第14話 ―最適な迷彩!?―☆

「前回の野犬駆除に続き、今日はイノシシの駆除を行う」


 朝もやが町をまだ包んでいた。


「今回は馬車なのじゃ!」


 店の前には、お嬢様の外国製高級馬車。その中で、お嬢様は歩かなくて良いのを喜んでいた。


「いや、山の麓(ふもと)についたら、砂袋背負って歩いてもらうから」


「なんじゃと!?」


 店主の言葉は冷たかった。


 さて、馬車は山の麓へと着いた。店主とお嬢様、そして老執事は、堅い革のブーツ、上下革の服に、革の胸、肩、腕当てといった簡単な防具を着て立っていた。


 前回の、お嬢様は鎖かたびらだったが、今回はもっと素早さが要求されるので、同じ装備となった。


「さて!今回は警戒心の強い野生のイノシシだ。なので、迷彩をして隠れて行う」


 そう店主は言うと、馬車から何やら出してきた。


「ところで、迷彩とは何じゃ?」


「ああ、周囲に溶け込んで見つかりにくくする事だ、カモフラージュ、擬態、保護色、色々な言い方がある。そうそう蛾は知ってるか?」


「知っておるのじゃ!」


「あれなんかがそうだ!羽の色を周囲と同じにしているだろ?保護色だ。他にも、枝にそっくりな虫!ナナフシなんかは擬態と言う」


「ナナフシなら、図鑑で見たのじゃ!そうか、つまりは分からなくすればよいのじゃな!」


「そういう事だ!ではこれを着ろ」


お嬢様は、店主からフードの着いた茶色い迷彩マントをもらった。さっそく着てみた。


「これでは目立つのじゃ!」


 山の麓なので、まだまだ黄緑の草が多かった。


「それは森に合った迷彩だ。森の中で着るから周りに溶け込むんだ」


「そういう事なのか!」


 ひとまず店主たちは、迷彩マントをしまうと山に向かって歩き出した。


「おっ、重いのじゃ!」


 お嬢様は10キロの砂袋と、自分の迷彩マントを背嚢(はいのう=リュック)に入れ背負って歩いた。店主は前回の野犬の時と同じ背負子(しょいこ)だった。


「そうだ!さっきの迷彩の話なんじゃが?」


「なんだ?」


「では、砂漠だったらどんな迷彩なのじゃ?」


 お嬢様は質問した。


「お嬢様が砂漠に隠れるなら、どうする?」


「そうじゃな……砂と同じ色にするのじゃ!」


「その通り!砂の色をベースに、あと小石の絵をつけるんだ」


 店主に誉められ、お嬢様はちょっと嬉しい!気分を良くし、また質問した。


「なるほど!では、雪では?」


「そりゃ!真っ白な装備だろ!!」


「なるほど、なるほど!面白いものじゃのう!!」


 そこで、お嬢様は思い出した。


「だから、祭りの時はあの格好だったのじゃな!」


「ああ、でもあれは完全装備だし、祭りだったから出来た格好だ」


「なら、普段なら?」


「平服(へいふく)だ」


「平服?」


 お嬢様は知らない言葉に、首をかしげた。


「普段着って事さ!」


「なるほど!普通の格好が、町では迷彩という訳なんじゃな!!」


「その通りだ!いかに普通に、どこにでもいそうな服にするか?それが目立たないコツだな」


 そう店主に言われ、お嬢様の頭にまた一つ疑問が浮かんだ!


「所で、普段着なら武器はどうしまうのじゃ!?」


「武器と分からないように持つんだよ!」


 お嬢様は店主に言われ、しばらく考えた。


「分かったのじゃ!パンなのじゃ!長いパンの袋に入れておくのじゃ!!」


 最近、店主の店に来ることで、お嬢様は街の様子が見えて来ていた。今まで屋敷では、すでに切ったパンが出ていたが、街中を見る事で、長いパンが袋に入れられて持ち運びされている事に気づいたのだ。


「そうだな!長いパンの袋にまぎれて、ショートソードもいいな!!」


『また、ほめられたのじゃ!』


 お嬢様は嬉しくて、背中の砂袋の重さも忘れて、気づけばスキップをしていた。


「おっ!元気あるな。じゃあ、あと5キロ追加するか!?」


「いっ、いやなのじゃ!!」


 店主は冗談を言って大笑いした。


「所で、そなたならどうするのじゃ?」


「俺か?俺なら……」


 お嬢様は店主の答えを期待して待った。


「俺なら、花束かな!」


 その答えに、お嬢様はビックリした!


