第40話 強奪

9時44分 78階



この階も各階同様いろんな企業がテナントとして入りオフィスとして使用されていた。



飲食チェーン店の本社から証券会社、流行りのIT系、金融系などなど異なる職種がオフィスをかまえ並んでいる。



4人は警戒しながら廊下へ足を踏み入れると、ゾンビや感染者の死体が至る所に転がっているのを目にした。



頭を撃ち抜かれ脳みそが飛び出る死体やら眉間から切り裂かれた死体やらが重なり床に転がっている。



その横には、何個もの薬莢が落ちていた…



ハサウェイがその薬莢を拾い手にする。



まだ熱い… 



葛藤「クソ共か…」



ハサウェイ「あぁ」



この室内のどこかに…



近くに奴等がいる…



4人は渋谷組の存在を確信すると同時にこれらが奴等の仕業だと把握した。



だが… おかしい…



ゾンビのうめき声も奴等が放つ銃音もまるで聞こえて来ない…



静まり返る館内に妙な違和感やら嫌悪感が込み上げて来た。



ハサウェイ「変だな… 静か過ぎる」



エレナ「え?なにが?」



ハサウェイ「いや…」



そして4人はゆっくりと前進した。



ゾンビ共の殺され方や惨状からして渋谷組の仕業に間違いない…



圧倒的な武力で制圧され、その行使された真新しい形跡が点々と克明に残されている。



なのにこの静けさ…



なんか引っ掛かる…



進んで行くと右手にIT系のオフィスが見て取れた。



うっすらな曇りガラスにデカデカとアピールするロゴマークが記され、ガラスの割れた箇所から中を覗くと、そこにも十数体のゾンビが息絶え肉の塊と化していた。



血の臭いと火薬の匂いが混ざり合い、充満する室内を更に進んで行くと、今度は左手に証券会社のオフィスが見えた。



エレナは半開きな扉から何気無く中を見るとあるものに視線が止まり足を止めた。



すぐにハサウェイの手を掴み



エレナ「ねぇ あれを見て」



2人で扉の隙間から中を覗き見すると部屋の中央付近にある異様な物が映し出された。



エレナ「何あれ…」



腹部から上が欠損された死体…



にも関わらず下半身のみがユラユラと歩んでいたのだ



その下半身はデスクにぶつかるとゆっくり方向を変えまた歩き始めている。



江藤、葛藤もその奇妙な光景を目にした。



葛藤「おいおい なんだあれ?ありえないだろ…」



エレナ「上半身が無いのに…脚だけで動いてる」



江藤「…」



どうゆう事だこれは…



奇妙な光景に唖然とする4人をよそに部屋を歩き回る下半身



葛藤が扉を開け部屋の中に入って行こうとした時



ハサウェイがふと床へ視線を向けた時だ



部屋に差し込む日の光に反射した一筋の鉄線を目にした。



トラップ?



