第41話 不倶

エレナがさらわれた…



エレベーターが閉まったこの瞬間から葛藤と江藤は、動揺と怒りを混同させながらもエレベーターの階数を目で追った。



奴等がどこでおりるか…



行方を知る手掛かりは、この瞬間で大きく決まる…



75…74…73



2人は、今、この場この時を集中しようとした時だ



矢庭にハサウェイが走り出した。



葛藤「ちょ ハサウェイ待て おい…おい ちっと待て」



葛藤の声に耳を貸す事無く全速力で廊下を駆け出すハサウェイ



まるで耳に入って無い様子だ



葛藤は慌ててハサウェイの洋弓を拾い、後を追いかけた



葛藤「馬鹿が 頭に血のぼらせやがって」



江藤は眼を離さず階数を凝視している。



69階を通過、69、65、60…



ハサウェイが非常扉を開き階段を下りて行った。



葛藤が江藤へ声を張り上げる



葛藤「おい おまえも早く来い あいつを見失うぞ」



54… 53… 50…



エレベーターは停止されず今だ降下している。



まだか… 止まれ… 止まれ…



江藤は焦りながら心の中でそう呟いた。



葛藤も非常扉を開くと大声で江藤へ叫んだ



葛藤「江藤 諦めろ 早く来い」



江藤「ちっ クソ」



今だ降下する中、やむおえず江藤もダッシュし後を追った。



葛藤はハサウェイを必死に追いかけ螺旋状の階段を降りて行く



江藤も非常扉を開けた瞬間 最後に後ろへ振り向いた。



34階を通過、33階…32階



まだエレベーターは停止されない…



江藤は諦め階段を降りて行った。



ハサウェイの頭の中は怒りと憎しみ、殺意が錯綜して完全に我を見失っていた…



あいつらに…



抵抗する身体を抑えつけられ…



虚ろな瞳から一筋の涙を流すエレナの姿が想像されていた。



早く助けなければ…



混乱するハサウェイが怒れる形相で階段を降下する最中



75階の小さな踊場付近で追いついた葛藤がハサウェイの肩を強く掴んだ。



葛藤「ハサウェイ 待て…何処へ行くつもりだ?」



ハサウェイはその手を払いのけ、また走りだそうとした時



葛藤がハサウェイの胸倉を掴み強引に壁へと叩きつけた。



葛藤「いい加減にしろ バカヤロー 少し落ち着け」



洋弓が葛藤の手から離れ、共に葛藤の日本刀も床に落ちた。



葛藤は力いっぱいハサウェイを壁へ押し当て、押さえつける



葛藤「ったく1人で先走りやがって このクソデカいビルの何処をどうやって探すつもりだよ?」



ハサウェイ「…」



葛藤「おまえがそんな状態でどうすんだ 頭を冷やせ」



葛藤の怒声が非常階段に響き渡った。



葛藤はハサウェイを押し付け、睨み付けていると江藤が階段を降りてきた。



葛藤「エレベーターは?」



江藤は首を横へ振ると「駄目だ 停止しなかったよ 少なくとも32階から下になるね」



葛藤「1から31階か…範囲が広過ぎるな… しらみつぶししてる時間なんかねぇーぞ 早く見つけねぇーとあの姉ちゃんマジで食われちまう…」



ハサウェイの力身が弱まり、次第に冷静な表情に戻って行った。



葛藤「もう少し範囲が絞れれば…」



そして葛藤は落ち着きを取り戻したハサウェイの胸倉から手を離した。



ハサウェイ「ごめん…」



葛藤は床に落ちた弓を拾いハサウェイへ手渡した。



葛藤「ほら これおまえの大事な武器だろ それよりどうする…?」



江藤「順々に行くしかないよ」



葛藤「31階分か?何時間かかるんだよ」



ハサウェイが弓を受け取った その時だ



ハサウェイがある1つの気配を感じ、上を見上げた。



すると76階の踊場からこちらを見下ろす1人の男がいた。



感染者か…?



