第十一章『合流』
【第十一章『合流』】
〈2018年1月1日 20:48 永興島 中国軍事基地内〉
アダムたちを迎えに行くため、ハディージャからの指示を頼りに車を運転するアンドレの横でウォーレンは衝撃に耐えながら座っていた。というのも、最初はフロントガラス越しに敵を撃っていたのだが、そのうちアンドレが片っ端から車で轢きだしたのだ。
「ちょっとアンドレ!いくらなんでも雑すぎよ!ボウリングじゃないんだから」
ドローンから送られてくる緑色の映像で見ると、走行する車に人が轢かれ、血の付いたタイヤが地面に残す轍が体温でほんのりとオレンジ色に描かれているのだ。
「安心しろ!この車はそんなにヤワじゃねぇよ!」
「多分、車の心配をしているんじゃないぞ。」心の中でそうツッコミながらこの先の道順と敵の様子を聞く。
「この先どうだ?敵はまだかなりいそうか?」
「そうね……アダムたちがいる建物の正面に集結しつつあるわ」
「ちょうどそいつらと戦っているところだ!後方から叩いてもらえると助かる!」
アダムからの援助要請だ。
「もう2,3分踏ん張れ!すぐ行く!」
そう言うと車を一旦止め、ウォーレンが運転席へと移り、アンドレは持って来た機関銃と武器複数を手に車の後部に移動して銃を設置した。
「レニー、準備OKだ!アダムたちを助けるぞ!さぁ、出発進行!」
アンドレの掛け声が終わる前にはもう、車両は急発進していた。1,2分ほど走ると前方にアダムたちがいる建物と、それを囲むような形で並ぶ中国軍の車両や兵士の姿が見えてきた。気付かれず、かつ出来るだけ近付いて車を止め、アダムたちに連絡を入れる。
「敵の後ろに着いた。これからアンドレが暴れるから、中に隠れてろ!」
「了解。楽しませてもらうぜ!」
イワンコフの返事を聞いてから、ウォーレンも後部に移り弾込め担当として配置に付いてからゴーサインをだす――――もちろん掃射の許可を。
許可を出したあと、一瞬の間が空いかと思うと隣から激しい銃声が轟き出した。毎分六百発の速度で連射が可能なこの銃が銃弾を文字通り雨のように敵方へ降らせ、同じく雨のように空薬莢を落とす。二百発の弾薬ベルトが切れて交換している間もアンドレの勢いは止まらない。どこからか拾ってきてあった中国軍の87式グレネードランチャーを担ぎ上げると、慈悲など見せずに榴弾を撃ち込み、12発入りの弾倉が一瞬で空にした。前方から連続する爆発音と、飛び散った破片が車に当たって立てる音が聞こえてきた。敵の様子はどうかと確認すると、停めてあった車両はズタズタになり、炎をくすぶらせているのも何台か見えた。多くの兵士が地面に倒れるか、銃撃と榴弾でバラバラになっており生き残った兵は車の影に隠れている。
「ンン〜♪」
この惨状を作り出した本人はというと、気分良さそうに鼻歌を歌っている――――映画「戦場にかける橋」の『クワイ河マーチ』だ。
もう十分のようにも思えたのだが、弾薬ベルトの交換が終わると再び二百発の銃弾をさも楽しげに撃ち始めた。車のガソリンタンクに命中したらしく炎をあげて爆発し、身を隠していた兵士が吹き飛ばされ、火だるまになった兵が転げ回っている。ふと耳をすませば、銃声と爆音と鼻歌が何とも言えないメロディーを奏でている。装填した二百発があっという間に無くなったところで攻撃の手を止め、一旦周囲の状況をハディージャに確認する。
「上空から見る限りでは動いている人影は残っていないわね。どうやらあなた達は数分でそこにいた兵たちを完全殲滅したようよ――――あ!車の後ろに一人いるわ!」
振り返るとナイフを抜いて走る兵士が車のすぐ後ろまで迫っていた。しかし“完全殲滅”の四文字を聞いて気を抜いた二人は判断が遅れ、銃を抜くのに手間取ってしまった。既に兵士は車まで到達し、上に登ろうと足を掛け始めていた――――次の瞬間、兵士の頭がガクッ揺れたかと思うと体が弾かれるように横へ崩れた。
「ウォーレン、危なかったな。油断は禁物だぞ」
声の方に顔を向けるとアダムとイワンコフが走り寄ってきたのが見えた。
「すまない、助かった」
「こちらこそ、迎えに来てくれて感謝してる」
ウォーレンとアダムの会話をよそに、イワンコフが興奮した声で叫んだ。
「アンドレ、お前凄かったなぁ!格好良かったぞ!今度俺にもやらせてくれ!」
「気持ちよかったぞ!ここまでやりたい放題なのは久々だからな!」
「よし、再開の喜びに浸るのはもう少しあとにしよう。とりあえず地下を確認して爆薬を設置し、この島から出るのが最優先事項だ!しっかり掴まっていろよ!」
いつの間にか運転席に戻っていたウォーレンが振り返りながら注意を促して車を発進させた。目指すは地下へのエレベーターがある島の北東にある施設だ。
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