#10 『国際魔導闘技大会』

 幸い乗り物酔いなどとは無縁な体質であるカフワであったが、乗り物で移動という行為に慣れていないことと、新しい事が始まりそうな興奮、時折あらゆる方向に強く揺れる列車の中でカフワは夜のとばりが包んだ星空ををずっと眺めていた。


「……これじゃ寝れないよね」


 周りではイビキらしき音や、離れた場所から喋る声も聞こえたが、深夜という事もあり、比較的静かな列車にカフワの独り言が響く。


「……カフワさんもですか」


どうやらグレインも同じ心境らしく2人共疲れているはずなのに、寝れずに居た。


「それにしても、グレインも魔導大会に出場するって聞いて驚いたよ。それって魔導士だとみんな知ってるもんなの?」


「そうですね。正式名称【国際魔導闘技大会】今回で123回目の歴史ある大会です」


「あー、結構昔から何度もやってるんだ。グレインも魔導の修行頑張ってたんだね」


「……いや、自分、全然頑張ってなかったんですよ……ちょっと長くなりますが、僕の昔の事話してもいいですか?」


「うん、聞かせてよ。眠気もなくなって暇だし」


 そういってグレインは自分の過去の事を語りだした。


「僕は元々首都の魔導学校で勉強してたんですが、ずっと落ちこぼれだったんです」


「……」


「父親は鉱山夫で、ある時父はレアメタルの鉱脈を発見して、家は比較的裕福でした」


「生きていくのに困らず、苦労をしてこなかった僕は特に明確な目標もなく、面白そうだからという理由で魔導学校に入り、さして勉強も頑張ってきませんでした」


「周りはどんどん新しい魔法を覚え成長していく中で、自分は取り残され孤立していた気がしました」


「そんな折、父が崩落事故で他界。父を溺愛していた母も心労から体調を崩し、後を追うように病気でこの世を去りました」


「両親を失った僕は、魔導学校に通うお金も無くなり、退学しました」


「路頭に迷っていたところをある盗賊団に目をつけられて、雑用係として僕は盗賊になってその後の人生を歩んでいたんです」


「盗賊になっても大した努力はしませんでした、なりたくてなった訳じゃ無いですし目標なんて、その日の糧が稼げればいいか程度のものです。自分でも惨めで嫌になっていました……」


