第五章『報告』

【第五章『報告』】


〈2017年12月23日 21:00 オルカ号情報室〉


 10分ほど前からメンバーか集まり始め、同時に一枚の書類をファックスでリーに送信し終わったところだ。作戦会議を円滑に進めるための書類についてハディージャが説明をしている。

「リー、ファックスは届いた?」

「えぇ、何かアルファベットが羅列してあるけど…これをどうすればいいの?」

A4の紙にはスペースを開けることなくアルファベットがところ狭しと並んでいた。

「その中で『e』って文字を全部黒塗りにしてもらえる?鉛筆でもペンでもいいから」

「これ、かなり面倒くさいわね…ちょっと待ってて」


 数分後、リーの終わったという報告を受けたあとで三回目の作戦会議が始まった。もちろん最初に口を開くのはウォーレンに決まっていた。

「何度も集まってもらって悪いな。リー、簡略地図は受け取ったか?一緒にスマホで衛星写真も開いておいてくれ」

「まさか文字を塗りつぶして地図を作る事になるとは思ってなかったわ。お陰で腕がヘトヘトよ」

「悪いな、Google Earthといえども最新ではないからな。それに中国にバレずに基地の図を送るにはこれぐらいしか方法が思いつかなかったんだ」

一言二言交わしたあとでいよいよウォーレンがアダムに指示を振る。

「アダム、ドローンでの調査は終わったな?結果の報告を頼む」

「はい。『セイバー』と『キャスター』の二機を使って基地とその周辺を重点的に調査しました。基本的には夜に行ったので記録された映像は暗視カメラを通したものとなっています」

そういってモニターに映したのは全体的に緑色の映像だったが画質は驚くほど良いものだった。

「これらの映像と、集音マイク、サーモカメラを使って基地の概観を捉えることができました。」

そう言いながらモニターに大きな地図画像を映した。

「これはハディージャが入手してくれた最新のもので、3日前に撮影された衛星写真を基にした地図です。Googleが公開しているのが去年のものになるので、一年で新に建物が増設されているのがわかると思います」

確かに島の北東部を中心に大小様々な建物が新しく建っていたり、建設途中なのがわかる。それでも特に目立った建造物はなく、通常の基地となんら変わりはないように見える。

「この画像で分かるのはせいぜいこの程度です。ここで活躍するのが二機のドローンです。通常の暗視撮影に加えて『セイバー』にはサーモカメラで、『キャスター』には集音をそれぞれさせました」

「分かった、分かった。そんなメカオタクの難解解説はいいから早く結果を教えろよ!」

機械音痴であるイワンコフの苛立ったセリフが室内に響く。

「ちょうど今から話すところだって」

そう答えてから表示されている画像を切り替えると、先程の地図をより簡略化したような地図が表示された。赤い色で所々塗られたその地図を指差しながらアダムの説明は続く。

「この赤い所は『セイバー』のサーモカメラを通して見たときに特に温度の高かった場所です。撮影時間が夜中であることと、色の塗られた範囲の大きさを考慮した結果導き出されるのはこの場所が排気口やレーダー設備、また建物のほぼ全体をぼんやりと覆っている赤色の部分は調理場や宿舎といった類のものだと思われます。」

そこで言葉切り、新しい画像に切り替える。先程の画像に今度は青色で塗られた所が数カ所あった。

「こちらは『キャスター』の集音マイクによる計測結果を先程の地図に加えたものです。この青と赤の重なっている数カ所が大型の排気口だと考えて間違いないでしょう。排気の音を拾ったので確実です」

島の北東、海岸に面した周囲の建造物より一回り大きな建物の海側に赤と青の重なった小さな丸が列になって並んでいた。

「それはカメラで確認は出来なかったのか?」

「はい。巧妙に隠されているのか、衛星対策なのかは分かりませんが単純に上空から映像を撮るだけでは確認することが出来ませんでした」

再び画像を変えると今度はいくつもの矢印が引かれていた。

「これは昨日のデータを基に作ったものです。二機を空中で静止させてサーモカメラで警備の動きを捉え、線図にしたものです。これを見ても分かるように、海岸線、基地境界線とこの建物の周りを重点的に警備しているのは明らかです」

「なるほど。結論からすると、ここの地下に何らかの施設があるとみて間違いさなそうだな」

「えぇ、そういう事になりますね」

アダムの肯定を待ってからウォーレンはリーへの指示に移る。

「リー、ある程度の事は伝わったと思うがどうだ?塗ってもらった略地図の北西の建物群の中で一番大きな建物の地下で何かしらの実験が行われていると考えられる。ここまでは大丈夫だな?」

「えぇ、大丈夫よ。それで私は何をすればいいの?」

「明日、基地に入るんだったよな?そこで『アサシン』を基地の中に放ってきてもらいたい」

「『アサシン』ってあの芋虫よね?それは別に問題ないけど……」

「最初は基地内に放つだけにしようと思っていたのだが、今のアダムの説明を聞くともっと効果的な方法を思いついたんだ。アダム、その通気口は基地内に繋がっていると思うか?」

「う〜ん……確実な事は言えませんが、他に大きな排気口は見当たらないですし、少なくともここが大きな役割を担っているのは確かだと思います」

「あぁ、待って。嘘でしょ?まさかその通気口に『アサシン』を入れてこいって言うんじゃないでしょうね?」

「悪いなリー、そのまさかだ」

「分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」

「よろしく頼むぞ。こちらからはこれ以上支援することは不可能だから、方法は自分で考えてくれ。何しろ情報の持ち合わせが無いものでね」


 その後いくつか打ち合わせをして今日の会議はお開きとなった。ウォーレンは基地の様子が段々と明らかになっていく事に喜びを感じ、明日の「アサシン」からの情報によってさらなる情報が集まることを心の底から期待しているようだった。

「それにしても、今日はやけにアンドレが静かだったな。『ランサー』を壊した事をまだ気にしているのか」

軽くニヤつきながら自室のドアを閉めた。

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