう思った時!



バコン



スコップが感染者の顔面に直撃された。



豪快に振られたスコップが当てられひっくり返ると



次の瞬間



今度はツルハシが振り下ろされていた。



感染者の頭部めがけ尖る刃が打ち下ろされたが、またも寸先で掠め、避けられた…



だが頭部は外したもののツルハシは感染者の右手首を貫き床に突き刺された。



由美がすかさず純やを引きずり、感染者から遠のける。



由美「大丈夫ですか?」



純や「ナイスフォロー 助かったよ…」



由美「私達がいるのを忘れないで下さい」



純や「あぁ そうだったね チームプレーに救われた」



羽月「おぃ 見てみろ こいつの動きを封じたぞ」



会心の一打で打ち込まれたツルハシが完璧に右手首を捕らえ、床深くまで突き刺さる刃



感染者の動きが封じられていた。



激しくもがく感染者の姿を3人は目にする。



感染者は強引に右手首を引きちぎろうとあがいている



羽月「どうする?マズいぞ」



由美が慌ててスコップを構え、立ち上がるや純やが由美からスコップを奪い取り、暴れる感染者の顔面にスイングした。



バチン



一瞬にして暴れる動きが停止



よろけた感染者の左手が壁際へ置かれた時、今度は感染者の左手に思いっきしスコップが打ち込まれた。



左手もろとも壁に突き刺されたスコップ



両手を封じられた感染者は叫びに近い声をあげた。



「イィィィィィィ いつも…ぃつもいつも…ぉせゎになっちます 人事部の根元です… はい… 焼酎の件ですか? ハイハイハイハイハイハイ…やっぱロックですかね?」



純やが金属バットを拾い上げグリップを力強く握り締めた。



トドメを刺す構えを取った



その時だ



3人は目を疑うような光景を目撃する。



瞬間的に感染者の不自然に動いていた黒目が正常に戻り口を開いた。



「はぁはぁ いいか… 簡潔に言う… はぁはあ 今から言う事をよく聞け… 聞いたらすぐに俺の頭を潰せ…」



由美「え?」 



純や「…」 羽月「…」



感染者「はぁはぁ… 虫だ…原因は全て… これは虫の仕業だ…はぁはぁ目的は… やや」



感染者の目が再び見開かれ、正常だった眼球が再び不自然に動き出すと元に戻って行った。



「ややや… 安井さん…埼玉の蕨支社への イィィィィィィ」



純やが金属バットを構えたまま固まっていると  



由美「純やさん!」



由美の一喝でハッとした純やが金属バットを振り下ろした。



バキッ グチャ



頭頂に直撃された感染者は床へ伏せ、頭を潰され完全に沈黙する。



羽月「やった」



3人は地に伏せた感染者を少しの間見下ろした。



由美「ねぇ… 純やさん… この感染者… 一瞬だけど人に戻った様に見えませんでしたか?虫がどうたらって何の事なんでしょうか?」



純や「さぁ…分からない…」



数秒程沈黙が流れた後…



純や「とりあえず先を急ごう」



由美「はい そうですね」



ツルハシとスコップ、金属バットを手にした3人は小走りで廊下を駆け抜けて行った。



純やは後ろを振り返り四足歩行の感染者へ視線を向ける。




12階 喫煙&リフレッシュルーム



煙草の先端が赤く光り葛藤の口から煙りが吐かれ



壁にもたれ腕を組みながら江藤が目を瞑っている。



ハサウェイが突如壁を叩いた。



ハサウェイ「チィ」



怒りを露わにしたハサウェイが幾度となく壁を叩いているとエレナが近づいてきた。



エレナ「ハサウェイ…」



するとハサウェイがエレナに…



ハサウェイ「どうして止めたんだ…?」



エレナ「え…?」



ハサウェイ「あの場であいつにトドメを刺さなかった事… 後悔する事になるかもしれない」



江藤が静かに目を開けハサウェイに視線を向けた。



ハサウェイ「群れていようが奴等は所詮烏合の衆 だがあの女は…いや あの感染者はそれをまとめられる力を持っている 少なくとも奴を外に放てば1ヶ月で東京… 半年で日本全土から人が消えるぞ」



