第13話 ―最高の手入れ!?-
「じゃあ、今日最後の仕上げた!剣の手入れをするぞ!!」
野犬との戦いのあと、役場で報奨金をもらい店に戻り着替えると、店主は大きな箱を出してきた。
「剣の手入れとはなんじゃ?」
店主は店の真ん中の大きなテーブルに、箱から油缶とトング、小さな布切れを出して乗せ、お盆を足元に置いた。そしてゴミ箱も用意した。
「そのままだと、錆(さ)びるんだよ」
そして店主は、お盆を足元に置いた。
「さて、野犬を切ったあと、水かけて布でふいていたではないか?」
そういうお嬢様をよそに、店主は油缶をあけ左手で剣を持つと剣先を、足元のお盆の上に持っていった。
「あれは、とりあえずの汚れを落としただけだ。これから錆びないように油を塗るんだ」
小さな布をトングでつかんだ。
「油って?料理のか?」
料理!と聞いて店主はあきれるが、ちゃんと説明した。
「料理の油だとカビる。まあ、それしかないなら別だが。同じようにサラっとしている、機械に使うような油を使うんだ」
そう言うと、油缶の中にトングでつまんだ布を入れた。
「良く見ておけ!つけるのは少しだぞ?薄く塗るだけだからな。油をつけた布は戻すなよ!二度つけるな!!」
店主は、自分の剣に油を薄く塗って見せた。油のついた布はゴミ箱へ。そしてまた、新しく乾いた小さな布を、今度は手で持つと剣を拭いた。
「余った油をふき取るんだ」
「ところで、油は色々あるのか?」
お嬢様は質問した。
「ああ、食べる物には、植物または動物の油だろ?そうだった!悪かった。お嬢様なら自分から料理なんてしないよな。てか、させてもらえないか!」
店主は普通に言ったのだが、お嬢様には。ちょっと小バカにされたように感じた。
「むーーーー!」
お嬢様は怒ってはみたものの、同じ年頃なら、料理の一つや二つ、出来て当たり前なのだろう。と、思うと少し恥ずかしくなった。
「鉱物油(こうぶつゆ)の油なら、油錆(ゆさび)が付きにくいんだ」
「こうぶつ、ゆ?」
『何!好物?好きな食べ物のか?』
お嬢様の頭の中には別のものが浮かんだ。
「あっ、いわゆる地面からでる油だ。石炭とか掘ってて、一緒に出る油を精製して作るんだ」
「分かったぞ!それは石油の仲間なのじゃ!!」
一応、お嬢様も色々と習っていた。
「そうだそれだ!」
お嬢様が意外と知ってて店主は驚いた。
「綺麗に油で汚れを落としたら、乾いた布で拭いて。仕上げにまた油を塗って終わりだ」
「なるほど!汚れないようにする為に、だから二度付け禁止なのじゃな!」
「ああ、そうだ。軍隊なら、場所と缶を分けてたなあ。間違いを減らす為に」
店主のその言葉に、軍隊?軍隊にいたのか?と、お嬢様は思った。
「さあ、自分の剣の手入れをしてみろ」
「分かったのじゃ!」
お嬢様も店主と同じように始めてみた。
「って、言ってるそばから、付け過ぎだって!」
店主は、お嬢様の手をつかんだ。
「あっ///」
そして、つかんだまま、付け過ぎた油が缶の中に落ちるよう、店主は優しく振った。それから店主は、お嬢様の後ろにまわり、文字通り手を取り塗り方を教えた。
『つかまれた手が、熱いのじゃ』
「……///」
「分かったか?」
お嬢様は、分かったか?と、聞かれても、もうドキドキし過ぎて、なにがなんだか分からなくなってしまった!!
