第2話 第一発見者

「ねー、早く行こうよー。寒いよー。早く帰りたいよー。お腹減ったよー」


 さっきから口を開けばこればっかりになってる。なのにミムラはあっちに寄り道こっちに寄り道、一向に進む気配無し。やっぱり一個でもフレンチクルーラー食べてから来ればよかった。


 道には街路樹の紅く染まった大きな葉っぱがたくさん落ちていて、踏むとカサって音がする。もうこの音だけで寒さ倍増。音響効果抜群。そこにひゅうって冷たい風が吹いてきたりすると、今すぐ帰りたいって全身が訴える。


 家を出た時はまだ薄暗い程度だったのに、もうすっかり陽が落ちて暗くなってしまった。こうなるといくら治安の良い住宅街でも、いろいろ不安になってしまう。

 もちろん街灯だって点いてるし、あたしも首からライト下げて歩いてるけどさ。それでも暗いとやっぱり怖いじゃない? 変な人に後を尾けられたりしたらどうしよう。ミムラ、ちゃんとあたしを守ってよ?

 ってもうっ! また寄り道してるし!


「おいてくよっ!」


 ちょっと怒った声を出すと、ミムラは「くぅーん」なんて鼻を鳴らして、不満全開な目で何か言いたげにあたしを見上げる。でもいつもの手口なんだ、この目には騙されないのだ。

 あたしが知らん顔で歩き出すと、ミムラも渋々ついて来る。一応自分の立場はわきまえているようだ。わかればいいのだ、あたしに逆らうとご飯抜きなんだからねっ!


 なんて思っていたら、ミムラが急に先に立ってあたしを引っ張り始めた。何よ、お腹減ったの? 全く調子いいんだから。あれ、違う? なんだろうと思ったら、少し先の公園に人影が二つ。誰だろう。ミムラが反応するくらいだから、知ってる人かな?


 薄暗い公園の中で、一人が軽く手を挙げてもう一人の肩に手を乗せるのが見えた。

 次の瞬間、思いがけないことが起こった。手を乗せられた方が、肩の辺りを押さえて倒れたのだ。

 えっ、ちょっと、何、どうしたの?

 考える間もなくミムラがあたしを引っ張って走っていく。立っている方の人は、あたしを振り返ってそのまま何事も無かったように立ち去ってしまう。なんで? あなたの見てる前で人が倒れたのに、ほっといて帰っちゃうの?

 ミムラが珍しく凄い勢いで吠えている。どうしたと言うんだろう?


 ミムラに引っ張られてようやく倒れた人のところに辿り着いたあたしは、その人を見て腰が抜けそうになった。

 血まみれだったのだ!

 あまりの事に声も出せずに呆然と凍り付いていたあたしは、ミムラの吠える声でやっと我に返った。


「誰か! 誰か来てください! 救急車を呼んで下さい! 人が怪我してる! 誰か!」


 大声で助けを呼んでいると、倒れた人があたしの袖を掴んだ。


「大丈夫ですか? 何があったんですか?」


 しかし、次の瞬間、あたしは悲鳴を上げていた。


「篤? 篤なの? どうしたの!」

「さと……み……」

「篤! ちょっと……やだ、篤! しっかりして篤!」


 あたしの袖を掴んだ篤の手が、力無くだらりと下がる。


「やだ、篤! ダメっ! お願い、篤、しっかりして! 誰か救急車呼んで! 篤が死んじゃう! 誰か助けて! 早く! やだ! 篤、死んじゃダメだよ、篤!」


 そこから先の事は、何も覚えていない。

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