#18 『吹き荒れる風と揺るがぬ意志』
「カロー、助かったけどさ、カロが相手倒しちゃったら俺の立場ないよぉー」
「いいのよ、あんな礼儀知らず。私が魔法を使えたら、時空の彼方へ飛ばしてたんだから彼は運が良かった位よ」
その時、大会運営スタッフらしき人が審判のサイフォンにかけ寄って耳打ちする。少しして勝利を称える拍手も鳴り止み、ざわつく会場。
サイフォンは話が終わったようで拡声魔道具を口元へ近づける。
「えー。先程の対戦におきまして、大会の審査委員からもの言いがありましたので、勝敗の再審議という事になりました。カフワ選手の決勝進出はいちど保留させて頂き、次の試合をはじめたいと思います」
そういった訳で、カフワの勝利は審議後に決定という事で掲示板の赤線は引かれないままに次の試合が始まろうとしている。
「ほらぁー。カロのせいで俺失格になっちゃうかも」
「しょうがないでしょうが。目の前にムカつく顔があったんだから、そりゃ殴るわよ。だいたい、パンチで勝っちゃいけないなんてルール無かったでしょうが」
そんなカロとのやりとりの中、運営スタッフに肩を叩かれるカフワ。
「ちょっといいですか? カフワ選手。いくつか質問が……」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
――そして、控室
カフワは魔導書カロの存在について色々聞かれ、その後は意識の戻らないグレインの容体を心配して別館の仮眠室で時を過ごしたのであった。
――さらにそれから
「カフワ選手、結果が出ましたよ。よかったですね、疑いが晴れて決勝進出が認められました。詳しくは会場で審判から説明があるそうです」
「よしっ!」
「当然でしょうが。私何も悪くないもん」
そうして会場に向かった先のリング中央には、同じく決勝進出が決まったアルーシャの姿があった。
お互い目が合うと軽く頷き、カフワはリングの中央へ歩んでゆく。
「やっぱり、アルーシャが最後の対戦相手なんだね。……なんか、そんな気がしてたよ」
「うちも、カフワ君がきっと勝つと思ってたわ。あの、一緒に魔法の特訓をした時から……ううん、たぶん君からあの露店で木の実を買った時から、運命は決まってたのね」
審判がリングへ向かい拡声魔道具を構えると少し観客の声援が静まった。
「えー、決勝戦の前にまず審議会を代表してわたくしから、カフワ選手の勝敗審議についての報告をさせて頂きます。審査委員会からカフワ選手の持つ魔導書が『使用魔道具として登録されてない』という指摘がありましたが、審議の結果、あの魔導書は彼の召喚する『本の精霊』という事が証明されたので問題ないという事になりました」
手を広げ周りを見渡した後、カフワとアルーシャそれぞれに笑顔と目線を送り合図するサイフォン。
「よって、これより『カフワ・バジオラ』対『アルーシャ・アウデンリート』の大会決勝戦を開始いたします」
「それでは始め!」
見つめ合う二人には気負いとも緊張とも違う高揚で、これから戦う相手だと言うのに笑みすら伺える。騒がしいリングにそんな、異様ともとれる空間が出来上がっていた。
「うち、負けないわよカフワ君」
「俺もさ。一つ負けられない理由が増えたからね」
アルーシャが垂れた長く蒼い髪をかき分けたのを皮切りに、カフワは右に走って回り込もうとする。アルーシャはそれを目で追い、かき分けた手をそのままの流れで宙に弧を描き魔法を詠唱した。
「裂けし荒ぶる真空刃トーベンレーレ!」
空を裂き、カフワに向かうその刃はカフワの走りながら練成した宝石の盾に阻まれた。しかし、真空刃は盾に収まっていなかったカフワの肩を裂き、鮮血が飛び散る。
「ぐあっ!」
「……無詠唱ロックブラスト……去年までのうちだったら、確実に今ので負けていたわね」
アルーシャが魔法を放った時、カフワもまた投げる魔導の石礫 エーデルシュタインをほぼ同時に放っていた。咄嗟に風圧で石礫の軌道を反らす事ができたが、その恐ろしさ身をもって知るアルーシャであった。
「カロ、お願いがあるんだ」
「どうしたのよ? あらたまって」
「この戦い、カロの力を借りずに俺一人で戦いたいんだ」
「今まで散々私に助けを求めてきたのに、どういう風の吹きまわし?」
「アルーシャの風がそうさせるんだ。なんかこの戦いは俺、自力で戦わないとダメな気がする。英雄になる為の……乗り越えるべき壁な気がするんだ」
