第七幕
第七幕
「いいかげんにしろ、このデブ! とっとと出て来い! 甘ったれてんじゃねえぞ!」
「何て事を言うんですか、あなたは! 岡島くんが苦しんでいるのを、どうしてあなたは理解してあげられないんですか! 頑張りたくても頑張れない人だって、世の中には存在するんですよ!」
リッチモンドホテル浅草の二階の岡島くんの個室の前で、ドアを叩きながら怒号を浴びせる篤志に、眉根を寄せた西鳥羽さんが食って掛かるように抗言していた。二人の言い分は平行線を辿り、交わる事は無い。
「ねえ、あたし達今来たところなんだけど、何があったの?」
ホテルの廊下で状況を見守っていた僕に、虎鉄と共に駆けつけたばかりの照喜名さんが、耳打ちをするように尋ねた。
「岡島くんがとうとう食事の席にも姿を現さずに、部屋に引き篭もったままになっちゃったんだよ。それで西鳥羽さんが彼の食事を部屋まで運ぼうとしたら、そうやって甘やかすのが悪いって言って、篤志がキレちゃってさ」
そう答えた僕は、深く嘆息する。キレる篤志の気持ちも分からないではないが、どう考えても精神を病んでいるとしか思えない岡島くんに無理を強いても、事態が好転する筈も無い。とにかく現状では、岡島くんが自主的に部屋から出て来られるようになるまで見守るしか方法は無いのだ。
「はいはい、中条くんも西鳥羽さんも、少しは落ち着いて冷静になりなさい」
パンパンと手を叩いて各自に自制を促しながら、相田さんが押す車椅子に乗った塚田さんが廊下に姿を現した。彼女の出現に、言い争っていた篤志と西鳥羽さんも口を噤み、一時的に平静を取り戻す。
「さて、それで、一体何がどうしたのかしら?」
「岡島のデブが、飯の時間になっても下に下りて来なくなりやがったんだ。それならそれで部屋で引き篭もってる分には構わねえが、西鳥羽の奴が、デブの飯を部屋まで運んでやろうとか言い出しやがる。そうやって甘やかすから、デブがいつまで経っても引き篭もったままなんだ。このままじゃその内、糞した後の尻まで他人に拭いてもらうようになっちまうぞ」
状況の説明を求める塚田さんに、篤志が彼なりの意見を交えて返答した。その返答の内容に、隣に立つ西鳥羽さんは顔を真っ赤に滾らせて怒りを露にする。
「なるほど。それで、西鳥羽さんの言い分は?」
「岡島くんは、苦しんでいるんです。病気なんです。病気の人を看護してあげるのは、人として当然の事ではないんですか? それを、その、お尻を拭いてもらうようになるとか言って馬鹿にするのは、いくらなんでも酷過ぎます!」
怒り心頭と言った口調でもって、そう言った西鳥羽さん。やはり篤志と彼女の意見は、どうあっても相容れないらしい。
「そうですか、分かりました。それでは悪いけれど、ここは一旦、中条くんが譲歩してくれないかしら? 以前も言いましたが、性急に解決策を見つけようとするのは、却って岡島くんのためになりません。彼の心がこれ以上壊れないように、そっと見守っていてあげましょう」
塚田さんがそう言って両者の意見を取り纏めようとすると、譲歩を求められた篤志は舌打ちを漏らし、西鳥羽さんはホッと胸を撫で下ろした。しかし塚田さんは続けて、西鳥羽さんにも要求する。
「西鳥羽さん、あたしは以前、こうも言った筈です。岡島くんを無理に部屋から連れ出そうとするのは間違っていますが、過剰に擁護するのも間違っていると。ですから気持ちは理解出来ますが、彼を甘やかしていると捉えられかねないあなたの言動も、少しは自重してください」
彼女の言葉に、今度は西鳥羽さんが肩を落とし、篤志がほくそ笑んだ。
「……分かりました。でもせめて、岡島くんのお食事を部屋まで持って来てあげる事くらいは、許可してはもらえませんか?」
そう言って許可を求める西鳥羽さんに対して、塚田さんは暫し熟考してから口を開く。