ハサウェイは折り畳まれた弓を瞬時に広げ、背中から弓矢を取り出しセット



その男に向け構えた。



すると 男が口を開く 



「おいおい 待て待て 俺はゾンビじゃないぞ人間だ」



葛藤「誰だ?」



男は階段を下りながら「悲しいね…まあ作戦会議の時に会っただけだから無理もないか… あんたらと救出に参加した者なんだが…」



太った風体の男がハサウェイ達の前に忽然と姿を現した。



「あんたらとは別動のチームだった まるこめって者だ」



江藤「…」



葛藤「別動?あの渋谷のクソ野郎達と一緒だった人か… 申し訳無いがもうとっくに消されてたと思ってたよ」



まるこめ「あぁ それも無理ないな、実際俺以外はみんなあいつらの手に掛けられ殺されてしまったからな… 俺は何とか隙を突いて逃げてきたんだ」



江藤「今まで何処に?」



まるこめ「別に隠れてた訳じゃない 今まで渋谷の奴等の動向をいろいろと探ってた」



まるこめの肩には丈夫そうなロープが掛けられている。 



まるこめ「あんたらと今ここで会ったのも偶然じゃないよ… 今まで頃合いをずっと見計らってた それで今こうしてあんたらと接触した訳だ」



ハサウェイ「どうゆう事ですか?」



まるこめ「まぁ 詳しく教えよう それよりあんたらの仲間の女性が連れ去られただろ 進みながら話そう 教えやるからついてきな」



まるこめが階段を下り始めた。



そして急激に3人の目の色が変わった。



ハサウェイ「何故それを?奴等の居場所を知ってるのか?」



まるこめ「あぁ 一部始終見ていた 手助け出来なくて悪かったな だが拠点にしてる場所は既に内偵済みだ」



葛藤「まじか?」



まるこめ「恐らくあんたらの彼女はそこへ連れてかれるだろ」



葛藤「このデカいビルをしかもゾンビ共がウヨウヨしてる中をよく1人で探れたな」



まるこめ「職業柄、尾行や情報収集が得意でね」



江藤「刑事さんすか?」



まるこめ「刑事…では無い 公安だ それの諜報課に務めてたもんでね」



江藤「諜報課?」



まるこめ「簡単に言えば国家を脅かす反政府組織やテロリズム主義者の調査や情報収集する機関だよ その中でも…」



ハサウェイが横から入る様に口を割った。



ハサウェイ「まるこめさん 俺等が今知りたいのはエレナが何処へ連れ去られたかだ 奴等はどこにいる?」



まるこめ「あぁ そうだったな… 奴等は22階の会員制美容エステの部屋にいる。 それでこれを見てくれ…」



立ち止まったまるこめが懐から一枚の用紙を取り出し3人の前に広げた。



会員エステの間取りのようだ



まるこめは間取り図を指差しながら喋りはじめた。



まるこめ「ここが正面だ ここに4つのベッドが置かれている そしてその先に1部屋の個室がある。 十中八九龍谷は… あ!あのスキンヘッドの奴はこの個室にエレナさんを連れ込むだろう」



ハサウェイ「…」



まるこめ「龍谷って奴はある種の病気だ」



葛藤「病気?」



まるこめ「奴は重度のセックスジャンキーってやつで しかもその際暴れたり抵抗する女を無理矢理犯し続け、抵抗力を削ぎ落とす事で征服感を得るド級の変態野郎だ 逆を言えばあの子が目を覚ますまでは手を出さないだろう… まだ毒牙にかかって無い筈だ」



62階付近で3人は真剣にまるこめの話しに耳を傾けている。



まるこめ「問題は正面から行けば、他の4人がここで待ち受けてるって事だ 人質に取られてる以上無闇に突っ込めば彼女が殺される危険性がある… 行くならばこれを使ってここからだよ」



まるこめがある部分を指差し告げた。



葛藤「なるほ だけど行けるのは1人だけになるな」



まるこめ「あぁ その通り、ただし…もう一つ問題がある…龍谷とのタイマンだ あいつは完全な禁断症状に陥ると敵味方の見境が無くなり、狂暴化する 正に野獣みたいな男だよ 奴は今そんな危険な状態になりかけてる… 非常に厄介な輩だ」



ハサウェイ「タイマンか… そりゃ願ったりだな 俺が行く」



まるこめ「あんたがか…?」



ハサウェイ「当然 それでまるこめさんの読みでは…エレナが目を覚ますまで後どれくらいだと思う?」



まるこめ「そうだな… 電気ショックによる一時的昏睡だから…恐らく… 後5~6分って所か… もう直目覚めるのは間違いない」



ハサウェイ「まるこめさん 走れるか?」



まるこめ「おいおいデブだからって偏見はよくないなぁ~ 勿論走れる」



ハサウェイ「時間が無い フルダッシュするよ 行こう」



4人はダッシュで非常階段を下って行く

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