第14話 時系列に
「青春してるねぇ~。俺もそんな頃に戻りたいよ」
「もう、島崎君はいちいち茶化さないの!」
川畑さんの肘鉄喰らって、島崎さんがコーヒーをこぼしそうになってる。
「島崎君、この辺で一旦整理した方がいいんじゃないかしら?」
「そうね、じゃ、ちょっと整理するよ。ああ、聡美ちゃんはパン食べながらでいいからね。あ、でもそのイチゴクリームパンは俺に取っといてね」
「そんなに好きなら抱いといてくださいよ」
「聡美ちゃんを? 川畑さんを?」
「イチゴクリームパンです!」
まったくもう、この人ほんとに刑事さんなの?
とにかく一つ一つ整理して行かないと篤の犯人に辿り着けない。あたしは姿勢を正して椅子に座り直した。もちろん片手には明太マヨネーズパン持ってるけど。
「まず十一月十日金曜日、聡美ちゃんは学校で市村俊介くんに告白された」
「はい」
「だけど返事はしなかった」
「はい」
島崎さんがボールペンで箇条書きになっている項目をなぞりながら、一つずつ読み上げる。
「翌日十一月十一日土曜日、聡美ちゃんの部屋で仁村篤君に告白された」
「はい」
「これも返事はしなかった」
「はい」
「キスとかされた?」
「は……えっ?」
なっ、なっ、なんてこと聞くんだこの人は!
「俺ならする」
島崎さんのはらりと下がった前髪の隙間から覗く目が、嘘みたいに色気があって、あたしの心臓がひときわ大きな音を立てて跳ね上がった気がした。
「島崎さんの意見なんか聞いてませんし、関係ないです!」
「島崎君……」
川畑さんの島崎さんを見る目が冷たい。島崎さんは一つ咳払いをすると続けた。
「さらに翌日十一月十二日日曜日、聡美ちゃんは仁村篤君と一緒に本間朝音さんのアルバイト先である駅前のドーナツ屋に行った」
「はい」
「そこで仁村篤君に前日の返事を聞かれた」
「はい」
「その時、本間朝音さんはどこにいた?」
横から川畑さんがすかさず店内見取り図を出して来る。凄い。ツーカーだ。何も言わなくてもこの二人は通じ合ってる。さすがバディだ。
「朝ちゃんはここのカウンターのところに入っていて、あたしたちはここの席に」
「カウンターのド真ん前?」
「そうです」
「この席だと本間さんに聞かれちゃうんじゃないの? 付き合う付き合わないの話でしょ?」
川畑さんが割り込んで来る。ご尤もなんだよ、そこはあたしも不思議だったんだ。
「恥ずかしいから『朝ちゃんに聞こえちゃうよ』って何度か言ったんだけど、『朝音に隠し事したくない』って言って。朝ちゃんは小っちゃい頃からいつも一緒に遊んでたから、朝ちゃんには何でも相談してたし、篤はあたしにフラれてもいいからそれも含めて朝ちゃんに知っといて欲しいって」
島崎さんが腕を組んで背もたれに寄りかかった。
「ふーん、そんなもんかねぇ。今時の高校生ってわからんな」
「あたしもわかんないですよ。あたしは朝ちゃんにそんなの知られたくないし。篤の事はもちろん好きだけど、付き合う気もなかったから、朝ちゃんの聞いてるところで断るのもなんだか嫌だったし」
「ねえ、ちょっといい?」
川畑さんが机に肘をついて身を乗り出して来る。今日のスーツはライトグレイのスーツ。タイトスカートが凄く似合っててカッコいい。
「本間朝音さんが仁村篤君の事が好きで、彼に積極的にアプローチしてたってことはない? それで彼が断わり切れなくて、彼女の見ているところでわざとあなたにアタックしたとか」
えええーっ?
「あ、でも全くないとは言えないか。あーでも篤はきっぱり断りますよ、その気がなければ。それに大学にはイケメンがいっぱいいるって、朝ちゃん言ってましたし」
「え、そうなの? じゃあ神奈川体育大学への聞き込みは私が行きます!」
今度は島崎さんの川畑さんを見る目が冷たい……。この二人、仲がいいのか悪いのか。
「話を戻すよ。ドーナツ屋に行った翌日の十一月十三日月曜日、聡美ちゃんは駅で偶然一緒になった仁村篤君と一緒に家まで帰った」
「はい」
「何時頃?」
「駅に着いたのが夕方の五時半くらいです」
「それから家に戻ってミムラの散歩に行ったのはいつ?」
「帰ってすぐです。玄関にお散歩セットが置いてあるし、そこに首から下げるライトもあるからそれだけ首にかけてすぐに出ました」
「犯行時刻が六時二十分。それまで散歩してたってことだね?」
「はい……あっ!」
「ん?」
思い出した、香菜!
「先週の金曜日!」
川畑さんがボールペンを持ちなおす。
「十一月十日金曜日?」
「はい。香菜が篤にコクったって」
「え? 若林香菜さん?」
「そうです、香菜はずっと篤の事が好きで、でも篤があたししか見てないこと知ってて、受験に響かないように、今のうちにコクって篤にフラれた方が勉強に集中できるからって言って」
「すっごい理由だな……」
島崎さんが肩を竦めると、横から川畑さんが「あら、私はわかるわよ」と反論する。
「好きな男の子の事が気になっちゃって勉強どころじゃないのよね。しかも大の親友の事がどうやら好きみたいなんだもの。いっそ玉砕した方が綺麗さっぱり忘れられるじゃない?」
「そう、それです!」
「こういう事は女の子同士でないと判んないわよね」
川畑さんがあたしに同意を求めると、すかさず島崎さんが切り込んで来る。
「え? 川畑さんが自分で『女の子』とか言っちゃうの?」
「島崎君、死にたい?」
「いえ」
この二人、やっぱり漫才してるんだ。
「うーん。ということは、つまりだ」
島崎さんが無精髭のうっすら生えた顎をつまんで、何か頭を整理してるっぽい。
「聡美ちゃんの友達は全員、篤君を殺害する動機はある訳だね」
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