「え~と……もう一回頼むのじゃ」
「分かった。分かるまでやろう」
店主は優しく言った。
「俺のやり方としては、手元から剣先にかけて油を塗るんだ、そうしたら手元にたれず、お盆に油がたれるだ……」
手を握られ、耳まで真っ赤になった、お嬢様。
『あ~!なんなのじゃ!?なんで、こんなにドキドキするのじゃ!!』
またまた、店主の言葉が聞こえなくなっていた。
「だっ、大丈夫か?体調悪くなったか?」
「あっ、はうっ!!」
お嬢様は、頭がクラクラになってしまい、しどろもどろの返事をした。
「あとは俺がやるから休め」
「あうっ!!」
もはや、返事も変だった。なので、お嬢様は色んな意味で少し休んだ。
『ふぅ、もう自分が変なのじゃ。顔が熱いし、胸もドキドキして苦しいのじゃ』
ほてりがおさまるまで。お嬢様は気を紛らわそうと店内を見渡した。
剣、槍、斧、弓、盾、鎧……
店内には、色々な武器や防具が、所狭しと置かれていた。
『いつもこうやって、手入れしていたのじゃな』
店内にある武器や防具を見ていると、それを手入れする店主の姿が浮かんだ。そう思うと、どの武器や防具にも、店主の事が感じられた気がした。
その時、ふと思った。少し冷静になってきたようだ。
「という事は、鞘にも油さすのか?」
「良く気づいたな!!そうだよ。とにかく油の皮膜を作るんだ。そうすると、錆びにくくなるのさ」
そういうと店主は箱の中から、先の方に布を巻いた長い棒を見せてくれた。
「これで、鞘の中に油を塗るんだ」
店主が見せた道具。お嬢様は自分の知らない色々な道具が沢山あるのだと思った。
「剣なんていいほうさ!カタナなんて、もっと面倒だぞ!柄が木だから、刃を留めてる目釘(めくぎ)を抜いて、剣にはない鎺(はばき)を抜いて」
それを聞いて、お嬢様は驚いた。
「なんとっ!剣をバラバラにするのか!?」
お嬢様は、剣をいちいちバラバラにするなど、想像も出来なかった!
「そうだよ!使ってなくとも、これを月に一回はする。まあ、三ヶ月ぐらいは大丈夫なんだが、抜いてみると油が乾いて、斑(まだら)になってしまうんだ」
「カタナは、ずいぶん手間がかかるものなのだな」
お嬢様は、刀の手間の多さに改めて驚いていた。
「特に東洋では、湿度がメチャクチャ高いから、使用した日には毎回だそうだ!夏は、濡れたままにしたら半刻で錆びが出るって話だぞ!!」
「そんなに早いのか!?」
「一日がかりの決闘なんて事になった日には、そのカタナは錆びだらけだろうな!!」
と、店主は冗談っぽく言った。
『面倒な手入れと引き換えに、最強の斬れ味とは!?』
お嬢様は、また自分の知らない世界を知って楽しくなった。
「さらには、カタナでは布でなくて東洋紙を使って拭くんだ。それから、砥石の粉をくるんだ打粉(うちこ)で、ポンポンとして、また東洋紙で拭くんだ」
「なに!まだあるのか?」
「そしてやっと、今度は油を含んだ東洋紙で拭いて終わりだ。特に鎺(はばき)周りが錆びやすいんだ。まあそれだけ、炭の多い鉄なのだろう」
「炭?炭の多い鉄は何じゃ?」
お嬢様は、分からない事はすぐに質問する。なので店主は刀を持て来て説明した。
「ああ、炭か。炭の多い鉄はとは鋼(はがね)と言って、斬れ味が良いという事だ。でも」
「でも何じゃ?」
「良く斬れるが、衝撃に脆(もろ)い。だからカタナは良く斬れるが、炭の成分が多く脆い鉄を、炭の少ない衝撃に強い鉄に挟んでいる。だから、カタナには剣にない、ハモンという模様が出来るんだ。ほらこれだ」
店主も知っている限り説明をする。お嬢様は改めて刀の波紋を、まじまじと見た。
「作るのも大変そうなのじゃ!」
「そうなんだ!鉄は普通、油で焼き入れと言うのを行うが、鋼は水で行うそうだ!そして、焼き戻しという工程を経て、やっとカタナになるのだそうだ」
「だからこその最強の……いや、最高の切れ味なのじゃな!!」
「ああ、そうだ。だがいくら最強のカタナでも、使う人間しだいで……」
「最低なカタナじゃな!!」
「「アハハハ!」」
と、二人の笑い声が店内にこだました。
「ほら!出来たぞ」
そう言って店主は、手入れをした剣を、お嬢様に渡した。
「大儀(たいぎ)であった!」
お嬢様は、これ以上にないほど、愛剣を大切そうに抱きしめたのだった。
【ステータス 】
☆お嬢様
・現在、最高の両手持ち剣(重心柄、重さ中、柄太め、刃小幅、肉中厚)
・動きやすい服装(浅黄色のすそが少し長めの丸首、綿の長袖。ズボンも同じく浅黄色。肌はピンクのボタン止めのノースリーブ)
・靴(茶のカモシン)
・紫色の靴下(くるぶし隠れる綿のメリヤス編み)
・『突き』『受け返し』『抜刀』『横抜刀』そして『鞘走り』らしき技
・返り血対策!真紅のパンティ
・『愛剣の手入れ』を覚える
つづく
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