「いいでしょう。部屋まで食事を運んであげる事は、許可します。ですが西鳥羽さん、繰り返し言いますが、岡島くんを過剰に擁護するのも正しい対処の方法ではありません。あくまでも適切な距離を維持して、彼が自分から部屋から出て来られるように、自立出来るように見守っていてあげてください。いいですね?」
「はい」
自分の願いが聞き届けられた西鳥羽さんは、快活な声でもって肯定した。対して納得が行かないらしい篤志は、再び舌打ちを漏らす。
「さて、それじゃあ皆はレストランに戻って、晩御飯の続きにしましょう。虎鉄くんと照喜名さんがせっかく作ってくれた料理が、冷めてしまいますからね」
塚田さんの号令に従い、僕達はぞろぞろと連れ立って、ホテルの一階のイタリアンレストランへと足を向けた。
「岡島くん、悪いけれど、ちょっとだけ待っててね? すぐにお食事を持って、また戻って来ますからね?」
最後尾の西鳥羽さんは、自分の部屋に引き篭もったままの岡島くんに向かって、ドア越しに語り掛けている。彼女の声色はまるで幼い我が子に語り掛ける母親のそれにも似ていて、なんだか少し、気味が悪い。やはり西鳥羽さんは、岡島くんの保護者にでもなった気でいるのだろうか。
「なあ、本当にこれで良かったのか?」
「最善の策かと問われればそうとは言い切れないけれど、今はこうするしか、方法は無いでしょう。あたしは心療内科の先生でもないしカウンセラーでもないんだから、残念だけれど、心の傷を治してあげる事は出来ません。だから可能な限り岡島くんにストレスを与えないようにして、彼自身が自分の力で立ち直ってくれるのを期待するのみです」
不服そうな篤志の問いに、塚田さんが答えた。そして彼女は、当人には聞こえないように小声でボソリと呟く。
「むしろ問題なのは、西鳥羽さんね」
その言葉を耳ざとく聞いていた僕は、西鳥羽さんに不信感を抱きつつあるのが僕だけではない事を知って、ホッと安堵すると同時にひどく落胆した。やはり僕の予感は、悪い意味で的中する傾向にあるらしい。そしてふと背後を見遣れば、岡島くんの個室の前で、西鳥羽さんがドア越しに語り掛け続けている。ドアの向こうの岡島くんが、彼女の声を聞いているとも限らないのに。
●
夜中に、ふと眼が覚めた。枕元のデジタル時計で現在の時刻を確認すれば、深夜の三時。真っ暗な自分の個室のベッドの上で半身を起こした僕は、口を大きく開けて、盛大なあくびを漏らす。
「ふあ……ああ……」
床に入ったのが深夜の一時頃なので、未だ二時間程度しか寝ていない事になるのだが、なんだか妙に眼が冴えてしまった。寝る前にYouTubeで、心霊現象関係の動画を視聴したのが影響しているのかもしれない。それでも寝なければならないので布団に包まるが、一向に睡魔が襲って来る気配は無いので、諦めてベッドから起き上がった。
「喉が渇いたな」
僕はそう独り言ちると、ホテルに備え付けの小型冷蔵庫を開け、中身を確認する。しかし間の悪い事に、普段ならば冷やしてある筈の清涼飲料水の類が、今夜に限っては丁度在庫を切らしていた。勿論蛇口を捻って水道水を飲めばそれで解決する問題なのだが、今は何か、味の付いた飲料が飲みたい。
「仕方が無い、買って来るか」
再びそう独り言ちた僕は、ハーフパンツのポケットに財布を突っ込むと、自分の個室から退出した。そしてホテルの廊下に出るとエレベーターホールに足を向けるが、その途中で、結構な大きさの何かが廊下に転がっているのを発見する。
「ん?」
