#17 『黒い雷槌と怒れる魔導書』
ガヨウと別れ、選手控室から大会の会場に戻った頃、すでに次の試合が始まっている様子だった。
「あのトーナメント表の感じだと次の試合はグレインとハーゲンって奴だっけな?」
「【ハーゲン・ラムザウアー】って確か前大会優勝者じゃなかったっけ?」
「えっ!? そうなの? 大丈夫かなグレイン」
リングの観客席に近づき、グレインの顔が確認できるようになった時、悲劇は起こった。
「黒い邪悪な稲光ブリッツベーゼ!」
ハーゲンの魔法が詠唱されたと同時に一瞬、世界が暗転したかの様な稲光と共に無残にも黒焦げになって倒れるグレインの姿があった。
「がっ……」
断末魔の叫びあげる間もなく白目を向いて倒れゆく友人の姿に思わず、リングに上ってしまうカフワ。
審判が何か言っているが、カフワの耳には入らない。
俺の『黒い邪悪な稲光ブリッツベーゼ』は一撃必殺だ、防御魔法は苦手なんでな。いわゆる攻撃が最大の防御って奴だ。
「なんで! ここまでしなくても……」
「お前がカフワか、次の対戦相手だったな。次はその子汚い魔導書もろともお前も消し炭にしてやろう」
「……」
手元から過去にない程の紫のオーラを出し威嚇するカロ。
汚い言葉でカフワを挑発してくるその男に、共々怒りの感情が強く感じられた。
「急げ! これはまずいぞ!」
運営スタッフらしき人たちが数人、駆け寄ってきたかと思うとカフワを横へ押しのけ、グレインを取り囲む。
「まだ息はあるが、このままだと命に関わる。魔導治療室へ運ぶぞ」
「治癒魔法切らすな!」
ハーゲンの魔法で黒焦げになり、破れた服の所々から煙をあげるグレインに治癒魔法がかけられる。
そのあと、別の治癒魔導士がグレインを担架に乗せ、急ぎ気味に運ばれてゆく。それに付き添う形で並走してついていくカフワ。
「ちょっとカフワ君、次の試合見なくていいの?」
アルーシャの問いかけも耳に入らず、その場をカフワは去ってしまった。
――ここは魔導治療室。
「大丈夫かグレイン! グレイン!」
「……」
完全に意識を失い返事のないグレインにカフワは何度も呼びかける。
「魔法による治療は一段落しました。ひとまず、死にはしないでしょう。君はグレインさんのお知り合いですか?」
治療魔導士チームのリーダーらしき人物に問いかけられ、我を忘れていたカフワも少し落ち着きを取り戻す。
「グレインは大丈夫なんですか?」
「えぇ。命に別状はないと思いますが、如何せん強力な魔法でしたので、意識が戻りません。精神的な後遺症が残らないと良いのですが……」
「あのハーゲンって奴、俺の友達にこんな酷いことを……絶対倒してやる!」
「カフワ、あのキザ男。私を”子汚い本”呼ばわりした罪は重いわよ。あいつに勝つために作戦を練りましょう」
しばらくして運営スタッフに呼び出られるカフワ。
「カフワさん、出番です。リングの方へお越し頂けますか?」
「グレイン少し待ってて。仇は取ってくるからね……絶対勝ってくるよ」
友人の無念を晴らす為、相手が強敵であるにも関わらず物言わぬグレインに勝利を誓うのであった。
――そして、闘技会場リングへ。
「いよいよ、大会準決勝となりました! 今回も両者、強力な魔法を引っさげ激闘が繰り広げられようとしています!」
サイフォンはカフワの心境も知らず、淡々と大会進行の仕事をこなしてゆく。
「まずは、ここまで勝ち進んだルーキーは今大会、彼一人となりました! 追尾する宝石魔法! 『投げる魔導の石礫』カフワ・バジオラーーーーーー!!」
そして、審判の手はその憎むべき男の方を指し続けた。
「そして、対する選手は前大会優勝者にして、すべて黒い雷槌で一撃の下に相手を地に落とす、その通り名は『瞬撃不可避の雷鳴』ハーゲン・ラムザウアーーーーーーーー!!」
「さぁ、お互い強力な攻撃魔法を持つ両者! 瞬きは控えたほうが宜しいかと思います。それでは! 試合始めー!」
開始の瞬間、あの黒い雷鳴がパーンと乾いた音を響かせカフワに襲いかかる。
「ぐっ! ……おっととっ。」
カフワは相手が初手でいきなりあの魔法を撃ってくることを予想し、宝石の盾を錬成し雷撃を防いだ。衝撃で少しバランスを崩したが、ダメージはない。
