第11話 二度目の事件
事件はすぐに起きた。
このところ塞ぎ込んでいた香菜を連れ出して買い物に行ったのだ。買い物と言っても買う予定のものがある訳ではない、ただ服とか小物とかを眺めに行っただけ。あたしたちみたいな高校生でも買えるような安物のピンキーリングとか、スマホのアクセサリーとかそんなものをちょこちょこっと買って、一緒にカフェでケーキ食べて、無駄にお喋りしただけ。
あたしの住んでるところの最寄り駅は、ベッドタウンだけどそれなりに駅のショッピングモールが充実してる。だから、今日は香菜がこっちに遊びに来てくれたんだ。
いつものように朝ちゃんがバイトしてるドーナツ屋に行ってもいいんだけど、せっかく香菜がこんなとこまで来たんだし、ちょっと駅から離れたオシャレなカフェに連れて行ったんだ。ここのイチゴのミルフィーユはメチャメチャ美味しくて、絶対香菜に食べさせたかったから。
それに、篤と最後に一緒に食べたの、ここのミルフィーユだったから。そのことも香菜には教えておきかった
モールで買ったお揃いのマスコットを、二人で学校に持って行くカバンにぶら下げようねって約束して……どうしても篤の話になってしまう。
あたしは知ってたんだ。香菜が篤を好きだったこと。ずっと前から何度も相談されてたんだけど、香菜はのんびりしてるし、自分からそういうこと言えるような子じゃなくて、なんだか見ていて焦れったかった。だから、あたしからアドバイスできるようなことがなんにもなくて、ただ応援する事しかできなかったんだ。
だけどケーキをつつきながら聞かされた話は驚くような話だった。
「あたしね、仁村君を呼び出して好きだって伝えたの」
あたしはケーキのイチゴが喉につかえそうになった。
「ええっ? いつ?」
「先週の金曜日」
ええええっ? あたしが市村君にコクられた日じゃないか!
「そ、それで、篤はなんて?」
香菜はミルクティをくるくるかき混ぜながらボソッと言ったんだ。
「好きな子がいるから、ごめんだけど無理……って言われた」
げっ。それってあたしのことだよね、どう考えても。なんとしてでも悟られないようにしないと。
「でもね、あたし知ってたんだ。仁村くんが聡美の事好きなの、ほんとは知ってたの」
「え、そ、そうなの?」
ああ、我ながらわざとらしい……。全然フォローになってない。香菜知ってたのー?
「でもちゃんと仁村君の口からそのことを聞きたかったから、それでいいの。来年は受験だしすっぱり諦めようと思って、直接仁村君に『無理』って言って貰いたかったの。だからそれでいいんだ」
「そう……なんだ」
あたしはなんと言っていいのかわかんなくて、無駄に紅茶をかき混ぜた。
「聡美は仁村君と付き合ってなかったの?」
「全然そんなんじゃないよ。小っちゃい頃からの付き合いだし、幼稚園の時なんか一緒にお風呂だって入ったし、そういうあれじゃないから!」
って言いながら、実はあたしは先週の突然のキスを思い出して、顔が熱くなるのを感じていた。
「聡美、市村君とも仲いいもんね」
「え、ああ、市村君も小学校からの付き合いだし。でも特別な関係じゃないからね、ただの友達」
って言いながら、やっぱり先週コクられた時の事を思い出して、顔が熱い。だってあたし、市村君も篤も好きだもん、友達としてだよ! って心の中でメチャメチャ叫んでる。
「仁村君が聡美の事見る時、もう全然他の子を見てる目と違うんだもん。まるで敵わないの知ってたから別にいいんだ。それに、あたしは聡美の事が好きだし」
「あたしだって。香菜の事、一番の親友だと思ってる。一番付き合い浅いのにね」
「つき合いって時間じゃないよ、深さだよ。あたしは今まで好きな人の事なんて誰かに相談したこと無かったもん。聡美だけだよ」
香菜が少し寂しそうにあたしを見る。香菜も篤がいなくなって心にぽっかり大きな穴が空いちゃったんだろうな。あたしもそうだよ。ぽっかり空いちゃってるよ。
「ありがと、香菜。あたしも香菜がいなかったらどうなってたかわかんないよ。泣き暮らしてたかも。家族みたいなものだったし」
「帰ろっか」
「うん」
あたしたちはカフェを出て駅に向かった。あたしんちはすぐそこなんだけど、香菜を駅まで見送ることにした。香菜は「大丈夫だよ、わかるから」って言ってたけど、もうちょっと一緒にいたかったから。
だけどあたしは香菜を駅まで送ったことを、その後でとても後悔することになったんだ。
この季節は陽が落ち始めるとあっという間に暗くなる。車がライトを点け始めるくらいの明るさが一番見えにくいって聞くけど、本当にそうだった。いや、明るくても気づかなかっただろう。人間の目は正面についている、間違っても頭のてっぺんになんてついてない。
あまりにも一瞬の事だった。あたしの目の前を何かが凄い速さで上から下に通過した。それと同時に足元で爆発音がし、突如出現した物に足を取られて、あたしは悲鳴と共に派手に転倒した。
「聡美!」
香菜の慌てた声があたしの上から降ってくる。
「聡美、大丈夫?」
「いったぁ……」
「君、大丈夫か?」
「怪我はありませんか?」
え? 周りに人が集まってきた。
「なに今の」
「わかんない。それが上から降って来た」
香菜の指すものを見てあたしはゾッとした。多分元は電子レンジだったと思われるその箱は、扉が外れ、ガラスが割れ、制御部がむき出しになり、いろいろな部品が散乱している。こんなものの直撃を食らったらあたしはどうなっていただろう。
幸いあたしは落ちて来たそれに躓いて転んだだけで、大した怪我はしていない。不幸中の幸いというべきだろう。だけど誰が?
通りがかりの人たちが心配して声をかけてくれる。救急車を呼ぼうか、大丈夫か、立てるか……そんな声に向かって、あたしははっきりと言った。
「一一〇番通報してください。あたし、命を狙われてるんです」
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