「なんじゃと!!花束とは、ずいぶんロマンチストじゃな!!」


 すると店主が真面目に答えた、


「いや、長い茎の花もあるし、何より下に向けて持てるから、長い剣が隠せるんだよ!!」


「なんと!そうなのか!?それなら、ロングスカートの中もあるのじゃ!!」


「おお!女性ならではの答えだな」


 店主は関心する。この他に、いったいどんな隠し方があるかと二人は盛り上がった。そうこうしている内に、段々と森が深くなってきたのだった。


「そろそろ問題の場所になる!良くそこで人が襲われるんだ。やつらは良く見ていて、武器を持ってると分かると、絶対にやって来ない!だから、エサを置いて隠れて待つ」


 店主は言うと、背負子を下ろし迷彩マントをつけた。


「あと、そうだ」


 店主はお化粧のコンパクトを出した。


「そんな趣味があるのか!?」


 お嬢様は驚いた!


「そういう化粧じゃない。顔も迷彩にするんだよ!」


 店主が開いたコンパクトの中は、茶色をベースとした色しかなかった。店主はそれを指につけると自分の顔に塗った。


「女のメイクは、目鼻立ちを強調したり弱めたりするだろ?でも、顔の迷彩の場合は、その逆でまず目を隠すんだ。自分の目の色に近く、周りに溶け込む色だ。今の場合は、俺の目は茶色だから目の周りを茶色にする」


「なんと!目が目立たなくなるのう!!」


「目と鼻で顔を認識する。次ぎは鼻だ。最後に口。特に唇の色が隠れるようにくまなく塗る。これで完成だ」


 店主の顔は横に流れるよう、目の周りは茶色、鼻と口は黒く太く色分けされていた。


「次ぎは、お嬢様だな!」


「わっ!わらはもか!?」


「早く塗れ!」


 お嬢様も否応(いやおう)なしにメイクしていった。まずは目!お嬢様は青い瞳だ。なので明るめの茶色で塗る事になった。店主に言われ頬と鼻が目立たぬよう濃茶が塗り、口元は黒になった。


「まるで、お化けみたいなのじゃ!!」


 お嬢様は不満タラタラだった。老執事もメイクを終えていた。あとは、エサにイノシシがおびき出されるの待つだけだ。


 森の中、古く茶色い落ち葉に紛れるように、迷彩マントのフードをかぶり地面に横になった。ただただ、ひたすらにイノシシを待った。


 するとイノシシが現れた!


――フゴフゴフゴッ


 鼻を鳴らしながらやってきたのは、野犬の倍はある大イノシシだった。


『あの牙は怖いのじゃ!』


 その牙はするどく、細い木の幹ならへし折られるだろう。


――フゴフゴフゴッ


 エサを食べだした!その時だった。


―バサッ!


 店主が起き上がったかと思うと、大イノシシの後ろ足を切りつけた!


――フギャ!!


 大イノシシの悲鳴が上がる!!それを見た、お嬢様も起き上がろうとしたが!?


『あっ!引っかかってしまったのじゃ!!』


 マントが木の枝に引っかかってしまった。そこに大イノシシが突進して来た。


――ドドドドドッ


『マズイのじゃ!!』


 お嬢様はマントの脱ぎ捨て、身を翻(ひるがえ)す!


――ドドドドドッ


―シャーッ!!


 間一髪!大イノシシは、お嬢様の後ろをかすめ!すり抜けて行く。そして、すぐに方向転換をした。


『来るのじゃ!』


 お嬢様は抜刀の用意をした。


――ドドドドドッ


―ズシャーッ!!


 お嬢様の剣が大イノシシに首をとらえた!


「わっ!!」


 が、剣がそのまま持っていかれてしまった。しかし、剣は深く切り込んでいた。


――ドドドド、ドタッドタッ


―バタッ


 大イノシシは剣を首に刺したまま絶命した。


「あっ!危なかったのじゃ」


 お嬢様はその場にへたり込んだ。


「見ていたが、大丈夫か?」


 店主が手を差し伸べた。お嬢様は素直に店主の手を取り立ち上がった。その時!


 スースーした。


「お尻がパンツごと裂けてるし、パンツが赤いが出血は大丈夫か!?」


 お嬢様が自分のお尻を触ると、素肌があった。店主はマジで心配している。


『見ていたが、大丈夫か?』


 お嬢様は、店主の言葉の意味を理解した!


「見ないのじゃああああ!!!!」


 お嬢様は、横に切れた真紅のパンツの切れ間から、ぷるぷるの桃色をしたお尻がずっと見られていたのに気づいた。


 お嬢様は恥ずかしさの余り、お尻を押さえながらまた、その場にへたり込んだ。







「早く!マントを貸すのじゃああああ!!!」


 こうして、大イノシシの駆除は大成功したのだった。


【ステータス】


☆お嬢様

・現在、最高の両手持ち剣(重心柄、重さ中、柄太め、刃小幅、肉中厚)

・上下革の服に、革の胸、肩、腕当て

・堅い革ブーツ

・革の手袋

・『横抜刀』

・またまた返り血対策!真紅のパンティ

・ぷるぷるピンクの桃尻!!


つづく


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る