ハサウェイが慌てて部屋に入り込み



葛藤の足が鉄線に引っ掛かるのを目にした。



…と同時にハサウェイは葛藤の腕を掴み強引に廊下へ引きずり出すや同時に素早く足蹴で扉を閉めた。



それから葛藤を遠心力で投げ飛ばし



江藤へ



ハサウェイ「扉から離れろ!」



江藤は瞬時に扉から右方へと離れ



ハサウェイはエレナに飛びつき、キャッチと左側に離れた。



エレナ「え?」



エレナが戸惑いの表情を見せた時



ハサウェイがエレナに被さり身を伏せた時



ボォー ボォーン



連発で爆発が起きた。



閉められた扉は、爆発で蝶番が弾け、爆炎と共に吹っ飛んで廊下の壁に叩きつけられた。



エレナを覆い床に伏せるハサウェイの周辺に黒煙がたちこめる



爆発から逃れた葛藤の表情は凍りついていた。



もし… ハサウェイに引っ張って貰わなければ…



あのまま爆発に巻き込まれ死んでいた…



部屋から大量の煙りが廊下に流れ込み充満された廊下の視界が急激に悪化



また壁には、くっきりと大きく2つの亀裂が生じ爆発の威力を物語る…



ハサウェイ「エレナ 怪我は?」



エレナ「私は平気 何が起きたの?」



ハサウェイ「トラップだ 何やら仕掛けられてたんだよ 恐らく手榴弾の類(たぐい)だろう…」



ハサウェイが起き上がり葛藤と江藤の元へ近寄る 



ハサウェイ「2人共 大丈…」



そして 入り口前に差し掛かった時だ



煙りに紛れ突然人影が飛び出してきた。



そしてハサウェイに掴みかかってきた…



その人影は…



龍谷…



突如龍谷が廊下へ飛び出し、ハサウェイの喉笛を掴むやそのまま壁に叩きつけた。



次いで、健太、キラー、芹沢の3人も黒煙の中から飛び出してきた。



渋谷組の奇襲だ



意表を突かれたハサウェイは壁に激突された。



ハサウェイ「かはっ」



ノーガードな不意打ちで諸に頭を壁に叩きつけられ、一瞬目の前が白くなった。



だがハサウェイはすぐに視点を戻すや龍谷の右拳に装着されたアイスピックの様な鋭い武器を目にする



キラーは江藤を見るや懐から投げナイフを取り出し、投げつけてきた。



芹沢はエレナを見つけるや指に嵌められた球体の様な物をつまみ、引っ張り出すや球体から糸の様が突出された。



芹沢「輪切りにしてあげるよ」



そして それをエレナ目掛け放出してきた。



龍谷が右拳を振りかぶる…



龍谷の握力で首を絞められ、壁に押し付けされた状態



避けるのは不可能



龍谷の右ストレートがハサウェイの眉間へ振り抜かれようとした時



ハサウェイは咄嗟にアーチェリー弓を手放し両手でその拳を捕まえた。



眉間までわずか2センチ



ハサウェイ「くっ」



龍谷が首を絞める握力を更に強めると共にハサウェイの眉間へ突き刺そうと渾身の力を振るってきた。



ハサウェイ「うぐっ…」



なんて怪力だ…



ハサウェイの両手は小刻みに震え必死に耐えている。



充満した煙りが分散し視界が晴れてきた。



江藤は瞬時に斜めへ体重移動するとスローイングナイフを避けた。



そのナイフはダーツの如くキレイに壁へ突き刺さる



キラーは次に懐から拳銃を抜き出し、江藤を狙うや既に江藤は瞬足で間合いを詰めていた。



そしてサバイバルナイフをキラーの手の甲へと突き刺した。



キラー「いだ」



キラーに激痛が走り、よろけると江藤は瞬時にキラーの握る拳銃をひっぱたき、弾いた。



拳銃がキラーの手を離れ床に転がる。



エレナがハッ!っとした瞬間芹沢の放つ怪しげな糸のような物? ワイヤーのような物? 



