2016/12

一カ月空いたら先月なにを書いたかすっかり忘れてました。


常識的な世界になにか一つの要素を加えるだけで成立してるファンタジーが綺麗だなと常日頃思っています。『累』とか、非現実的なアイテムはあの、口づけすることで容姿を入れ替える口紅だけで、それ以外にファンタジー要素はない。でもドラマがしっかりできてて、そのワンアイテムだけで次はどうなるのかなとワクワクさせられる。


『もやしもん』も、主人公に菌が見えるという特殊能力以外の要素は全て現実世界といっしょで、『僕だけがいない街』もそう。こういうワンアイデアってすごくシンプルに作品を際立たせるなと思います。


と、書きだしてふと思い出したんですけど、そういえば大塚英志さんが『キャラクター小説の作り方』の中でそんなことを言っていたような気がします。日常世界に一つだけ非日常を加える、っていう。


よく考えたら『ドラえもん』も、日常世界にただひとつ現れた非日常だし『パーマン』もそうだし『キテレツ大百科』も、『エスパー真美』もそうですね。藤子先生も通っているなら安心な道です。ひみつ道具とかで不思議要素がどんどん拡張されちゃうけど。


小説だとなにかあるだろうかと考えていたのですが、『サクラダリセット』は特殊能力にバリエーションがあるからちょっとルール外でしょうか。『図書館戦争』は……また先月に続いて有川先生の話になってしまう。あ、『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』は、もっといろいろできそうな広がりを感じてワクワクしました。


秀逸なワンアイデアをひらめきたいところですが、なにかてきとうに考えて、それを成立させるには社会はどうなるだろうか、登場人物はー、と考えていくと面白いかもしれないですよね。



話題を変えます。



先日、読子さんとちょっとお話する機会がありました。「よく、小説家の印税を例に出して、小説だけで食べていくことが大変だって言うけれど、印税率ってずっと変わらないままなのかな。百万部売れる本と、三千部売れる本で印税率が同じっていうのも、いまの時代に合ってるのかな?」なんてなことを話題にしてて、それからちょっとその話で盛り上がりました。


確かに、全部自分で作る同人誌みたいなのは、さいしょに自分で費用を負担するリスクはあるけれど、そのかわり売上も全部自分のものです。部数でその利益率は変わってくるけど、千部以上になったとすれば、粗利は数十パーセントにもなるはずなんですよね。


六百円の文庫本を三千部作った、ぜんぶ売れたとしまして、印税率10パーセントだと180,000円。30パーセントだと540,000円。50パーセントだと900,000円。同じ三千部でも大きな違いです。


よく「売れないと続かない」って言われるんですけど、それって、印刷だったり宣伝だったりを会社にお任せしていることによっていろんなコストがいっぱいかかって、それによって黒字化するための部数は大きくなっていくし、会社にお任せすれば関わる人が増えて一人当たりの取り分は減っていくってことが原因だと思うんです。


読子さんは言っていました。「いまは作品を作るのも、発表するのも昔よりカンタンになってるし、みんなが同じ作品を読んでる、っていうよりも、色んな人が色んな作品を読んでる時代だよね。作品ひとつあたりがたくさん売れにくい時代。たくさん部数が売れないと生活できないなら、たくさん売ろうとするより、たくさん部数が出なくても生活できるようにするほうが、現実的なんじゃないかなって思うの」と。


漫画化の鈴木みそ先生は自作をkindleで個人出版して成功したし、同じく漫画家の渡辺道明先生も自作レーベルで漫画を出版しておられます。こういうモデルがもっと増えていくのではないでしょうか。


そうすると、「印税率は10パーセントだけど大きな会社」と「個人出版だけど利益は全部自分のもの」の間くらいのモデルで、会社規模が小さくて、販促力は強くはないけど、でも印税率が高め、くらいの出版社がもっと出てきたりすることもあるのかなと。


ただ、日本の書店のシステムは見聞きしたところによるといろいろと面倒なものがあるようなので、動きはのろのろとしてそうです。誰か、なにかが突破すれば、新しい時代がやってくると思うんですけれど、2017年はそんな年になるでしょうか。それでは、また来年。

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