第26話 真犯人は別に(2)
「そして第二の計画。それが大澤優君のお兄さん、大澤拓夢さんとクレアさんの結婚披露パーティだ」
「あれも?」
当然だろ、とばかりにストロベリーリングを片手に肩を竦めて、彼は言葉を継いだ。
「あの状況で君の飲み物に毒物を混入できたのは、大澤千賀子さんと本間朝音さんだけだったこと忘れてない?」
あ、忘れてた。
「彼女はあの日ずっと黒留袖の懐にシアン化カリウムを持ち歩いてたんだよ」
「でも、どこにもそのシアン化なんとかを入れて来た容器がなかったじゃないですか。トイレのごみ箱まで
「流しちゃったんだって」
「えええ? だって詰まっちゃうって」
今度は横から川畑さんが割り込んで来る。
「会場であなたの飲み物に毒物を入れてそのまま本間さんに持たせ、自分はトイレに直行して、容器にしていたオブラートを流してしまった」
「オブラート!」
「まさか自分の息子の晴れ舞台を毒物混入事件にメチャメチャにされるなんて! っていう気の毒なお母さんを演じるにはちょうど良かったわけ。誰も彼女を疑ったりしないでしょ?」
「まあ、そうですよね」
「そうなると、疑われるのは本間朝音さん。彼女に
再び島崎さんが割り込んだ。
「そこで、今日だ」
島崎さんはストロベリーリングが食べ終わったらしい。あたしもフレンチクルーラー食べよう。
「今日君はここで話をした後、バス通りに向かった。その途中、不審者に追われた。そして運よくそこへ通りかかった大澤千賀子さんの車に乗った」
「はい、そうです。すっごい走ったから、メチャメチャ喉が渇いてて、それで千賀子ママがお茶を買って来てくれて。あれ? だけど缶開けたの、あたしですよ? 睡眠薬を入れるタイミングが無いじゃないですか」
「そこは、彼女が君に車の後ろに不審者がついてきていないか確認するように言ったと証言してるんだが」
あ、そうだ、確かに言った!
「あの短時間で?」
「君が動揺していて気付かなかったんだろう。暗かったしね。そこで、君が優君に追われたと勘違いした大澤千賀子さんは、君を眠らせて倉庫ごと燃やしてしまおうという計画を立てた。君が眠ったのを確認して倉庫に運び込み、カーペットに火を点けてその場を立ち去った」
島崎さんは流れを説明すると、コーヒーをごくごく喉を鳴らしながら飲んだ。凄い喉仏だ。面白い。声の低い人って喉仏が出るっていうけど、ほんとこの人、見てて飽きない。あ、いかんいかん、また思考が脱線した!
「あたしがあそこにいるってどうしてわかったんですか?」
「君のお母さんから連絡が入ったからだよ。君がなかなか帰って来ないんで、迎えに行きましょうかって電話が来た。だが、君がここを出てから二時間も経過していたからね、これはおかしいと思って君のスマホのGPSを追っ掛けたら、あの倉庫にヒットしたってとこ」
「明らかに燃えてたものね。危ないから重機で壁引っ
「重機突っ込んだところに聡美ちゃんがいたら危ねーだろうが」
「島崎君の心配なんかするだけ無駄ね。あーあ、なんでこんな無鉄砲と組んじゃったのかしら。人の気も知らないで」
二人で掛け合いやってる間に、あたしはあの時の事を思い出して顔が熱くなってしまった。島崎さんの腕が凄くあったかくて安心しちゃって……え、ちょっと何これ、なんかあたし、あれ? えええっ、まさか、それは無いそれは無い!
あたしがぶんぶんと頭を横に振ってたら、二人があたしの顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「なっ、なんでもないですっ!」
てゆーかさ、今の何? 川畑さん、『島崎君の心配なんかするだけ無駄ね。人の気も知らないで』って何?
ま、ま、ま、まさか、川畑さん、やっぱり島崎さんとそういう……。いや、だけど、川畑さん超絶美人だし、島崎さんも無精髭剃って、シャツにアイロンかけてそれなりにきちんとすれば、それなりにカッコいいし。
「まあ、そういう訳で、十一月十六日と二十六日、そして今日十二月五日の三件の殺人未遂事件は大澤千賀子さんが自白したってわけだよ。逆に言えば、それ以外は彼女は自分ではないと言ってる」
「十一月十三日の仁村篤君殺害、十八日の電子レンジ、二十二日のスタンガン、十二月四日の歩道橋は彼女ではないという事なのよね」
眼鏡の奥で川畑さんの目があたしの目をガッツリ貫いてきた。あたしが全く関係ないこと考えてたのバレてる?
とその時、ドアがコンコンとノックされて服部さんが顔を覗かせた。
「大澤優君が来てるんですけど」
「え? 優君が?」
川畑さんが眼鏡をきゅっと上げる。島崎さんが背もたれに寄りかかって、のけぞるように服部さんを振り返る。
「聡美ちゃんの担当に話がしたいって言ってます。昨日のは自分だって」
「はぁ?」
川畑さんがすっと立ち上がった。
「私、ちょっと行ってきます」
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