(カフワは今、錬成もどんどん早くなってきている。戦いの中で凄く成長してるわ……もしかしたら私をも超える程に……)
「わかったわ。好きになさい……その代わり絶対勝つのよ!」
「ありがとうカロ、愛してる!」
「えっ!?」
「そろそろ、喋る魔導書さんとの相談は終わったかしら? カフワ君」
「ああ、話は纏ったよ」(もう、いけるな……)
「いくわよっ! 裂けし荒ぶる真空刃トーベンレーレ!」
「忘れ得ぬ守りの願いルーン・フォン・シュッツェン!」
カフワの石版状の盾に刻んだルーン文字は、魔導の光でその身を包みアルーシャの攻撃魔法をかき消した。
「出してきたわね、ルーン魔法! それなら、これならどう?」
アルーシャは予備動作らしき深呼吸をした後、すぐに次の攻撃に移る。
「猛る無慈悲な暴突風オルカーン!」
カフワも一度、予選で見た力強く巻き上げる突風は発生はしたものの、カフワの周りだけその効果を無効化し、ゆっくり平然とアルーシャの方へ歩いてゆく。
「……そんな! 私の新魔法も全く効かないなんて!」
「それじゃ、俺の方もいかせてもらうよ」
カフワは白い守りの光に包まれながら投擲の構えに入る。
「いけっ! 投げる魔導の石礫 エーデルシュタイン!」
「防御魔法なら私だって!」
アルーシャは自分の周りに風を纏い、飛翔してくる宝石から身を守る。
「まだ、まだぁ!」
投げる魔導の石礫 エーデルシュタインが弾かれたのを見てすぐにカフワは2発目、3発目と風の薄い所を探すように色んな方向へ投げる魔導の石礫 エーデルシュタインを飛ばして、あらゆる角度からアルーシャを狙う。
「!? 連投! けどっ!」
「アルーシャ、君に届くまで魔力が続く限り、俺は、投げ続けるよ!」
(このままでは不味いわっ! やっぱり敵に回すと恐ろしい魔法ね。なんとか直撃は避けられてるけど、威力が殺しきれていない……こうなったら!)
「私もカフワ君の意志に応えて、全力でいくわっ!」
アルーシャは大きく息を吸い込みその蒼い魔力を周囲に集め、その奥義たる魔法の詠唱を行う。
「吹き荒れる凶暴な風ゲヴァルト・オルカーン!!」
アルーシャの繰り出したさらなる凶暴な風はアルーシャの周囲だけでなく、会場のリングほぼ全体を巻き込み、外で見る観客からは中で何が起こっているのか分からない程の竜巻を作り上げていた。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
荒れ狂う竜巻の中、弾かれた輝く水晶が時折リングから飛び出してくる。お互い全く譲らない攻防にあとはもう、2人のどちらの魔力が先に尽きるかの根比べとなっていた。
――そして。
「……はぁ……はぁ」
息が上がり、投げ疲れた両手をだらんと下ろし俯向くカフワ。
「……もう、打ち止めみたいね。私も今の奥義で魔力を全部使い果たしたわ……残念だけど、これは引き分けみたいね」
そしてカフワの方へ向かおうと一歩踏み出したアルーシャ。その足に何か硬いものが当たる。
「ん?」
その違和感に下を見てアルーシャは何かに気づく。
(これは黒い……石! おかしいわね。あの竜巻の中で弾かれてない石があるわ。そしてこの文字、この光はっ!)
「まさかっ!」
「……その、まさかさ」
魔力の尽きたアルーシャはもう風が出せず、本能的に両手を顔の周りへ持っていき防御する。
ルーン文字の描かれた黒い石は放物線を描き、アルーシャの頭へ目掛け飛んでいったあと『コツッ』と小さな音を立て、そして地面に転がった。
「やっと、アルーシャに届いたよ、俺の魔法」
「……この石は一体?」
「それ、俺が前に拾った【黒狼石】(こくろうせき)っていう、魔力を蓄積できる石らしいんだ。使えるかもと思って一応、魔道具として登録しておいたんだ」
「……ふふっ。ここまで手加減された上に、頭に魔法石を当てられるなんて。完全に私の負けね。参ったわ、カフワ君。その石に……いいえ、君の揺るがない『意志』の強さに」
アルーシャの竜巻のせいでリングの外に出ていたサイフォンが額の汗を拭きながら戻ってくる。
「凄まじい攻防で私も避難してましたが、どうやら勝敗は決したようです! 第123回、国際魔導闘技会の優勝者はカフワ・バジオラ選手に決まりましたーーーーーー!」
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