よく見ればそれは、薄暗い廊下の壁際で毛布に包まって眠る西鳥羽さん。彼女が寝ているのは、岡島くんが個室として利用している客室の前。どうやら西鳥羽さんは岡島くんの面倒を見るために、ここで寝起きを共にする事にしたらしい。塚田さんから許可を得たのは彼の食事を部屋まで運ぶ事だけだった筈だが、こうして部屋の前で付きっ切りになるのは、果たして協約違反ではないのだろうか。そして僕は彼女を起こさないように足音を殺して歩きながら、そこまでして岡島くんに尽くそうとする西鳥羽さんの母性の深さに、ゾッと怖気を走らせる。
やがてエレベーターホールに辿り着いた僕は呼び出したエレベーターに乗り、一階のボタンを押した。このリッチモンドホテル浅草には清涼飲料水の自動販売機が一階と六階にしか無いので、いちいち買いに行くのが少し面倒だが、致し方無い。
「ふう」
自動販売機で缶コーラを買った僕はプルタブを開けてその中身を一口飲み下すと、ホッと溜息を漏らし、人心地付いた。そして再びエレベーターに乗り込むと、今度は自分の個室に戻るために、二階のボタンを押す。それにしても、自動販売機で買い物をする度にいちいち硬貨を投入しなければならないのが、地味に面倒臭い。ゾンビが発生して以降、こんな時くらいしか金銭を必要とする機会が無いので、ついつい財布を忘れそうになってしまう。勿論自動販売機の鍵を壊してバールで無理矢理抉じ開ければ済む事だし、いずれはそうする日が来るのかもしれないが、今はまだその時ではない。そんな事を考えている内にエレベーターは二階に辿り着き、扉が開く。
「わっ!」
エレベーターの扉が開いた途端、眼の前に人が立っていたので、虚を突かれた僕は飛び上がるほど驚いた。しかもそれは只の人ではなく、二m近い身長の、巨大な肉の塊。つまりは薄らでかいデブと形容するのが適切な体格の、岡島くんだった。
「や、やあ、岡島くん。こんな時間にどうしたの? 岡島くんも、自販機で買い物?」
僕は平静を装って尋ねるが、岡島くんは扉を塞ぐようにしてエレベーターの前に立ち尽くし、無感情な瞳で僕をジッと見据えたまま微動だにしない。そこで仕方無く、立ち尽くす彼のぶよぶよに肥えた腹と壁との隙間を無理矢理潜り抜けて、僕はエレベーターから廊下へと退避した。そして一刻も早く自分の個室に戻ろうと彼に背を向けた、次の瞬間。背後から伸びて来た岡島くんの両手が僕の肩を掴むと、そのままに力任せに全体重を乗せて、エレベーターホールの床に僕を押し倒した。ドシンと言う音と衝撃と共に、僕達は折り重なるようにして倒れ伏す。
「ぐは」
岡島くんの巨体に押し潰された僕の肺からは全ての空気が押し出され、喉から変な声が漏れるのと同時に呼吸が止まり、苦しい。持っていた缶コーラが床を転がり、シュワシュワと炭酸が泡を吹きながら、エレベーターホールの床を濡らした。
「おかじ……何を……」
碌に呼吸も出来ない状態の僕は途切れ途切れに声を漏らしながら、岡島くんのボディプレスから逃れようと必死に足掻く。しかし推定で二百㎏を越えようかと言う彼の巨体に圧し掛かられては、逃げ出す事はおろか、身動きを取る事すらままならない。そして僕の身体を押し潰したまま、全身をじっとりと脂汗で湿らせた岡島くんは、やはり感情が消え失せた機械の様な声でもって僕に囁く。
「ぼ、ぼぼ、僕は知っているんだぞ。お、おま、お前はいつも、僕の事を監視しているだろう? や、やや、やめろ。ぼ、ぼぼ、僕を監視するのはやめろ。そ、そそ、それに僕の事を、ひ、引き篭もりのデブだと思って馬鹿にしているんだろう? し、しし、知っているんだぞ。ぼ、ぼぼ、僕は全部知っているんだぞ」
「何だ……て……」
岡島くんが何を言っているのか、僕には理解出来ない。かろうじて理解出来るのは、このままではいずれ窒息してしまい、僕の命が危ういと言う事だけだ。そしてどうにか首を巡らせて背後の岡島くんを見遣れば、彼はふうふうと荒い呼吸を漏らしながら、まるで死んだ魚の様な瞳孔が開き切った眼で僕の瞳をジッと見つめている。その表情は、完全に正気の沙汰ではない。
「たす……け……て……」
岡島くんに押し潰されたまま掠れた声で助けを求める事だけが、今の僕に出来る唯一の抵抗だった。しかしそんな抵抗も空しく、酸欠によってゆっくりと意識が遠退き始める。
「このデブ! 何してやがる!」
失神寸前の僕の耳に、誰かの怒声が届いた。最初は酸欠による幻聴かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。そして次の瞬間、その誰かがホテルの廊下をこちらへと駆け寄って来ると、僕の上に圧し掛かったままの岡島くんの顔面を渾身の力でもって蹴り飛ばした。
「ぷお」
奇妙な声と共に岡島くんが仰け反って転がり、蹴り飛ばされた顔面を押さえながら、ホテルの廊下をバタバタとのた打ち回る。彼が退いた事によってようやく身体の自由を取り戻した僕は深呼吸を繰り返し、ゲホゲホと何度も咳き込んだ。
「大丈夫か、慧?」
そう言って僕の身を案じ、つい今しがた岡島くんの顔面を蹴り飛ばしたのは、下着姿の篤志だった。どうやら彼は、夜は下着一枚だけで寝るタイプの人間らしい。
「何? 何がどうしたの?」
あたふたと動転しながら、虎鉄もまた自分の個室から廊下へと姿を現す。彼も篤志も、先程僕が岡島くんに押し倒された時の音と衝撃で眼を覚ましたのだろう。
「慧、何があったんだ? あのデブに、何をされた?」
「それが、岡島くんが何が何だか訳の分からない事を言いながら、突然襲い掛かって来て……」
篤志と虎鉄に助け起こされながら僕は状況を説明しようとしたが、僕自身にも状況が理解出来ないので、説明のしようがない。そして背後を見遣れば、篤志によって顔面を蹴り飛ばされた岡島くんもまた、のた打ち回っていた廊下の床から起き上がるところだった。脂肪でブクブクに太った彼の顔面は、両の鼻腔から噴出した鼻血でもって真っ赤に濡れている。
「うう……ううう……ママーッ! ママーッ! ママーッ!」
突然岡島くんが、顔面をグシャグシャにして大声で喚きながら泣き始めた。彼のお世辞にも綺麗とは言えない顔が、涙と鼻水と鼻血でもってドロドロになる。しかも年甲斐も無く母親をママと呼んで助けを求めているので、見るも聞くも醜悪極まりない。そして岡島くんは泣き喚きながらこちらに向かって突進して来ると、僕達三人を突き飛ばして廊下を駆け抜け、彼の個室の中へと姿を消した。呆気にとられた僕と篤志と虎鉄は、ぽかんと口を開けたままその場に立ち尽くす。
「ちょっとあなた達、岡島くんに一体何をしたんですか!」
騒ぎを聞きつけてようやく眼を覚ましたらしい西鳥羽さんが、泣きながら客室に駆け込んで行く岡島くんを見届けた後に、声を荒げながら僕達に詰め寄って来た。どうやら彼女は、僕達が岡島くんを集団暴行したとでも思っているらしい。
「ああ? 何言ってやがる! 先に何かされたのはこっちの方だぞ!」
未だ酸欠状態から復帰し切れていない僕に代わって篤志が怒鳴り返すが、怒り心頭で頭に血が上っている西鳥羽さんは聞く耳を持たず、いきなり篤志の頬を平手打ちでもって引っ叩いた。掌が頬の肉を叩くパンと言う衝撃音が、薄暗いホテルの廊下に反響する。
「何しやがる!このアマ!」
引っ叩かれた篤志は激昂して拳を振りかぶるが、さすがの彼もか弱い女性をおいそれと殴る事は出来ないらしく、拳を振りかぶった体勢のまま固まっていた。すると西鳥羽さんはそんな彼と暫し睨み合った末に、くるりと踵を返す。
「もう結構です! 何があったのかは、岡島くんに直接聞きます!」
一方的に捨て台詞を吐いた西鳥羽さんは、そのまますたすたとホテルの廊下を歩き、岡島くんの個室の中へと姿を消してしまった。再び僕達三人は、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くす。