「ほう、驚いた。俺の『黒い邪悪な稲光ブリッツベーゼ』を防ぐとは。なかなか優秀な防御魔法を持っているな。ならば手加減は不要!」
その瞬間、上から何かが降ってきて地に刺さる。
「……何だそれは、いつの間に!」
「避雷針さ。金属で錬成した棒なら雷を反らせるんじゃないかと思ってね。魔力を投げたのがバレないように盾の後ろで放ったんだ」
「ふふふ。……甘いな。俺の魔法は雷を模してはいるが、厳密には電気を飛ばしている訳ではない。そんな小細工で止められるほど生っちょろくはないぞ!」
そう言ってさらにカフワに向け手をかざすと先程より強力な稲光が目を晦ます。
「黒い邪悪な稲光ブリッツベーゼ!」
「うわぁぁぁぁぁーーーー!」
同じ魔法でも、全力だとここまで威力が違うのか、ハーゲンの放った全力の雷撃はカフワの錬成した防御壁を衝撃で弾き、リングの端の方まで吹き飛ばした。
「この作戦はダメだったみたいね」
「くそっ! 肩が外れてるっ!」
ハーゲンの魔法を防ぎはしたものの、飛ばされた衝撃でダメージを負うカフワ。
「カフワ、あんな奴に負けたら承知しないわよ! 絶対勝つのよ!」
「分かってるさ。まだ手はある」
「2度も俺の魔法を防いだのはお前が初めてだ。俺も少々、プライドを傷つけられたぞ……くらえ!」
「黒い邪悪な稲光ブリッツベーゼ!」
もうこれ以上吹き飛ばされては、たとえ錬成した盾で防いでも場外負けになってしまう。しかし、カフワにはまだ、迫りくるあの凶悪な魔法を防ぐ術が残っていた。
「なにっ! なんだその光は。その盾に書かれた光る文字は……まさかっ! ルーン文字!」
「危なかった。ちょっと発動が遅いけど、結構便利だね。このルーン魔法って奴」
「あんたが知らないだけで、それ、効果も最高クラスの古代魔法よ。それで防げない魔法なんて、そうそう無いでしょうが」
「よし、それじゃ反撃といきますか! っ痛てて、右肩外れてるんだった」
「相手は防御が苦手なはずよ。いけるわ! いまこそ怒りをぶつけるのよ! オラオラァ!」
(カロ、いつも以上に荒れてるなぁ。貶すと根に持つタイプなのかな)
カフワは止む無く利き手じゃない方の腕で宝石魔法を放つ。
「投げる魔導の石礫 エーデルシュタイン!」
「俺は知っているぞ。その魔法の弱点!」
魔法を撃ったと思った時、相手のハーゲンは目の前にまで迫っていた。そしてルーン魔法で防いでいる筈の魔法防御壁をハーゲンは、量手に集めた黒い電撃で掴み破壊しようとする。
「まずいよ、相手近すぎて外れた上に、これじゃ上手くコントロール出来ない!」
「確かに俺は、そのボロい魔導書の言うとおり防御は苦手だ。だが、その防御魔法もかなりの魔力を使うとみた。ならば、魔力測定一位の俺が力負けする筈もない」
「また、私を馬鹿にしたわね……」
カロが小声でつぶやく。
「カロ! 何言ってるか聞こえないよ。こんなの想定外だよ、どうしよう!」
「だんだん魔法壁が薄くなってきているぞ、お前と違って俺の雷撃は接近戦でも問題ない!」
そういってハーゲンは胸を張り、一度反り返って両手に魔力をためた後、さらなる強力な一撃を見舞いに突っ込んでくる。
その時だった。
「オラァ!」
「ごぶっ……」
もはやルーン魔法の光より強く紫の魔力を放つ魔導書から、逞しい腕が素早く伸び、ハーゲンの顎を捉えた。カウンターで決まったそのこぶしの一撃は、すぐさま脳震盪のうしんとうを引き起こしハーゲンの猛進を仲断させ倒伏する。
「えぇ!? えぇーーーーーーーー!?」
全く作戦に無かったカロの攻撃でピンチを切り抜け、形勢は逆転した。
いつの間にか隣に居るサイフォンが、倒れたハーゲンの状態を確認する。
「……ハーゲン選手、意識がありません! よって、カフワ・バジオラ選手決勝進出ーー!」
予想外の試合終了宣言にあっけに取られるカフワ。
「はーすっきりした! そうだ! この技今、命名したわ【怒れる少女の右拳ヴートシュラーゲン】どう? 強そうでしょうが?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます