第5話 救出

信号機が折れて道路に落ち、複数の車が電柱や標識の柱に激突し折れ曲がってるボンネットへ直撃、激しくヘコませていた。



幹線道路を一台の白いバンがかなりのスピードで走行している。



道路には進行を阻むべく大破した車やバイクの残骸、燃え尽き黒焦げたバスやトラック、燃えて骨組みだけになるその車内に焦げた人の姿、それらが至る所に点在していた。



見渡す限り戦争の爪痕のような荒廃した街の風景が続き、完全なる無秩序と混沌の世界になり果てていた。



荒れた道路を、阻む障害物を白のバンが時速70キロのスピードで避けながら進んでいる。



荷台にぎっしり詰められた食料品や飲料水のダンボールが激しく揺れる中。



1人の男がハンドルを握りながら煙草の煙りを外へと吐いた。



そして、サイドミラーへチラッと視線を送った。



それから助手席に座る男が後ろへ振り返ると口を開いた。



よしたか「これじゃあまるで東京マラソンっすね…相変わらずこいつらって…疲れを知らないよなぁ~」



失笑とも言える微妙な笑みを浮かべるよしたか



ドライバーの男は、無言でアクセルを踏むと更にスピードを上げ、巧みな運転技術でギリギリ障害物を避わし、蛇行しながら走行した。



何故なら停止するのはおろかスピードを落とす訳にもいかなかったのだ



車が通過する寸前、右方向から突如感染者が現れ、車目掛けて猛ダッシュをかけてきた。



車はすぐに感染者を置き去りに通過していく。



そして、建物の陰から、横転した車の陰から、細道から、十字路から、向かいからと…四方八方からエンジン音を聞きつけた奴等が次々と出現、人外なる者共が一斉に車に猛突進して来る



白いバンは、そいつらを横目にぶっちぎり、気付けば車の後方は感染者やゾンビの大群に埋め尽くされていた。



そう… まるでマラソン大会のような光景になっていたのだ。



それは… 微かな生きる希望も根刮ぎもぎ取られそうになる程の…絶望的光景



目を背けたくなる程のゾンビの大群であった



車がそのまま大通りを左折しようとした時



前方から一体の感染者が向かってきた。



ドライバーの男は表情一つ変える事無く、冷静な顔付きでその感染者を躊躇無く弾いた。



曲線を描いて走り続ける車、感染者の身体は車の屋根へと乗り上げ、宙を舞い、地面に叩き付けられた。



よしたかが窓から顔を覗かせ振り返りながら口にした。



よしたか「あ~ これは即死だね…あっ ってかもう既に死んでるのか」



感染者の動かなくなった死体が遠のいてゆく…



その数秒後、感染者の大群衆も左折してきた…



まだ追って来る奴等をよしたかが眼にしながら…



車内へ顔を引っ込め口にした。



よしたか「葛藤さん もし俺があんな化け物になったら…容赦なく秒殺して下さいね」



煙草の煙りを吐くや窓から火が点いたままの吸い殻を捨て葛藤が口を開いた。



葛藤「当たり前だろ 秒殺どころか瞬殺してやるから安心しろよ」 



その時だ!



車内に設置された無線装置が受信され、連絡が入ってきた。



「ザァァァァ ザァ!葛藤!聞こえるか?どうぞ ザザァ!」



葛藤は無線機を手に取り「あぁ しっかり聞こえてるよ どうぞ!」



「ガァ 食料は調達できたか?どうぞ ガガ」



葛藤「ああ 綾瀬まで出張ったかいあって1ヶ月分の食料と水を詰め込んでる 今帰ってる途中だよ…あっ!どうぞ」



「ガァ 実は緊急で頼みたい事がある 帰り際に寄って貰いたい所があるんだ どうぞ!ガガ」



葛藤「おっさん! まさかまたTSUTAYAのエロDVD調達して来いとかふざけた野暮用なら今回はやめてくれよ…それなら断るぜ どうぞ」



「ザザァァザ ははっ そいつも頼みたい所だが、じつはハサウェイって子達を救出して貰いたい… どうぞ ガァ」



葛藤「ハサウェイ? 誰だそれ?うちのグループの奴じゃねぇだろ…誰それ?…どうぞ」



よしたか「あぁ~ ハサウェイって確かあの弓使いの奴っすよ…前に2、3度見かけた事あるじゃないですか…近くのマンションにいる違うコミュニティーの奴ですよ… 何てマンションだったっけなぁ…」



葛藤「なぁおっさん 俺等…自分達で生き残るに必死なのに他のグループの人間助けてる余裕なんてないぜ どうぞ!」



「ザザァザァ 葛藤よ!まあそう言うなよ 生き残った貴重な人間同士助け合いしないといかんだろう どうぞ ガガ」



葛藤「おっさんは情報収集係だかなんだか知らねぇけど毎日引きこもっていろんなグループの奴と連絡のやり取りばっかりしてっけど こっちは生活用品取ってこいだ、食料品取ってこいだで命も体も張ってんだ 気持ち悪ぃ奴等に毎日追いかけ回されて…もう、うんざりなんだよ どうぞ」



「ガァ 分かった…なら…夜の見張りを一週間免除してやるから…これでどうだ?どうぞ ガガ」



よしたか「夜の見張り免除?葛藤さん この条件なら熱くないっすか?」



葛藤はウンザリした表情を浮かべながら



葛藤「しょ~がねーなぁ おっさん今の話し忘れんじゃねーぞ…っで どうしろって?…あ!どうぞ」



「ガァ 先程新宿御苑マンションのおおますさんから緊急な頼み事されてな ご近所さんなんだからお前達も知ってるだろ?どうぞ ガガガ」



よしたか「そうだ!御苑マンションだ」



葛藤「知ってるよ それで?簡潔に頼むぜぇ どうぞ」



葛藤は苛ついた顔付きでよしたかへ口にした。



葛藤「このおっさん無線でベラベラお喋りすんのホント好きだよなぁ」



「ザァ 4名と犬一匹が地下鉄を移動中に奴等に襲撃されてな 地上に出てからも囲まれて 今身動きがとれないとの事なんだ おおますさん方は車の所持をしてない為… よってこちらに要請が来。 どうぞ ガァ」



葛藤「そんな事情はいいよ で?俺等は一体何処へそいつらを拾いに行けばいいんだ?」



「ガガァ 明治通りと甲州街道がぶつかる大きな十字路の角だ そこにある雑貨ビルに籠城してるそうだ コンビニと眼鏡屋の間にある藤森ビルって所 分かるか?どうぞ ザァ」



葛藤「分かるよ どうぞ!」



「ジィジジジ 頼んどいてなんなんだが… お前等も十分気をつけてくれ… かなりの数に囲まれてるとの事だ ガァ」



葛藤「りょーかい 15分で現場に向かう でわっ 通信を切るぞ」



「ガガァ 頼んだぞ 通信を終了する」



葛藤は大きな溜め息をつくと「朝っぱらから徒歩でうろつく愚か者共を助けに行くってのどう思うよ?」



よしたかは後ろを見ながら苦笑いを浮かべた



よしたか「はい… まだ…こっちも振り切れてないんですしね…」



大分、ゾンビ共と距離を離したものの…完全には振り切れていなかった…



葛藤は吹っ切れた様子でよしたかへ「朝早く起きたから俺はもう眠い サクッと終わらせっぞ 荷台に拡声器あったろ 準備しとけ それと…武装もな」



2人の男が救出に動き出す…


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