それが首目掛け飛ばされてきた。



エレナは咄嗟に拳銃の先端を盾代わりに、糸らしき物が拳銃に巻き付いた。



芹沢「お メスのくせして中々反応いいじゃん」



エレナが芹沢の眼鏡の奥に潜む不快な眼を睨み付ける



狭い廊下での突然の乱戦…



ハサウェイ「うぐぐ…」



ハサウェイの眉間までわずか1センチ程迫った時だ



バコ



龍谷の膝裏に蹴りが入ってきた。



龍谷の脚がガクンとくの字に折れ、体勢が崩れる…



後ろを振り返ると、葛藤が膝裏にローキックを入れていた。



次いで健太が迫り、ハサウェイに銃口を向けようとした時だ



葛藤が間髪入れずに健太へ拳を見舞った。



またハサウェイは力の抜けたこの僅かな隙に



龍谷の股間を思い切り蹴り上げた。



首を絞める手が緩むと、すかさず左の掌で腕を弾き、内側に半回転しながら龍谷の後頭部に手を添えるや



そのまま思い切り壁に投げつけた。



ドカッ



龍谷の顔面が壁に叩きつけられる。



ハサウェイは次に包帯を巻く健太の左手を目にするやその左手を掴み、力強く握りを入れた。



健太「がぁぁ」



健太の表情が激痛で歪み、膝が落ちると同時にハサウェイは右のミドルキックを健太の脊髄へと浴びせた



また前から葛藤が右ストレートを鼻筋へ



バコッ



後ろからハサウェイのミドル、前から葛藤の右ストレートパンチが決まった。



サンドされダメージの逃げ場無きコンビネーションの打撃を受けた健太は白眼を剥き、気絶して崩れ落ちていく



葛藤はすぐに江藤の援護に回りキラーを背後から日本刀で斬りつけた。



股間を蹴られ、顔面を壁に叩きつけられた龍谷が顔をあげる



その表情からまるでダメージを負ってない様子だ



そして龍谷が振り返ると瞳には…



今度はハサウェイが逆に右の拳を振りかぶっていた…



芹沢「あららら 健太ノビやがった… ちっと俺ら押されてるんじゃない あんなボコられてる龍谷初めて見るわ… つ~か あいつそろそろ中度に達してるな…」



エレナ「ねぇ あんた 随分余裕なのね 見てみなさい… もう勝ち目はなしよ」



芹沢はエレナを見るや馬鹿にした笑い声をあげた



芹沢「ハハハハ」



エレナ「何がおかしい?」



芹沢「いや~ あまちゃんだね これから俺等の性処理用のおもちゃになる女が何ぬかしてんの… これぐらいで勝ったつもりかよ プフフフ」



エレナ「な 性処理…」



エレナはハッ!と気付いた。



エレナ「あんたが芹沢ね?」



芹沢は舐めきった態度でエレナを見据えた。



芹沢「ええ 僕が芹沢っす」



激昂するエレナは糸の巻き付いたままの拳銃を芹沢に向け、構えた。



エレナ「許せない…あんたがあんないい人達を殺したのね」



芹沢は笑みを浮かべながら「まあ 殺ったのは俺じゃないんだけどね… それでどうする? それで俺を撃ち殺すかい? ククク」



芹沢のこの笑み…



銃を向けられてるのにこの余裕は何だ…?



エレナ「懺悔なさい そうすれば一思いに撃ち殺してあげる それともアソコを撃たれて苦しみながら死にたい?」



芹沢「フッ 分かったよ…」



芹沢が右手を挙げはじめ「あんたらの司令官2人を殺した事……… ホントに… フフ ホントに… フフフフ フハハハハハハ いや~ あれは愉快だったなぁ~ ァ~ ハッハッハッハァ~~」 



歯を食いしばり怒りに満ちてきたエレナ



エレナ「テ…テメェー……」



芹沢「…あの哀れなくたばりっぷり見せられないのが残念 動画に残しとかなった事が悔やまれるわ~ あの無様な死に様ぁぁ~~ ギャッハハハハハハ」



そして…



エレナ「せりざわぁぁぁ~」



キレたエレナが拳銃のトリガーへ指を掛けようとした



その時だ



バチバチバチィ



エレナに突然強力な電流が襲った。



身体中を駆け巡る電気に目を見開かせるエレナ



エレナの体は反り返り、一瞬にして意識を失った。



背中に押し付けられていたのは…



デスのスタンガン



芹沢「フフ」



床に倒れ込むエレナの髪の毛を寸前で掴みあげた芹沢



そのままエレナの背後へと回り込み



大声をあげた



芹沢「はい そこまで」



混戦する最中、皆が芹沢に目を向けた。



キラー「あぁ?」



江藤「え?」 



気を失ったエレナから奪い、こめかみに拳銃が突き付けられる



デス「止まれ さもないとこの女の脳味噌この場にぶちまけちゃうぜ」



ハサウェイ「エレナ クソ… やめろ」



葛藤「クソったれが…」



ハサウェイの瞳孔が開き急激に嫌な汗が額ににじみ出てきた。



芹沢がデスから拳銃を奪い取りエレナのこめかみへ押し当てながら口にする。



芹沢「龍谷 ここは一旦退避しよう おまえ… もうセックス依存の禁断症状が出はじめてる そろそろヤバいかも」



ハサウェイが動こうとするや…



芹沢「おっと おまえ動くなって このメス殺さないといけなくなるだろ」



ハサウェイ「くっ…」



龍谷「禁断症状?」



芹沢「ハァー 相変わらず自覚してないなぁ~ まぁいい とりあえずこの女で思う存分解消すればいいんだし… キラー そこでノビてる健太連れて来なよ 一旦戻るよ」



葛藤「誰が逃がすって?」



すると パァーーン



葛藤のすぐ横に銃弾が撃ち込まれた。



芹沢「あれ… マジかぁー 外した… やっぱ俺、銃は苦手だな おまえ動くなって言ったよね 動くと折角のメス猫殺さないといけなくなるし 頼むから大人しくしててくれない」



