七ヶ宿の鬼

@Rakan

第1話

七ヶ宿の鬼

出羽街道と陸奥街道を結んだ、山中の道が七ヶ宿だ。

名前の通り七つの宿場があり、出羽の最終宿場が上山の楢下宿だった。

おばあさんは当時の事を良くひいひいばあさんから聞いていたそうです。

ひいひいばあさんの子供のころは,

大庄屋で上山一帯を取り仕切っていて大層なお屋敷に

住んで居て大名や殿様も寄ってゆく、有名な庄屋だった。

しかし、鬼が出て以来この大庄屋も廃れて言った。


その時の話をおばあさんは私に語ってくれた。


当時は十三大名がこの宿場を通り、参勤交代のたびに行き来していた。

福島県側の白石市に抜けるところに、代官所七ヶ宿の関所がありここでは

常に関所代官が出羽街道に目を光らせていた。

出羽街道では参勤交代の折に、野武士が出て大名行列も襲われた。

この関所には、選り選りの武将が6人控えており、その統率をしている代官も

武芸の達人だった。

ある日の午後。

妙な噂が代官所に聞こえてきた。

鬼が村里に出て、村人や子供おまけに家畜や犬の果てまで皆殺しにして

ある村は滅びてしまい廃墟になったとの噂が関所を通る行商人や馬買や修行僧から流れた。

ただ事ではない。もし参勤交代の大名が襲われでもしたら関所の代官職も危ないと悟ると家臣のひとり槍の達人である宗平という武士を偵察に行かせた。

宗平率いる、家来四人が出羽街道の六ヶ宿を見に出かけた。

馬は宗平一人なので、歩く四人は早々早く宿場に着く事ができなかった。

宗平は高を括っていた。「なーに殿が思うほど大げさではない。人から人に伝わるうちに一人が死んだものが皆殺しに発展している。良くある事よ。」

そう家来に言っていた。

一つ目、二つ目、三つ目、と宿を見て行くうちに、噂は皆殺しに遭うとの事で

命かながら逃げ出した商人や農民の一部が三つ目の宿場で話していた。

宗平はその話の主を宿場番所に呼んで聞いた。

行商人は話し始めた。

「代官様。噂ではありません。本当に七番目の宿場では皆殺しになり、人は女、子供まで、家という家の家族に至るまで皆殺しになっており、何もわからない、家畜や犬まで、町を歩く物全てが犠牲になっております。おそらく、最後の宿場楢下は廃墟です。」と言うと泣き出した。


宗平は「鬼は伝説の物と聞いておる。鬼ではなくて野武士や山賊ではないのか?」と問いただした。行商人は「代官様。代官様の言っている通りかもしれません。私はあの宿場を通りかかったときに、誰一人生き残って居る人も獣も居なかったのです。あれだけの人や獣の果てまで殺せるのは一人では無理です。」そう言うと顔を引きつらせて、番所を後にした。

