#03 『属性と消える宝石』
「さっそくだけどさ、どうすれば魔法って出せるの?」
カフワは本当に何もわからずこの世界に入門してしまった為、初歩的なことを問う。
「はい、ココ読む!」
「魔法の発動にはいくつかのプロセスがあり、段階を追って説明します――と。まず心の作業スペースを広げる事をイメージします。そのスペースをエディターと言い、そこに発動したい内容を思い描く事をエディットといいます。か……さっぱり分からん」
「魔法をエディットする。その為にはイメージが大事なの。まずはやってみようかー。さ、手を広げてーお椀を抱えるように」
「ほい。これでいいの?」
「それで、自分の体を巡り流れる力が、お椀の中にに集まるようイメージするの」
「おおーなんか手の中が暖かいような気がするー」
「たぶん、気のせいよ。プレーンな魔力にそんな作用ないし」
「バッサリだな。ちょっとは期待させてよ……」
そんな調子でカフワの魔導入門は始まったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
――それから3時間――
「カロ~何も起こらないよー」
「集中力が足りないんじゃない?それか素質が全く無いか」
厳しい意見だが、カフワ自身、自分の努力不足や魔導の素質みたいなものには不安を抱いていた。なにしろ1年間も剣士をやっていて斬ったものは、動かない練習用木人と自分の足だけなのだから。
「そんなぁ~」
「人によって魔導のイメージって違うしねー。カフワは具体的に手の中にどんなイメージがあるの?」
「厚めに切って、こんがり焼いたプンパニッケルに、ハムとポテトサラダをサンドしたイメージかなぁ」
「……だいぶ食い意地張ってる上に、ハードル高いわね」
「そんな、意識高いだなんて照れるなぁ」
「言ってないし褒めてないでしょうが。もっと、シンプルに光とかイメージしたら?そういうの常識的に感覚でわかるでしょ」
「お、ほんとだ光ってる。そういうのもっと早く言ってよー」
「……」
アラビカ王国の中でも田舎の方で育ったカフワには、絵本や人から聞く物語で得た知識によって魔法の先入観というものが出来上がっていた。それは念じれば何でも出せる様なロマンとファンタジー。
無論、カフワの故郷にも魔導士は存在するが、やみくもに他人に披露するものではなく、一般人の扱う魔法は料理の為に火をおこしたり、重いものを運ぶ補助をしたり、あくまで生活を便利にするための知恵であった。
一方カフワの思い描く英雄的な魔導士は、それこそ食べ物や動物を召喚したり、立ちふさがる敵を攻撃魔法で打ち砕く戦士としての魔導士。当然ハードルは高くなる。
「あ、消えた。お、点いた。見てみてー出来たっぽいよー」
今現在カフワの辿り着いた場所は手元が光るという、生活便利レベルに達したにすぎなかった。しかし、それでもカフワにとっては『努力の結果何かを成し遂げた』という気持ちでいっぱいになっていた。これをキッカケにカフワは魔導にのめり込んでゆく。
――さらに数時間後――
「ねーカロ。もっとさー炎がドーンとか、ポテトサラダがドーンとか出せないものかな」
「今までの経緯考えたらさ。どう考えてもポテトサラダは無理でしょうが」
「なんか呪文詠唱して飛ばすーみたいなの無いの?」
「あるけど、それは沢山の魔導過程セグメントを集めたモジュールのパッケージだからもっと先かなぁ」
「うわぁ。専門用語もりもり出てきた」
「用語説明も詠唱もまだまだ先かな。まずはカフワの得意とするテーマで、イメージの基礎トレーニングが先決だと思うよ」
「得意とするテーマっていうと?」
「いわゆる属性ね。人には先天的に得意な属性ってのがあって、それに沿って勉強するのが王道で近道だよ」
「ふむふむ」
「テンプレート的なトレーニングだと、さっき出した光の玉を握り込んでソレに形を成すようにイメージを作り上げていくの。やってみて」
「……ん。なんか出た」
握り込めた手を開くとソコには綺麗な深青色の小石が乗っていた。よく見るとガラスのような光沢もあり、カフワにとって何か懐かしい感じがした。
「わぉ。これは意外……」
これには明らかに初心者丸出しのカフワをみくびっていたカロも驚く。
「ほら、宝石とか召喚できたよ! 魔法っぽい」
「確かにこれは鉱石の『ラズライト』のようね」
しかし、手元から転がり落ちたその小石は粉光となって消えてしまった。
「もしかしてこれさ、頑張ったらすごいお金持ちになれるんじゃない?」
無一文の彼は無意識に『お金を魔法で出せたら』なんていう深層心理が働いたんだろうか。ポテトサラダは諦めたのか? それとも偶然その才能の片鱗が宝石だったのかは誰にもわからない。しかし、現実はそこまで甘くなかった。
「どうかなぁ。今のは実在するものを召喚したんじゃなくて、魔力で宝石に似たイメージを生成したってだけだから……でも努力次第では可能性ありそうね。夢があるわ」
カフワの性格を把握してきたのか、お金持ちには簡単になれないことを示唆しつつも、しっかりフォローを入れるカロ。指導者の鏡である。
それを聞いてテンションが上がるカフワ。自分の才能の無さを嘆いた苦節もこれで報われるかもという希望が少し見えてきた瞬間だった。
「だよね。なんか楽しくなってきたぞ。ほら」
調子に乗ったカフワは再度、綺麗な小石を出してみる。さっきと少し形は違うが、同じ青色の鉱石が確かにソコに存在した。
「これで分かったことがあるわ。どうやら、あなたの先天属性は土属性みたい」
「えっ。うーん、ソレってすごいの? なんか主役っぽくない響きだけど」
「最も練度を上げる難易度が高い属性よ。だから好んで後天的に習得しようとする人は少ないわね。苦労の割に出来ることは地味だし」
「えぇー地味なの嫌だよ。やっぱり炎とかがいいよー。雷とかも強そうだし、変えれないのかな?」
「本人の得意としない物をイメージするには、凄まじい訓練が必要よ。それこそ初心者のやることじゃないでしょうよ。それに土は攻守ともに優れた属性、抜群の安定感。伸びしろも広くてロマンがあるでしょうが。まぁ大抵使い手は不細工な大男だったり、頑固そうなお爺さんだったり、地味なんだけど」
「……後半軽く面白がってイジメてない?」
「ふふっ。バレたか。」
「ひどいやつだよカロは。ただでさえ不遇な人の人生で遊ぶなんて」
「いやいや、これでも内心ちょっと見直してるんだよ、土属性は大地の加護によって魔力により鉱物を生成できるし、実在する鉱物にも親和性が高いわ。練度によってはそれらを自在に操れるんだから。それが分かっただけでも大きな進歩と収穫だよ」
「進歩してる……か。なんか、乗せられてる気もするけど……ありがとうカロ。俺、頑張ってみる」
その日、カフワは久しく忘れていた感覚を思い出した。集中して何かに取り組むという感覚を。こうして長かった一日がゆっくりと暮れてゆく中、カフワの握りしめた拳はその中で青い光を放っていた。
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