第3話 緊迫

200メートル以上はある長い駅のホームに来る筈も無い電車を待つ大量のゾンビの姿



白線の内側で列をなし、それが何列にもなっていた。



瞬く間に戦意が消し飛ぶ程のおびただしいゾンビの数だ…



ハサウェイ、江藤が眼を合わせるや2人は同時に、そしてゆっくりと後退をはじめた。



今…



奴等に気付かれ、襲われでもしたら一溜まりも無い距離



気配を殺すが如く慎重かつ忍び足でその場から離れて行った。



一歩また一歩



音を立てずに後退していると、2人の5~6メートル手前で一匹の鼠が鳴き声をあげた。



周辺のゾンビ達は一斉にその鳴き声に反応を示した。



凍りつき停止させた2人



ゾンビ共は生気の抜けた空虚な目でその鼠に視線を送っている。



ホームをヨロヨロさまようゾンビも足を止め、その鳴き声へ振り向き始める。



2人は静止、その様子を伺った。



息を呑むハサウェイ…



奴等にバレ… 今ホームから降りてこられたら終わりだ…



鼠は鳴き声をあげながらチョロチョロと辺りを徘徊、旋回し穴へと消えて行った。



すると立ち止まっていたゾンビ共は再び動き出し、特段ゾンビ等に変わった様子はみられなかった。



2人は再び後ずさり、何とか気づかれる事もなくその場から離れる事に成功した。



暗闇の中から少々青ざめた2人が戻るや純やが小声で問うた。



純や「どうだった?」



ハサウェイは首を横へ振りながら



ハサウェイ「駄目だ… えらい数がいる 電車待ちしてるよ…」



純や「どうします?戻るったって もう四谷見附のホームにもわんさかいるかと思われますね…」



ハサウェイ「こんな所で15、6時間も奴等がハケるのなんて待てない…」



すると



江藤「ちょっと待って…丸の内… 確か… この辺りにあったな… 確かここらに作業整備用の機材の格納庫があった筈なんです…確かぁ… そこに緊急時の非常用のハシゴがあって地上に抜ける筈」



ハサウェイ「そんなのあるのか?」



純や「ホントかよ?何処に」



江藤「駅と駅の間に一つはある筈…あ!純や君ちょっとあっち照らしてみて」



純やがその指差す方向にライトを向けると



江藤「あ!あれだ!あった あの扉だよ」



江藤が指差す先に再びライトを向けるや、15メートル程先にある錆びつき古びた1つの扉が照らし出された。



そして4人は迷う事無くその扉に近づき、その前へと立った。



純や「おまえなんでそんな事知ってるんだ? つ~か知ってるならもっと早く言えよな」



江藤「ちょっとだけメトロで働いてた事があってね 忘れてたよ 緊急時のハシゴなんて使った事無いし、地上の何処に通じてるかも分からない…」



純「は?メトロ?おまえが…まさか元車掌さん…?」



ハサウェイはすぐにドアノブを握り、回した。



鍵はかかってない



だが… ドアを押しても何かが引っ掛かっていて開かない



ハサウェイは再度体重を乗せながら力いっぱい押すがやはり何かがつっかえているようだ



開かない



ハサウェイ「駄目だ 開かないぞ 鍵はかかって無いのに開かない…多分、中のシリンダーが何かに引っ掛かってるのかもしれない…」



エレナも手伝い2人がかりで体重を乗せ、懸命に押すのだがやっぱりドアは開かなかった。



エレナ「駄目 開かないですね これ… ノブを壊すしかないんじゃ」



純や「ちょっと代わって」



純やが2人に代わりフルパワーで押した



だが一向に扉が開く事は無かった。



純や「ふざけんなよ もう一丁 マッスルパワー全開だぁ~ らぁ~」



純やが再び全身全霊で力を込め、押すのだが扉は数ミリ程動くばかりで開く事は無かった。



その時だ



イラつき顔で純やが突然ドアを殴打



純や「ざけんなぁ~ クッソぉー 開けぇぇー」



思わず大声をあげてしまった。



ハサウェイ「ちょ バカ 声を出すな」



純やはすぐに我に返るが同時に扉を叩く音、その声は無音の空間に響き渡ってしまった…



4人に極度の緊迫が走る



暗闇の中、奴等がいる方向へ耳を澄ませ凝視した。



今のはマズい…



頼む…



来るなよ…



誰もがそう祈り、長く感じる数秒間の沈黙



すると



暗闇の先から無数のうめき声が響き渡ってきた。



ホームから降り、線路へ雪崩れ込む奴等の狂気の声だ



やはり気づかれたか…



ハサウェイ「純や バットでノブを壊せ」



純やはすぐに手にするライトをエレナへと投げ渡すや金属バットでドアノブを叩きはじめた。



ハサウェイ「エレナさん!そのライトで先を照らしてくれ」



ハサウェイがエレナに暗闇の先を照らすよう指示



暗闇の先から木霊するいくつものうめき声



そのうめき声や足音が凄い速度で近づいてきた。



ハサウェイは弓矢がぎっしり詰められた筒状の入れ物を取りやすい位置へ移動、アーチェリー弓のリムや弦を急いで調整した。



ハサウェイ「来るぞ」



照らされたライト光に一体の走って向かって来る感染者が映され、次いでニ体目… 三体目、四体目と続き姿を現した。



その後ろからも無数の声は続いている。



先頭を走る感染者との距離は約30メートル



ハサウェイは筒から弓矢を抜き取るやアーチェリー弓にセット、先頭に狙いを定めた。



江藤もナイフを身構え戦闘態勢に入った。



ハサウェイ「出来るだけロングレンジで射抜くけど取りこぼした奴は…江藤!近接戦頼むぞ」



江藤「オーライ」



そして   ヒュ



ハサウェイが第一矢を発射された。

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