異端者

朝風由紀菜

第1話

左右非対称の瞳。薔薇の痣。

シリユス家は、神から見放された一族だ。遠くで教会の鐘が鳴る。

ふわりと薔薇の香りが、一人の青年の鼻腔を擽った。空は憎らしいぐらい晴天であった。

ぽたり。頬に雫が落ちる。とどまる事を知らぬ雫。拭っても拭っても。

止まらない。

泣く事なんて、もう無いと思っていたのに。再び乱暴に拭い青年はフードを脱いだ。

ふわ、と風が彼の綺麗な藍色の髪を撫でたーー。


❁❀✿✾


アダムとイブは、何故恋に落ちたの?

少年の純粋な問いに母親は笑って答えた。

「お互いが必要だからよ」

母親の言葉は、幼い少年には理解出来なかった。どうして必要だと思ったの?

なんで?

そう問いただしげな瞳に母親は、笑みを崩さず少年の首を締めた。

「知る必要は、無いわ。だって、貴方はここで死ぬんだもの」

どろりどろり。母親の顔が崩れていく。醜い夜叉の顔。

ああ、そうだ。これは、夢なのだ。母が僕を殺そうとする筈がない。

あれ? そう言えば僕に母親なんていたっけ?

思い出せない。これもそれもあれも。

全部ぜんぶ。僕達を見捨てた神様のせいだ。

少年は、懐からナイフを取り出し戸惑いなく母親だった物に刺した。それは、奇声を上げながら溶けていった。

「ふん。異端者め」

最後にそれが騒いだ。耳障りだ。少年は力強く異形の物を踏み潰した。

神が僕達を殺す為に寄越した物。

思い出した。思い出した。

全てと言う訳では無いけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異端者 朝風由紀菜 @asakaze0704

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