「どうしたの? 何があったの?」
不意に背後から投げ掛けられた問いに振り返れば、ちょうどエレベーターから塚田さんと相田さん、それに照喜名さんの三人が降りて来るところだった。そしてエレベーターホールの床を転がる缶コーラを一瞥してから、塚田さんは再度尋ねる。
「一体、ここで何があったの?」
「岡島くんに突然襲われて、殺されかけたんだ。彼はやっぱり、まともじゃない」
ようやく呼吸も安定して来た僕が、岡島くんに押し倒された際に床に打ち付けた頬を擦りながら答えた。
「そう……西鳥羽さんは?」
「西鳥羽の奴なら、キーキーとヒステリックに喚き散らしたかと思ったら、俺の事を一方的に引っ叩いてから岡島のデブと一緒に部屋に篭もっちまったよ。あいつも少し、ここがおかしくなって来てやがる」
自分のこめかみを指差しながらそう言った篤志の言葉に、塚田さんは天を仰いで思い悩む。
「岡島くんの事も勿論問題だけれど、西鳥羽さんが彼に入れ込み過ぎているのも、良くない兆候ね。このままだと互いに依存し合った共依存の関係のまま、ずるずると二人揃って被害妄想に囚われて、いずれは破滅の道を歩む事になってしまうでしょうから。何としても、その結末だけは回避しないと」
「共依存だとか破滅の道だとかはよく分かんねえが、とにかく慧が岡島のデブに襲われた事だけは、確固たる事実だ。こうなったからには、いつあのデブが他の仲間も襲い始めるか分かったもんじゃねえ。力の弱い女、特に自力では歩けないあんたが襲われたら、手も足も出ない。これはマジで、危ないぞ」
塚田さんに向かって、篤志が警告した。すると彼女もまた、これに同意する。
「そうね。気を付けないと、非力なあたしなんて、逃げる間も無くあっと言う間に殺されちゃうでしょうね。でも、そうならないためには一体どうしたらいいのかしら。岡島くんが好き勝手に動けないように、彼を縄で縛って拘束する? 西鳥羽さんが岡島くんに会えないように、彼女も縛って拘束する? いくらあたしでも、そんな非人道的な命令を下す事だけは遠慮願いたいものね」
そう言って、深く嘆息する塚田さん。彼女の言い分も理解出来るが、実際に岡島くんに殺されかけた僕から言わせてもらえば、もはや事態は一刻の猶予も無い。何らかの対応策を講じなければ、そう遠くない時期に新たな被害者が出るだろう。
「俺の部屋に、この浅草に来る途中で調達した
篤志が、自分の個室の方角を指差しながら言った。
「万が一岡島のデブに襲われた時のために、これからはデブと西鳥羽以外の全員が、それを持ち歩こう」
そう言えばすっかり失念していたが、篤志の部屋には彼が照喜名さんと岡島くんを連れて浅草の街まで逃げ延びて来る途中の銃砲店から拝借して来た、数挺の
「いいえ、それには及びません」
だが塚田さんは、篤志の提案を拒絶した。
「いくら何でも、そんな物で武装するのはやり過ぎです。仮に
「そうか……。じゃあ、どうする?」
「とりあえず今は、各自の部屋にしっかりと鍵を掛ける事と、可能な限り単独での行動は避ける事を徹底しましょう。その上で、もう少し岡島くんの様子を見る事にします。出来れば彼も仲間の一人として、あたし達に心を開いてほしいもの」
篤志の疑問に、塚田さんはそう言って答えたが、篤志は未だ納得が行かないらしい。
「そんな悠長な事を言っている場合かね……」
小声でボソリと、そう呟いた篤志。僕もまた彼と同意見であり、塚田さんは万人に対して優し過ぎるきらいがあると感じていた。勿論それは、リーダーとしての彼女の長所でもあるのだが。
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