#13 『投げる魔導の石礫』

 その後、他の予選参加選手の魔導による戦いを見て、カフワは先程の予選がやはり幸運だった事を再確認していた。


目の前で繰り広げられるのは、いつか自分の憧れた炎や魔力による光弾飛び交う攻防戦。中には己を魔力により強化して肉弾戦で闘う魔導士らしからぬ変わり者も居たが、自分はドッチかというとあのタイプに近いんじゃないかと思えてくる。


一通りそれぞれ参加者の初戦が終わり、またもや自分の番が回ってきた。


「それでは引き続き、予選第二回戦を始めます、カフワ選手前へ!」


「はい!」


 元気の良い返事と共に、先程の戦いのモヤモヤを打ち消すべく、初めから程よい緊張感とやる気のバランスが取れた精神状態でリングに上がるカフワ。


「対戦者、ジパール選手前へ!」


「あの魔導書の召喚士か……」


 相手のジパールという男の言葉から、どうやら自分の戦いも見られていたようだ。しかも十中八九、彼も自分の能力と実力を勘違いしている。一方自分の方はグレインと話をしていて彼の戦いぶりはよく見ていない。完全に失策であった。


この予選での戦いは皆、比較的短時間で決着がついていた。なぜなら、最後まで勝ち進む気なら当然、連戦する事になる為、無駄に戦いを長引かせ魔力を消耗するのは得策ではないのだ。


実は様子見で色々やってみるより、一番有効そうな魔法を確実に当てるほうが理にかなっているのである。さっきグレインに聞いた話だが、勝ち進んで大会本戦に出られる事が決まった時点で一旦、運営から無料で怪我の治療や魔力の回復をしてもらえるらしい。


逆を言うと、少なくともそこへ辿り着くまでは、なるべく魔力消費を抑え致命傷を避けて勝ち続けなければならない。もっとも、カフワには戦闘において取れる選択肢は非常に少ないのだが。


「まずったなぁー。あの魔導士どんな攻撃してくるんだろ? さっきと違って見るからに強そうだし、服装も獣っぽい格好だし力も強そうだよ」


「魔導士同士の戦いにおいて腕力は二の次よ。あるに越したことは無いけどね」


 カロが戦う前から不安になるカフワを励ますように教えてくれるが、戦闘には役に立たない情報だ。相手は初戦を勝ち抜いている事から、おそらく魔導においてもさっきの様な初心者ではないのだろう。そうなると、もう2度めの幸運はあり得ない。


「それでは、試合始め!」


審判の掛け声によりついに戦いが始まってしまった。その声が響いた瞬間から相手は聞こえはしないが何やら口元で小さく呟いている。


「来い! メッサーヴォルフ!」


ジパールという男が叫んだ言葉と同時に現れたのは『角の生えた白い狼』だった。


「うわぁ。これはヤバそう……」


「良かったじゃないカフワ。アレなら戦闘経験有るでしょ?」


結構洒落にならない皮肉を言ってくるカロ。


「いやいやいや、角あるしなんか大きくない? あの狼」


「カフワと言ったか、同じ召喚士として親近感が湧くし、その魔導書にどんな能力があるのかも気になるが……この魔獣は魔力消費が馬鹿にならんのでな。さっそく行かせてもらう!」 


「行けっ! メッサーヴォルフ!」


ジパールの掛け声と同時にこちらへ向かい走る白い魔獣。


「くっ、速い!」


急いで錬成した鉱石の棍棒だったが、形を成す前に魔獣に飛びつかれるカフワ。何とか噛みつかれる前に棍棒を柵状に錬成しなおし魔獣の牙と角を遠のける。


「錬金術まで使うか。しかし、その体勢ではもはや何もできまい」


ジパールの言うとおりこれでは、相手本体との射線上に魔獣が立ちふさがり、折角覚えた攻撃魔法を直接投げることは出来ない。


「カフワ、私の予想ではこの魔獣リモート操縦ね。本体が無防備すぎるわ」


柵の隙間からよく見るとジパールは魔獣に向けて手で印を結んで向けており、カロの予想どおり確かに無防備そうではある。


「そんな事いったって。これじゃ……」


カフワは自分の背丈程ある狼に組み伏せられ、目の前で牙がカチカチと鳴り、噛みつきたそうな口を開いてヨダレを垂らされている。


「もう観念しろ。これ以上はお互い消耗するだけだぞ」


カフワに打つ手なしと見てジパールが降参勧告を迫る。


「……よ、だ、れぇぇぇー」


カフワの顔にかかる魔獣の唾液により、肉体よりも精神的ダメージが入る。


「しっかりしなさい! カフワ、全部試したの? 出来ることあるの? 無いの?」


カロがいつもの様に厳しく問いかける。


「……あるよ。皆と約束したんだ。……っく。まだ、こんな所で負けられない!」


「カフワ君! 頑張って!」


 その時、他のブロックでの戦いの終わったアルーシャが応援にやって来た。どうみても傍目にはカフワ側のピンチであり、もし、ここで降参しても不自然では無い状況が作り出されていた。


 だが、カフワは諦めない。なにしろまだ、あの魔法を一度も使っていないのだ。あのアルーシャにアドバイスしてもらい、カロの的確な指導の元で完成したあの魔法を。


「うおぉぉぉぉぉぉお!」


 カフワは両手の全力で柵越しに魔獣を押し返し、一瞬の隙を作る。心もとないながらも右手で柵を押し続け、少しでも闘うための大事な時間を稼いだ。


そして、怯んだ魔獣のその隙をぬって魔力を込めた左手のアンダースローでジパールの頭上を狙い魔法を放った。


「なんだ? 何を飛ばした?」


ジパールはカフワの投げた錬成前の魔力の光に気づいて空を見上げる。


 その瞬間、『パァン』というガラスが割れるような音を立て、ジパールの頭上に輝く宝石の塊が直撃した。


直撃の後、盛大に飛び散る宝石の破片は朝日がまだ、東の空にあるにも関わらずまるで星空のように辺りを光の粒で照らしたのだった。


 カフワの放つ魔導の光は一旦ジパールの頭上に昇った後、魔導のツブテとなって見事相手を一撃で倒したのである。


「やっぱり思った通り、魔獣はリモートだったのね」


カロはジパールが意識を失い消えていく魔獣を見て得意げに解説する。


「カロ、いつか言ってた土魔法は地味って言葉。撤回してくれるかい?」


綺羅びやかに星降るリングにアルーシャの声もかき消されるほど拍手と声援が送られる。


「えぇ。どうやら私の認識が間違っていたようね」


「ふふっ。今日はやけに素直だね」


「魔法の名付け親として、こんなに誇らしい事は無いわ。あなたの宝石魔法『投げる魔導の石礫』 エーデルシュタイン大事になさい」


「俺の魔法……エーデルシュタイン! ちょっとカッコイイいかも」


 勝利の余韻に浸るカフワ達。審判も少しの間、その光景にあっけに取られ、勝利のアナウンスを忘れていた。


「……おっと、勝者カフワ選手!」

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