宗平は最後の宿場楢下に出向くのが少し怖くなった。

一方、上山の町では楢下が全滅した事に大きなショックを受けて

楢下より下の出羽街道にその鬼が来ないように、

庄屋の家を中心に落とし穴や土豪を築き、

竹槍や武器のある家から全ての武器を取り寄せ、陣を築いていた。


もちろん、農民や女、子供、老人に至るまで、庄屋の家の周りに陣を成した。

ひいひいばあさんは、その時未だ子供で、何があったのかはわからなかったが,

母親や娘兄弟に至るまで、蔵の中に入れられ身を隠した。

当時の庄屋は鎧、兜をつけ、まるで戦国時代の様子を思い出すかのような緊張感が

漂っていたと言う。

一方宗平は、三番目の宿場を出て、四番目を過ぎ五番目の宿に来た。

明日は六番目の宿場に向かう準備をしていた。

そこに六番目の宿場の庄屋の使いが駆け込んできた。


「代官様。六番目の宿は建物や納屋に火が放たれ、出てきた者は全て皆殺しに遭い

街道は血の海です。首を切られてさらされている者、腕や足を引きちぎられて道のあちこちに捨てられる者。まるで地獄絵を見るようです。」と言うと気を失った。


それを聞いた宗平は、自分ひとりでは手に負えない事を悟り、早馬で一人の家来を七ヶ宿の代官の元へ使いを出した。

一方、五番目の宿場でそう決戦を予測して迎え撃つ準備の為、宗平は鎧や愛用の槍の先を研いた。


「これは合戦じゃ。生きるか死ぬかを覚悟せにゃならん。」そう家来に話した。


「しかし、誰も鬼の正体を口にする者が居ない。どうしてか?」

そのなぞが宗平の頭に浮かんだ。

丸一日が過ぎ。

宗平は五番目の宿場でじっとしている焦りを感じ始めていた。

「敵はもう直ぐそこまで来ている。どうして槍の免許皆伝の俺がこの宿場で

おどおどしている。ここに殿が着たら恥になる。」

そう思うと次の日の朝、家来を3人引き連れて六番目の宿場に向かった。


しかし、それが生きた宗平を見た最後だった。


三日目、七ヶ宿の代官が総勢50人の兵と免許皆伝の武将5人を引き連れて

五番目の宿に到着した。五番目の宿の庄屋は、

宗平が昨日六番目の宿に向かったきり帰ってこない事を告げた。

殿様は驚いた。

「槍の名人、免許皆伝が死んだ。そんな馬鹿な?100人切りも

あの戦国時代に偉業を成し遂げた奴が死んだ。」そう言うと目を瞑り、

「今日はこの五番目の宿で一泊するはずだった。しかし、宗平が討ち死にした

この敵を獲らねばならん。皆の者、野武士をあなどってはならん。見つけ次第殺せ。」そう言うと馬に乗り五十人の家来と武将五人を引き連れ六番宿に向かった。

もう夕日が落ちかけた峠は、宗平の死で血の色に染まるように真っ赤に色づいた。

夜中。六番宿の端のお寺の辺りまで、行軍が迫った。

先頭の代官が馬を下り、お寺に向かった。

お寺の中には、非難した村人や女、子供であふれていた。

住職を呼び出し事情を聞いた。

「殿様ですか?。大勢の武将を連れてきてもらい、ありがとう御座います。しかし

ながら、相手がわかりません。もう村人を含めここに居る者たちが六番宿の最後の生き残りです。」そう言うと、代官は驚いた。

「以前、六番宿に居た人たちは、一番多い時で五百人は居た。しかし今は八十人しか居ない。恐ろしい事だ。俺がもしこの六番宿で食い止められないと残り全ての宿が犠牲になる。いったい何人の武将や家来が居るのだ。これだけ非道な事をするのは、野武士や山賊を超えている。もう地獄の亡者としか言いようが無い。」そう思うと恐怖が沸いて来た。

村人のかなで唯一鬼を見たものがおびえながら住職に手を引かれ現れた。

代官は近づき声を掛けた。

「正直にお前の見たありのままを申せ。」

おびえた村人は「あれは地獄です。家に押し入り子供の果てまで殺すと家に火をつけて燃やす。あっという間に次の家に行き

また殺し、火をつける。殺されている人は、全て頭を引きちぎられて、腕や足もバラバラに引き裂かれていた。血の海の中笑い声だけが燃え盛る家の中で、響いていた。逃げ出すものはあっという間に追いつかれ、首をへし折られ、むしり、道端に捨てられた。犬が吠え付くとその犬さえ火の中に放り投げ焼き殺す。あれは地獄だ。一人の武将が槍で突こうと近寄ったが、槍をさすと刺さった槍を折り、武将を馬から引き釣り下ろして、首をむしった。」そう話すと血相を変えて村人は人ごみの中に消えた。

代官が追おうとしたが、和尚に止められた。「代官様。無駄です。あまりの地獄の沙汰に奴は気が狂っているのです。」 そう言うとその場に居た者たちは泣きだす者雄叫びを上げる者、笑う者、全てが狂人としか思えないほどだった。

代官は家来に向かい「皆の物よく聞け、この有様はただ事ではない。生きてこの寺に戻れるか判らない。征伐に行きたくない物は今のうちに申しでい。」と言うと

家来は誰も申し出なかった。

代官は「前たちの命わしがあずかった。」そう言うと、勢い憑いた家来は歓声を上げた。「いざ出陣じゃ」と言うと代官を先頭に、

紅蓮の炎に包まれる宿場目指して行軍した。

直後に居た鎖鎌の達人、矢四郎が話しかけた。

「殿、あの宗平がやられたのですからすごい力と武芸が達者だと思います。心して掛からないと。」と言うと

代官は「そうだな。他の者にも何を見ても油断するなと話せ」

そう言うと、次々に代官の言葉を伝えた。

宿場が近づくと炎の暑さで、顔が熱くなった。宿場に着くと、驚きとあまりの惨劇に目を覆った。道端に子供の首が引きちぎられて落ちていた。回向しながら進むと次に犬が燃える家から炎に包まれて駆け寄ってきた。家来はあまりのむごさに成仏するように槍で突いて殺した。宿場通りは血や引きちぎられた腕や足、首や胴体が散乱していた。