背中を斬りつけられ、ボコボコにされ顔の腫れたキラーが突如葛藤の頬をナイフで斬りつけた。



葛藤「ぐっ」



江藤、ハサウェイは頬に一本線が刻まれ、血が流れ落ちた葛藤を目にする…



キラー「テメェー あとで借りは返すかんな」



そしてキラーは拳銃を拾い、気絶した健太を肩に担ぐやヨロヨロした足どりで、芹沢、デスの元へと戻り



ハサウェイ「おまえら…エレナをどうする気だ?」



芹沢「どうするも何も…あれ!まさかこれっておまえの女…?」



ハサウェイ「大事な仲間だ」



芹沢は笑いながら「大丈夫 乱暴にレイプして下半身の慰めの道具として使わせて貰うよ」



ハサウェイの目つきが一瞬にして鬼の形相に変わる



ハサウェイ「ふざけるな てめぇーら その人へそれ以上触れてみろ 傷つけでもしたら、これ以上に無い地獄の苦しみ方で殺してやる」



いつも冷静なハサウェイが今にも飛びかかりそうな勢い、今まで見せた事の無い強烈な怒りを露わにした。



すると!突然



ハサウェイの左肩へ右のストレートがブチ込まれ、アイスピックが突き刺された。



ハサウェイ「ぐっ」



ハサウェイの肩に激痛が走る…



龍谷はハサウェイの肩からアイスピックを抜くとや無言で芹沢の元へと歩いて行った。



江藤「ハサウェイさん 大丈夫ですか?」



ハサウェイは膝を付き、肩を押さえながら叫んだ



ハサウェイ「その人を離せぇぇ」



拳銃を向けながらエレナを盾代わりに後退る芹沢、



渋谷5人組がEVへ向かい立ち去って行く



ハサウェイ、江藤、葛藤は迂闊に動く事が出来ず奴らのエレナ連れ去りを…



逃げ去るのを黙って見届ける事しか出来ない



葛藤「やべぇーな これ…」



そして渋谷組がEVへと乗り込み…



閉まる間際に…



芹沢「くっくくくく…このメス… 死ぬまで犯し続けてやるよ」



EVの扉が閉められた。



ハサウェイ「エレナァァァ~」



ハサウェイが無情にも閉まった扉に叫び声をあげた。



ハサウェイの脳裏に突然フラッシュバックが訪れる…



出会ってまだ間もない頃の何気ない会話…



エレナの部屋に食事を届けにきたハサウェイ、クリスの分を床へ置くやクリスは勢い良くがっついた。



ハサウェイ「はい 恵美子さん特製のサンドイッチだよ」



エレナ「ありがとうございます。」



クリスの頭を撫でるハサウェイを見ながら



エレナ「ハサウェイさん」



ハサウェイ「うん?なんです?」



エレナ「実は、まだ言ってなかった事なんですが… 私… ある人を探す為 博多から出てきたんです」



ハサウェイ「え? 人探し?」



エレナ「はい… 東京はその通過点だったんです 本当は北海道に行きたいの…」



ハサウェイ「北海道か そこにいるんだ」



エレナ「はい 探し人とは遠い親戚のおじさん何ですけど… お父さんに何かあったらその時はおじさんの所に行きなさいって 助けを求めなさいって… そう言われたの」



ハサウェイ「そうなんだ… それで博多から…」



エレナ「はい…」



ハサウェイ「じゃあここに引き止めてしまったのはマズかったかな」



エレナ「ううん とんでも無いです。命を助けて貰って凄く感謝してます。 それに…生きてるかどうかも分からない… 住所も分からない ただ北海道ってだけしか知らなくて… それなのにホントに行くべきか迷ってたんです。ただ漠然と向かってた… そんな感じだったので…」



ハサウェイ「そっかぁ」



ハサウェイが窓へ近寄るとエレナに振り返った。



ハサウェイ「よし じゃあこの作戦が上手くいったら、一緒に探してあげるよ」



エレナ「え? いや そんなの悪いです」



ハサウェイ「そこのワン公だけじゃボディーガードは心許ないじゃない 一段落したらその人探し手伝ってあげるよ」



エレナ「宛てもないですよ」



ハサウェイ「まぁ いいんじゃない 俺、北海道とか行った事ないし…旅もわるくない」



エレナは満面の笑みを浮かべると「嬉しい… ありがとうございます なんか駆け落ちみたいになっちゃいますね」



ハサウェイは笑いながら「それには…まずはあれを終えないとね」



窓から見えるそびえた高層ビルを見つめる2人…



エレナ「はい」



そんなエレナとの何気ない会話、エレナとの約束が頭を駆け巡った。



エレナの存在は既に自分にとって大事なもの…



傷つける者は絶対許さない…



失う訳にはいかない…



俺が必ず取り戻す



攫われたエレナを取り戻す為



ハサウェイが走りだした。




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