第5話

真矢が消えた後に辺りを確認する壱と水鵺。

嵩は呆然としていた。


それもその筈である。

嵩の婚約者である彼女が真矢。


真矢、名を瑞騎真矢(みずきまや)

嵩の婚約者であるが、それは家同士の誓約。

ふたりの間に愛などは存在していない。

真矢は壱や嵩と同じく数少ない純血魔族ひとり。

嵩には真夜に対して、愛などは存在はしてはいないが、真矢は嵩に執着している。

嵩にとって真矢は良き友人であり幼馴染みのような関係でしか無いのである。


因みに真矢は神族が嫌いであった。

特に水鵺の玖皇の一族を嫌う。

彼を嫌うのには理由があるが、それはまたの機会に。


『莉咲、治療を施す……』

水鵺が莉咲の体に手を翳すと淡い光に包まれた。体中にあった傷がみるみる治って行く。

『有り難う。』


『やっぱり真矢だったんだよね、あれ。』

治療を終えた莉咲は暗くなり始めた空を見上げながら、言う。

『そのようだ、真矢の身に何があったのか検討もつかない。』

項垂れる嵩を余所に水鵺も不安そうな表情を浮かべた。

『私達で原因を調べて、解決が出来るか不安になって来たかも。ね、亜朱。』

『そうね、夜詞の言う通り不安だわ。』


魔王の暴走、嵩の婚約者である真矢の行動。

魔王と云えど、平和を愛して病まない優しき紫王の身に何があったのか。

どうして人族を襲い始めたのか、まるで分からない一行。


『私達は魔王のいる、闇城(ダークパレス)に行くべきよね。』

『簡単に言うなよ、夜詞。今、俺達が居るのが人界なんだぞ?魔王のいる闇城は魔界にあるのを忘れたのか。』

『弘の馬鹿!中立界である聖・十字架学園(セイントクロス)を出て向かったのが此処、人界だから知ってるわよ!』


そう、今一行が居るのは三つの界の内のひとつである人界である。

三つの世界と冒頭で説明をしたが、彼等が通う聖・十字架学園があるのは、どの界にも属さない中立界(ちゅうりつかい)である。

各界の城には他の界へ行く為の転生陣があるのだが、王と王が許可した者以外が使う事は出来ないようになっている。


魔界の闇城(ダークパレス)の他に、神界の光城(ライトパレス)、人界の地城(ランドパレス)に転生陣がひとつずつ存在する。


中立界に属する学園にはそれぞれの界への転生陣があるのだが、各界の王が許可しなければ使えない仕様になっている。


夜詞達が人界へ来れたのは人界の王である竜凰に通行許可を得たから。

勿論、手筈を整えたのは学園の理事長のお陰である。

各界へは転生陣と王の通行許可があれば直ぐに行けるのだが、城に直接転生はされないようになっているのが残念な仕様であり難点でもある。

此れは各城への奇襲を防ぐ為の世の理とだけ説明しておく。

飛ばされる先は何処かは分からない為、壱と夜詞が直ぐに合流が出来なかった。

しかし莉咲が放った神力のお陰で、水鵺が波動を読み取り瞬間移動を行えたので、結果的には良かったのは間違い無い。


『父王が人界の民を襲わせているから、先に此方に向かってみたが、無意味だったのかも知れないな。』

『壱、そんな事は無いです。人界の民を見捨たく無かったから、来たのでしょう?』

水鵺が言うと壱は頷いた。

夜詞達もまず、人界に向かったのはその理由からであった。

幾ら神王が尽力しても、限界というものがあり、皆はそれを知っていた。

だからこそ人界で集う事が出来たのだろう。


『地城に行こう。父に会って、通行許可を貰わないと。』

其々の顔を見て頷くと、円になるように手と手を繋ぎ、目を閉じる。

『此処は俺の父が治める人界、俺が皆を連れて行くさ……』

弘がそう言うと、一瞬の内に9人はその場から姿を消した。

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