十人ほどに分散して、大きな路地や袋小路に敵が隠れていないか調べた。

宿場の中央を代官は馬の上から見渡した。

その時、宿場のはずれに白装束に真っ赤な返り血を浴びた若い女が呆然と立っていた。代官は後ろに屈強の武将を三人従えて駆け寄った。

代官は馬の上から声を掛けた。「どうした娘子。鬼は何処に居る。」すると黙って

右の通りを指差すと倒れた。家来が駆け寄りすかさず抱え起こすと娘は気を取り直した。「お殿様鬼の面を着け、馬に乗った物が走り去りました。」

「どのくらい居た。」「30人は居たでしょうか?」そう言うと家来にしな垂れて

また気を失った。それを聞いた代官は、武将3人と家来20人をつけて娘の言った

方角に向かわせた。しかし、その方角は五番宿とは逆の七番宿だった。

矢四郎は殿に駆け寄るとささやいた。「殿おかしいで御座る。すでに七番宿は落ちております。向かうなら五番宿では?」それに対して代官は「戦術ではわれら屈指の武将が五番宿から来たのを知って七番宿に引き返し残りの宿人が庄屋の家にかくまわれている。それを殺しに行ったのじゃ。」そう言うと矢四郎は納得して下がった。

代官は「この六番宿で生き残りが居るか確かめながら待とう。」そう言うと

お寺に引き返した。馬の背に乗せられて居る唯一の生き残りの女は、気がつくことも無くしな垂れて馬に揺られていた。

お寺に着くと女が気を取り戻した。

お寺に着いた代官は、真っ先に生き証人の女を陣に呼び事情を聞いた。

矢四郎をはじめ、二人の武将や代官は娘がおかしい事に気がつき始めた。

どうして、返り血を襦袢が真っ赤になるほど、浴びていたのか?

それに対して娘は「両親の返り血を浴びた。」との証言だった。

女は「あの鬼面をかぶった武士を早く捕まえないと又犠牲者が出る」と言うと

また気を失った。

色々な疑問があったが、昔の事ですから追及はそこまででした。

宿人の女に気を失った女を預けると矢四郎は宗平の無念を晴らすべく拳を柱に打ち据えた。


半日すると七番宿に行った家来たちが無事戻ってきた。指揮をした家臣は七番宿の庄屋を証人として連れ帰った。

庄屋を代官に合わせると、「類焼する家を見て家族と逃げるのがやっとで

何も見てない。本当にあっという間に、通りは血と火で埋め尽くされて、家は焼け落ちた。その勢いは、風神が来て、風を起こしたようだった」と説明すると

代官は、鬼の面を着けた盗賊を探すべく、

書状を書きしたためて、家来に持たせ、白石の殿様に届ける手はずをした。


鬼は何処に消えたのだろう。鬼の素性はいかに。


五番宿を中心に六番宿、七番宿も探し回った。

五十人の家来や五人の家臣も血眼に

なり、回りの川や谷、山の上、獣道全て探したが、鬼の居る形跡は無かった。

唯一、六番宿で助けた女が承認だった。


代官や家臣五人が集まり、女を呼び出しまた事情を聞く事にした。

女が代官や家臣の居る前に来た。

「あの六番宿での事を正直に申せ」代官が言った。

女は「私は下駄屋の娘で菊と申します。もう牛三つ時を回ったころでしょうか?

