第一二章『探索』

【第一二章『探索』】


〈1月1日 21:05 永興島 軍事基地内 北東部〉


 目的の建物は他と比べると防衛警備が明らかに高かったが、到着すると同時に車で突っ込み四人で銃を撃ちまくった結果、数十秒で入り口を突破してしまった。

「建物に入ったら無線が繋がらなくなる可能性が高いわ。今のうちに建物の見取り図を送っておくから」

ハディージャが送ってくれた地図によれば、建物の一番奥に地下へと伸びるシャフトが三本あり、それがエレベーターだと推定される。入り口の守備を任せるのは戦いたくてウズウズしている彼しかいない。

「イワンコフ、ここに残って入り口を守っておいてくれ」

「任せとけ、死守してみせるさ。アンドレ、ビッグママ(ブローニングM2)とグレネードランチャーを借りるぞ」

そう言うと銃口を入り口に向けて防衛ラインを築く。残りの三人はイワンコフからSimoonを受け取るとエレベーターに向かって走り出した。


 出会う敵一人ひとりを確実に仕留めながらエレベーターへと乗り込んだ一行はエレベーターボタンの一番上、地下一階を押して下降を始めた。

 地下一階でエレベーターを降りると地図に従って通路を抜けて研究室らしき部屋へと突入して威嚇射撃をしながら左右に展開し、一瞬のうちに部屋の制圧に成功した。武装している兵士が極端に少なかったことと、いたのが非戦闘員である研究者や技術者などだったからここまで素早い制圧が可能だったのだろう。室内見回すとパソコンや工作機器などが並べられ、モニターには新型の武器だと思われるモデルが映し出されており、技術部門の開発が進められているようだった。アダムとアンドレに指示をして数カ所にSimoonを仕掛けさせると、その間に室内にいた技術者らに逃げるよう促す。武器を持っていない敵を虐殺するのはさすがに躊躇されたし、そんな事で良心の呵責を感じたくもないという理由からだ。

 四つの気化爆弾を設置し終えたあとでこの階にあるもう一つの調査ポイントへ向かう。それは「アサシン」の調査で潜水艦ドックの可能性が浮上した地点だ。


 実際に到着してみると潜水艦こそ停泊していないものの、明らかに潜水艦もしくはその類の地下港である事は明白だった。地図によれば五,六本の横道の先に部屋があり、場合によっては司令室のような可能性も捨てきれないので時間短縮の為に個々人でそれぞれ重要度の高そうな道を調査する事にあらかじめ決めていたので、それに従って別々の道を進んで奥へと向かっていった。

 大した異状もなく調査を終了したアダムとアンドレが戻って来てしばらくしてもウォーレンが戻る気配が無く、心配をした二人はウォーレンが調査に進んでいった通路を辿ることにした。

「ウォーレン大丈夫か?何か見つけたのか?」

呼び掛けながら進んでいると地下の密閉された空間に数発の銃声が反響して聞こえてきた。アダムとアンドレはそれぞれP90とMP7を構えながら足音を忍ばせて進んでいった。

 通路の終着点であるコンクリートで作られたホールのような空間の中央でウォーレンは中国人兵士と闘っており、周りには数体の死体が倒れていた。二人とも銃ではなく拳を合わせて殴り合っていて、どちらが有利とは判断できない状況にあった。ウォーレンがスイングを放つとそれを避けた相手が下に潜り込んでアッパーを決めようとし、それを避ける為に後ろへ飛び退いたウォーレンに対してさらにストレートを繰り出す。一方のウォーレンも負けじと伸びてきた腕を掴むと手前に引くようにして相手を引っ張り、足を払って地面に叩きつけると馬乗りになって拳を打ち出す。一進一退の攻防戦が続く中、二人が立ち上がった時を見計らってアダムが叫んだ。

「ウォーレン、かがみ込め!」

こちらに背を向けていたウォーレンは振り向くことなくしゃがむと、アダムはセミオートに切り替えたP90を構えて光学照準器を覗き込むと、素早くトリガー引いて六発銃弾を放った。胸から頭にかけて銃弾を食らった兵士は脳みそと血液を撒き散らしながら後ろへ倒れた。アンドレが駆け出して兵士の死を確認し、ウォーレンの元へ駆け寄った。

「二人とも助かった」

「気にすんな。立てるか?」

「もちろん。早いところ下の階の調査を終えようぜ」

こめかみと脚に痛みがあるものの、気合を入れて立ち上がり、それぞれ一つずつ合計三つのSimoonを隠して潜水艦ドッグの調査を終えると最初のエレベーターへと戻った。

 

 地下二階、三階は研究室や実験室のような部屋がいくつもあったものの当初警戒していた生物実験や化学実験の兆候は見られなかったし、武器類も置いてあったが欧米諸国の製造するものには到底敵いそうになかった。結局この二層についてはSimoon合計六個を設置して調査を終え、さらに下へと向かった。

 

 エレベーターの扉が開き、最下層の地下四階を目にした途端に度肝を抜かれたのは三人ともだった。今までの研究室が並ぶような作りではなく、コンクリートで作られた大きな箱のような造りの空間に大きめの機械が幾つか並んでいる。それらの機械にはスピーカーが取り付けてあるものや、コイルのようなものが設置されているものがあり、これらを見たアダムが興奮混じりの声を上げた。

「以前にイギリスで開催された最新武器の発表会で似たようなものを目にしました。多分、強力な音波を発射して相手に危害を加えたり、電磁波を放射して情報機器の使用を不能にするような類の兵器だと思います。――――そうか!そういうことだったんですよ」

「何がわかったんだ?」

理解のできていないアンドレが尋ねる。

「近郊海域の海岸で生き物の死骸が打ち上げられているって話のことだな?」

ウォーレンも気がついたようだ。

「えぇ、そうです。強力な音波や電磁波にさらされると本来持っている感覚が狂って浅瀬などに迷い込むことがあるそうです。過去には潜水艦のソナーが鯨やイルカに悪影響を及ぼしたとアメリカ海軍が公式に発表した事があります」

「中国はこんなものを裏で開発していたのか……」

「基本的にこういう兵器は海賊や暴徒に対して戦意喪失など非殺傷を目的として各国に配備されていますが、既に中国の軍事企業が射程距離1kmの電磁波兵器で殺傷可能のものを開発しています。恐らく今回の物はその精度向上を狙った研究などがされていたのではないかと思います」

 そう言って部屋の手前側にディスプレイしてあった特殊な形のショットガンの様な銃を手に取った。見ると「雷撃」と書いてあるプレートが添えられており、中国語を読めなくても銃の名前だと容易に想像出来る。銃身にコイルのような物が四つくっついており数本の配線がフォアグリップの部分に取り付けられた電源装置であろうものに接続されている。全体的には出来るだけ無駄を省く努力をしたようだが、重さやバランスの点からも開発段階という事が分かる。アダムは肩から掛けていた「聖杯=“箱”」をウォーレンに渡すと代わりに手にしている銃を下げた。

 持って来たカメラであちこちの写真を撮り、手元に残った六個の気化爆弾Simoonを全て壁や柱に取付けてエレベーターに乗り込むと地上へと向かった。

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