第七章『決行』

【第七章『決行』】


〈2017年12月30日 15:35 永興島一時拠点〉


 今朝の補給便に乗せたコンテナにウォーレンら四人が隠れ込んで島に上陸してから数時間が経った。空港のターミナルからさほど離れていない所に仮設の展覧会場を建て、中で武器の手入れやトランプ遊びをして時間を潰していた。見知らぬ欧米人が急に四人も目撃されれば軍へ通報がいくのは必至だろうから展覧会の偽ポスター配布や食料買い出しといったら仕事は申し訳ないながらも全てリーに任せるしかない。

 アダムとアンドレは二人でポーカー中だ。机の上には煙草や硬貨にドル札などが積まれていた。どうやら賭け好きのアンドレが良いカモになっているようだ。部屋の角ではイワンコフがクリンコフ(AKS-74U)のお手入れ中だ。ソ連銃器の代名詞とも言えるAK-74シリーズのサブマシンガンタイプであるクリンコフは彼が現役時代から愛用していてもう傷だらけだが何度も命を救ってくれたらしい。


 室内には襲撃が近づくにつれて緊張感と高揚感の入り混じった空気が次第に濃くなっていた。





〈2018年1月1日 17:20 永興島 港 〉


 バイクをレンタルしたリーは鞄にC4爆薬と焼夷弾を組み合わせた中型の爆弾を4つ忍ばせてガソリンスタンドへ向かった。バイクに給油しながら周囲を観察し、港から奥の軍用貯蔵タンクへと伸びる太いパイプをようやく発見した。トイレを借りるフリをして店の裏に回り込み爆弾を2つタンクの下に貼り付けた。続いて港から伸びるパイプを辿って貯蔵タンクに出来る限り接近可能な距離まで近づくと、フェンスの外から爆弾をある程度間隔を開けて投げ込んだ。爆弾は強力な磁石が付いているのでパイプに吸い付くようにくっついた。

 爆発させるための発信機を手に握りながらバイクで隠れ家である偽展示会場へと戻った。





〈1月1日 18:43 永興島 隠れ家〉


 襲撃は準備が整い次第すぐに実行する予定だ。無線を通してハディージャに連絡を取り、作戦の最終確認を済ませ、四人は特殊繊維で作られた軽量な防弾ベストを着て、カチャカチャと音を立てながら各種装備や武器を身に着けたりバックに詰め込んだりといった作業が終わったところだ。そして各々ケースから取り出した眼鏡を掛け、伸びているイヤホンを片耳に挿し、声帯の振動から音を拾う咽頭マイクを首に装着して右側にある電源を入れた。電源を入れると眼鏡に島の地図と自分の位置が映し出された。最新の眼鏡型デバイスだ。

「もしも〜し。ちゃんと映像は映ってる?マイクのテストをしたいから一人ずつ何か喋ってくれない?」

数分でデバイスに表示される画像、声の確認と位置情報のチェックを終えた「GHOST」は出撃準備万端だ。全員の確認をしてウォーレンが声高らかに宣言した。

「さぁお前ら、いっちょ暴れまくってやろうじゃないか!」

「おーっ!」という歓声を聞きながらウォーレンは高く掲げた手に握っていた爆弾の起爆スイッチを押した。

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