第八章『始動』
【第八章『始動』】
〈2018年1月1日 19:05 永興島 市街地外れ〉
10分ほど前、隠れ家でウォーレンが起爆スイッチを押した十数秒後、大きな爆音と振動が四回連続的に起こった。リーが仕掛けた爆弾が無事に起動したようだ。島にはサイレンが鳴り響き、早くも消防車や軍用車が集まり始めている。なにやら中国語で緊急放送が流れており、リーの翻訳によれば安全確保のため自宅待機を促しているという内容らしい。
島がうまい具合に混乱し始めた所でウォーレンらは襲撃の第一段階を開始した。市街地外れにある空き地にアンドレを縛りあげて転がし、ウォーレン、アダム、イワンコフの三人は物陰に身を隠す。
一方のリーは爆発後しばらくして現場へと向かった。そこで道路を塞ぎ通行規制を掛けている軍警察の規制線を見つけると近づいていった。
「危ないですよ、下がってください!ここから先は立入禁止です!」
兵士の注意を無視して走り寄っていく。
「ねぇ!夫と友達が怪しい外国人を捕まえたのよ!早く来て!」
いかにも慌てた様子で止めてある車両を指差しながら訴える。
「どういうことですか?」
「変な欧米人を見かけたから話しかけたら、逃げ出したのよ。だから不審に思って取り押さえたの。この爆発の犯人かもしれないわ!とにかく急いで来て!」
リーの迫真の演技力のおかげか、立っていた三人の兵士は無線に向かって数言話したあと互いに頷きあった。
「分かりました。案内をお願いします。さぁ、乗って!」
四輪駆動車の助手席に座って道案内をして市街地の外れ、先程ウォーレン達が隠れた所に連れてきた。
「ほら、あいつよ!ぐるぐる巻に縛っておいたから、絶対に逃げられないはずよ!」
指を指す先に転がっているアンドレに近づき、調べようとしゃがみ込む三人の内の一人が振り返りながらリーに問いかける。
「奥さん、捕まえた本人のご主人は――――」
そこで兵士の質問は途切れた。ゴキッという鈍く低い音が三回響き、兵士たちの腕は操り人形のように垂れ下がった。見ると三人の首がありえない方向にねじれていた。
ウォーレン達が物陰に隠れてしばらくすると、軍警察の四輪駆動車が近づいてくるのが見えた。助手席から降りて来たリーが指差す方を見て、三人の兵士がアンドレに向かって駆けてきた。三人は懐中電灯をつけてしゃがみ込もうとする。
三人の目線がアンドレに集中した瞬間を狙って隠れていたウォーレンとイワンコフ、アダムが音も無く彼らの背後に近づく。一人が中国語で何か喋りながら振り返り始めた――――ヤバい、バレる。左手で後頭部を押さえ、右手で素早く顎を抑えると渾身の力を込めて顎を耳の位置に持ち上げるように一気にひねり上げた。ゴキッと骨の折れる鈍い音がして兵士の身体から力が抜ける。周りを見ると残りの二人も操り人形のように腕を垂らしていた。
首がねじれた三体の死体から制服を剥ぎ取るとウォーレン、アダム、イワンコフの三人が自身の装備の上からそれを着て四輪駆動車に乗り込む。爆発事件の混乱と動揺に便乗した上で、さらに中国軍の制服を着ていれば少しでも誤魔化せるかもしれない。戦場ではその一瞬の時間が重要である事をそこにいる誰もが知っていた。役割を終え、別地点から島を出るリーを除く四人全員が乗り込んだことを確認して、車を発進させた。
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