「かなりハードな人生だなぁ」


「でも、去年の嵐の日。盗みの為に忍び込んだ家は、年老いた魔導士の家でした」


「深夜にも関わらず、広間に立っていたその老人は僕を見てこう言いました」


「君には魔導の才能があると……」


「家主に見つかった僕は顔がバレないように隠して逃げました」


「そう、一度は逃げたんですけど。何故かその老魔導士の言葉が気になって……」


「あくる日、その魔導士を訪ねたんです」


「それが、今の僕の師匠なんですよ」


「へぇー。運命の出会いって奴か、あるんだねそういうの」


清聴していたカフワが口を開く。


「それまで、僕は誰にも認められなかった。親にも、先生にも、でも師匠は違った。僕には才能があり、努力をする価値があると」


「魔導学校では努力をしてなかっただけなんです。教材の魔導書も殆ど読んでませんでした。そんなんで魔法、覚えられるワケないですよね……」


「……とっても耳が痛い話だ」


「カフワさんの事も聞かせてくださいよ」


「えっ? 俺?」


「俺なんか、そんな凄いエピソード無いよ」


「いいんです。教えて下さいよ」


「だいたい俺、家族も何も孤児で田舎の図書館に捨てられてただけだし、そもそも学校とか行ってないし。本は好きだから結構読んでたけど……」


「……っ」


いたたまれなくなって何か言おうとするも、うまい言葉の出ないグレイン。


「強いていえば……俺も元落ちこぼれ剣士で、お金無いから自給自足の生活して、山賊に殺されそうになって」


「あー俺、剣士向いてない! と思って魔導士始めただけだよ」


「……カフワさんも結構ハードな人生送ってますね」


「難易度設定変えれるなら今からでも変えたいよね」


「確かに」


 黎明前の静寂な列車に2人の笑い声が谺した。


「そういえば、カフワさんってその魔道具いつも手に持ってるんですね」


「ああ、コレ? これは魔道具じゃないよ。俺の魔力吸って生きてる精霊さ。今は眠ってて静かだけどね」


「なるほど、どおりであの時喋ってたわけだ」


「起きてる時は口うるさくて大変なんだよ、すぐ怒るし」


「精霊を常に召喚してるなんて、やっぱりカフワさんは凄いや」


「召喚してるというか、ドッチかというと強制的に召喚させられてる呪いのアイテムというか」


「でも、なんか仲良さそうでしたよね。その『カロ』っていう精霊と」


「そんな風にみえる?」


「ええ。僕の知ってる精霊って、もっと無機質というか事務的というか、契約による主従関係って感じのイメージだったので」


「カロとは確かに魔導による契約で一緒に居るんだけど、主従関係ってのとは違うかなぁ。このカロが俺の魔導の師匠なんだよ。」


「彼女が居たから俺はこうして大会を目指せるし、無知な俺に魔導以外の事も教えてくれる。カロは基本俺に厳しいけど、凄くいいやつなんだ。感謝してるよ」


「良い関係築いてますね」


「うん。朝起きたらいつも話し相手がいる。困った時、気兼ねなく相談できる相手がいる。そんな事が今の俺の幸せだったりすんだ。……それまでずっとひとりだったからね」


「カロは師匠であり、友達であり、時には親みたいに頼れて、毎日少し生命力を吸われている。そんな良くわからない関係だね」




――そして空が白んできた頃、列車は首都へ到着した。


「やっと着いたねーチョットしか寝れなかったから凄く長く感じたよ」


「ここに来るのは久しぶりですけど、あまり変わってないみたいですね」


「着いたようねバンブルグに」


「おはよう。カロ」


いつものように朝の挨拶をするカフワ。


「カフワ、ちょっとココ見て」


そういって目の前に浮く魔導書。なにか分からないが、反射的に魔導書を覗く。


「チョップ!」


「ぃてっ! ちょ、カロ何だよ急に。意味分かんないよ!」


(でたー筋肉魔法。あの腕どうみても女じゃないだろ)


 突然の脳天直撃拳に動揺するも、それは何か怒りとも違う加減されたふれあい、みたいなそんな温かみを感じる手刀打ちだった。


「寝ぼけた頭動かすの手伝ってあげてるんでしょうが」


「そんな配慮いらないよ!」


それを見て拳を手を口に当て微笑むグレイン。


「カロさんって本当に良い師匠ですね。カフワさん」


「良くないよ! 最悪だよもう」


 ひとしきり朝のスキンシップを済ませた後、カフワ達は魔導大会の会場へ向かった――




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「わー、朝から凄い人だかりだね」


「国じゅうから大会に挑戦したい魔導士が来るので、毎年凄く混むんですよ」


 そう言ってグレインは慣れた足取りで受付会場のカウンターに向かい、沢山積み上げられた大会パンフレットを手に取る。


「……うん。どうやら大会のルールとかは昔と変わってないみたいですね」


「グレインは大会に出たことあるの? いろいろと知ってるみたいだけど」


 あまりにも慣れた感じのグレインの動きを見てカフワが問う。


「僕も挑戦するのは初めてですよ、ただ、魔導学校では毎年授業の一環で観戦しますから。遠足みたいなもんですね」


「へぇー。それでルールってどんな感じなの?」


大会ルールはこうだった。



参加年齢制限は無し。


選考は潜在魔力測定による一次選考があり、基準に満たないものは参加権が得られない。


2次選考はそれの高数値保持者同士が固まらないように振り分け、ブロックごとに予選が行われる。


全4ブロック中、各ブロックの上位2名が本戦出場権を得る。


勝敗判定は基本審判に委ねられるが、会場リングから出た場合と、意識を失った場合は即負けとなる。『参りました』と審判に聞こえるように発言した場合も負けとして判定される。



禁則事項


 ・殺傷能力の高い魔法で故意に相手を殺す事を禁止とする。(事故の場合は別途審議)


 ・観客席までに及ぶ広範囲魔法を使うことを禁止とする。


 ・殺傷を目的とする一般武器の使用を禁止とする。(魔法による召喚、錬成は認める)


特殊ルール


 ・魔道具の持ち込みは1つのみ(ただし複数で1つの効果がある物は1つと判定)




 他にも細かいルールがあるようだが、グレインから概要を丁寧に説明してくれたおかげでなんとかカフワも理解したようであった。


「よーし。じゃいっちょ頑張ってみますか!」


「僕も負けませんよ」


 旅路の疲れを振り切るように気合を入れ、カフワ達は参加受付に向かうのであった。

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