エレナ「確かに… そうかもしれない… でもあの感染者は知性だけじゃない… 今まで見てきた感染者と違ったあの禍々しい感じ… 私だって放ってはおけないと思ってるよ…でも…あの場であいつを倒せる自信あった?」



ハサウェイがエレナを正視した。



エレナ「貴方は強い人よ 力だけじゃなくここも」



エレナは自らの胸に手を当てながら



エレナ「強い人間なら相手の力量は戦わなくてもすぐ分かる筈」



ハサウェイ「…」



エレナ「それは私でさえ感じとれたんだもん もし…あのままあの場に留まっていたら… まるこめさんの様にみんな殺されてたに違いない…さっきの奴は間違いなく格上の相手だった… 遥かに あいつは人間じゃないのよ…ハサウェイだってそれは分かってた筈よ」



葛藤は煙草の吸い殻を灰皿へと捨てた。



エレナ「焦らないでハサウェイ 好機を待ちましょう」



ハサウェイ「分かってる… それは勿論分かってたさ ただあの女だけは絶対に外へ出したらいけない もしかすると今こうしてる間にもあの女は外に逃げ出したかもしれないんだ…」



エレナは首を横へと振った



エレナ「ううん それは大丈夫だと思う あいつはまだ外なんて行かないよ」



ハサウェイ「何故そう言える?」



エレナ「目を見て分かったの、お腹が空いたらまた会いましょうって言ってた時のあの目… あいつは私のこのお肉が食べたいのよ だから必ずまた私の身体を狙ってくると思うの…」



ハサウェイ「…」



葛藤「なるほど 女の勘ってやつは当たるからな…しかし とんでもない奴が現れたな…渋谷のカス野郎共が可愛く見えてきたぜ」



江藤「エレナさんの判断は正しかったと思う」



葛藤「まぁ そうだな ハサウェイ熱くなるのも無理ないが冷静な判断に感謝しないとだぞ 一旦立て直しだ」



江藤「そうですよ ここは仕切り直しって事で」



ハサウェイが2人を目にし深く息を吸うと「うん… そうかもな エレナ…ごめん ありがとう、おかげで頭が冷めたよ」



エレナ「良かった あ!そういえば廊下に給水器があったね みんな冷たい水でも飲んで一度頭を整理しましょ、私持ってくるから待ってて」



葛藤「あ 俺…ビールが…」



エレナ「駄目です 酔っ払うのはここを無事に脱出出来たらです それにそんなのありません」



葛藤「ちぇ」



エレナは冷たい水を取りに廊下へと出て行った。



江藤がハサウェイへ「エレナさん なんだか見違える程たくましくなりましたね?」



ハサウェイ「あぁ…だな…」



葛藤がハサウェイへ「あの姉ちゃんのおまえを見る目は あれは愛する人を見る目だよな」



ハサウェイ「え?」



葛藤「しらばっくれんなよ 一夜を共にしてればそりゃあそうゆう関係にもなるだろうに」



ハサウェイ「何馬鹿な事言ってんだ…俺らは別に何も…」



葛藤「あー はいはい分かった分かった ただ俺が言いたいのは…あの姉ちゃんと今後愛を語らいたいのなら 愛を育みたいのなら 生きてここを抜け出さないとな… それにはあのラスボスを倒さないとだ」



ハサウェイ「あぁ… よ~く分かってるさ」



葛藤「事は簡単にはいかないぞ」



ハサウェイ「それも分かってる」



エレナ「お待たせぇ~」



そして、エレナが皆の水を持って戻ってきた矢先



ピーピーピーピー



壁に取り付けられた内線電話が突然鳴り始めた。

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