急に表が騒がしくなり私や母、父が飛び起きました。すると間もなく座敷にわらじのすれる音が、何十人も人が家の廊下をこちらに向かい走ってきました。そして

私たちの居る部屋の障子を蹴破り、踏み込みイキナリ父や母を切りました。

私は切られた父や母の血を浴びて、呆然としていると一人の鬼面が私を抱えて外に連れ出したのです。それから先は気がつくと家の外の軒下に捨てられてました。

鬼面はきっとあまりの返り血と気を失ったことで、死んだと勘違いしたのだと思います。

気がつくと回りは火の海、子供や老人、犬、猫に至るまで殺されていました。」


そう語ると泣き出して、後は聞き出せなかった。


代官は「もう泣くな。よーく判った。最後にもうひとつ聞きたい事がある。」


「どうして、お前はあの時ワラジを履いていたのか?家から連れ出されたらワラジは履くまい。」代官が言い正すと女は下を向いて笑い出した。


「あーはははは。ばれちゃしかないね。」と言うと女の声が急に男の声になった。


家臣五人と代官は身構えた。「そうだ。俺がみんなを殺したのだ。お前たちも俺の餌食になれ。」そう言うと手を獣のように構えた。

五人の家臣は、逃げられないようにその女を取り囲んだ。


鬼は「命が惜しければ,道を開けろ、お前たちもあの槍使いのようになりたいか」


そう言うと天井高く舞い上がった。しかし矢四郎の鎖鎌のふんどうが鬼の片足に巻き付き、引き落とされた。すかさず、二人の剣豪の家臣が刀を鬼の肩先めがけて振り下ろした。鬼はその刃先を潜るように避けると、代官めがけて飛び掛ろうとした。

代官は長い剣を抜き襲い掛かろうとする、鬼に切りつけた。

「ギャー」と言う叫びと同時に,左手首が床の上に転げた。その手首はトカゲのように動き、矢四郎の首に食い込んだ。矢四郎が両手で払おうとしているのを皆が見ている一瞬の隙に、鬼は矢四郎を押し倒し、寺の外に逃げた。

代官たちは家来に告げると、家来が寺の庭で取り囲んだ。しかし、鬼は家来が刀を抜き、切りかかると次々に刀の刃先を避け、腕や足をつかむと引きちぎった。

そして、一人の首を引きちぎり血は天めがけて噴出した。

家来たちが、ひるむ隙に寺の外に脱げ出した。

停めてあった馬に乗り、四番宿に向けて走り出した。

代官は叫んだ。「追え、追え、四番宿を守れ」家臣4人と代官も馬に乗り追った。

代官は叫んだ。「鬼を馬から下ろしてならぬ。追い詰めろ。」言い放った。

一方矢四郎は、鬼の手が首に食い込み、動けない状態だった。

和尚や庄屋や家来が離そうとしたが無駄だった。和尚は経文を持ってきて拝み始めた。十分、二十分、やがて矢四郎を囲むように、村人や庄屋も一緒に拝みに加わり

和尚が清水を掛けると手首は煙を出して、矢四郎の首から放れた。

矢四郎は一命を取り留めた。鬼の手は、清水により干からびて骨と皮だけになった。

一方、馬で追う代官は、四番宿を通るときに、弓の名人忠兵に馬越しに命令した。

「忠兵、弓をいり鬼の足ともと片腕を狙え。忠兵は代官の言うとおり

鬼の右足を狙い矢をいった。二本目の矢が鬼の右太ももに命中すると鬼は怯み

四番宿で降りるのをあきらめて、三番宿に向かった。

代官は馬の上から考えていた。

「もうやつは、逃げ場を失っている。追い詰めて首を撥ねる。」そう考えると

何処がよいか、馬上の上から思案した。

「そうだ、七ヶ宿まで、追い込んで仕留めよう」その事を馬上の上で家臣に伝えた。

忠兵は「承知致しました。」と言うと後の四人も馬上からうなづき

鬼を追い詰めるべく、馬に鞭を入れた。

鬼は追いつかれはしないと思い入れをしていたが降りることが出来ず、ひたすら馬を飛ばす事で、逃れていた。

そして、2番宿を通り越し七ヶ宿の関所の近くまで来ると、馬も疲れて走るのが鈍くなった。

鬼は追いつかれまいと馬の尻をけし掛けるが言う事を聞かなくなった。

馬から下りると、そこは振袖観音の祭られている近くだった。

鬼が漢音様の近くまで来ると、山肌の見える壁に囲われた箇所で

逃げ場を失っていた。

代官たちは近寄ると、鬼に向かい忠兵は5本目の矢を放った。

そして、左足に命中すると鬼はひざをつき、左右の足の矢を抜いた。

しかし、その隙に忠兵は宗平の仇とばかり6本目の矢と七本目の矢を放った。

一本は鬼の右肩に命中した。すかさず代官と三名が近づき鬼の首を撥ねた。

首からは血がほとばしり、近くの地蔵を真っ赤に染めた。

鬼の首は転がリ、足元には、女の顔をした頭が代官たちを睨み付けるように

向いていた。

振袖地蔵にかかった鬼の血は西日を浴びて真っ赤になるという現象を残した。

ひいひいばあさんの話はこれで終わりです。

おばあさんは話した。

鬼と言う名を借リて居るが、この鬼畜は現代でも生き続けていて

誰にでも乗り移り突然、鬼になる。

そして、大量殺人や虐殺を繰り返す。これが鬼の正体だと言う事を

話していた。

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