第12話 ―最強の犬!?―

 朝もやが町をまだ包んでいた。


 店の前には、いつものごとく、お嬢様の外国製高級馬車が止まっている。その馬車と店の間に、店主とお嬢様、そして老執事が簡単な防具を着て立っていた。


「基本的な剣術は教えた。では、今日から実戦に出るが……」


 店主は、堅い革のブーツ、上下革の服に、革の胸、肩、腕当てをしていた。


「出るが、なんじゃ?」


 お嬢様は、同じく堅い革のブーツ、上下革の服の上に、頭からかぶる、手首までのワンピースみたいな鎖かたびらを着ていた。もちろん革の手袋もしていた。


「その前に」


 店主はそう言って一度、店に戻ると一振りの剣を持って来て、お嬢様に手渡した。

 

「これが、お嬢様の剣だ」


「これが!……これが、わらはの最高の剣か!!」


 お嬢様は、パアァっと目を輝かせ、大切そうに剣を抱きかかえた。ヒンヤリとしていたが、それもまた心地よかった。


「ああ、今日は本当に切る事になるからな」


 お嬢様は嬉しそうに、もらった剣を腰の剣ベルトに手早くつなげた。

 

『早く使ってみたいのじゃ!!』


 お嬢様はそう思いながら、剣の鞘をなでたのだった。


「では行くぞ!」


 それから店主は町から平原へと、お嬢様を連れて歩いて行った。老執事も歩いていった。


 老執事も、いつもの燕尾服(えんぴふく)ではなく、店主と同じような防具を装備をしていて、やはりただの執事ではないものを感じ取らせていた。


 そろそろ、一刻になろうとした時だった。


「もう、疲れたのじゃ」


 お嬢様が弱音を吐いた。


「こんなんで疲れるなよ!」


 おいおい!昨日の決意はどこに言った!!と、ばかりに店主は呆れた。


「ブーツが重いのじゃ!なんで今日はブーツなのじゃ!?」


「普通の靴じゃ、戦闘中に脱げるだろ!?」


「あと、なんで馬車を使わないのじゃ?」


 空(から)の背負子(しょいこ)を背負った店主は振り返り、お嬢様に言った。


「本来なら、背中に砂袋を背負って走って行くんだからな!いいか?次回からはそうだからな!!」


「ええっ!?」


 お嬢様はビックリしていた。


「あのなあ、重い荷物を背負ったまま、どこまででも走って逃げられる事が、戦場での生き残りの基本なんだよ!」


 お嬢様の目はグルグルしていた。足首が固くなるブーツ、そして普段、そんなに体を動かす事のなかったお嬢様は、すでに歩くことで精一杯だった。


「てな訳で、さあ着いたぞ!」


 目の前には、柔らかな日差しの中、膝ほどの草むらがずっと続いている草原があった。そして時々、さわやかな風が吹いて来て、草とツインテールを揺らした。


「綺麗なのじゃ~!」


 青い空には、白い雲!自分の足で歩いた事が達成感からか?綺麗な風景に、お嬢様にとっては一瞬、何をしに来たのか忘れるほどの風景に見えた。そして、お嬢様は思った。


『こんな所で、ピクニック出来たらよいのじゃ……』


 と、お嬢様が思った瞬間、店主の顔が浮かび。


ブンブンブン!!


 と、首を振った。


 その時だった。


「抜刀!!」


 店主の声が響く!


――ガウッ!!


 お嬢様が剣を抜くと同時に、草むらから野犬が跳びかかって来た。


―ガンッ!


 野犬の体が、お嬢様の剣に当たった。


「わっ!!」


 お嬢様は剣が飛ぶかと思ったが、さすがは自分の剣だ!手にしっかりと握れていた。お嬢様は野犬を見た。剣の平(ひら)が当たっただけなので野犬にダメージはなかった。


「いいか!野犬相手では、刃は横に振るんだぞ!!」


 お嬢様は店主の声に、両手で持った剣先を左右に小刻みに、いつでも対応が出来るよう振っていた。


――ガウッ!!


 野犬が、お嬢様に再び跳びかかった。


―ブンッ!


 お嬢様の振った剣は宙を切った。野犬は空中で反転したからだ。


『また来る!?』


 と、お嬢様は構え直したが、野犬は攻撃はしてこなかった。どうやら様子をうかっているようだ。でも野犬はずっと、お嬢様を狙っていた。


「なんで、わらはばっかり襲われるのじゃ!?」


「そりゃ!この中で一番弱いのが誰か、良く分かっているからだ!!」


「なにとっ!?」


「それが野生の本能なんだ!」


 お嬢様は、一番弱い!の言葉に、ちょっと悔しくなった。


「構えろ、剣は横に振れ!!絶対、膝より下げるな!とにかく横に斬れ!」


 お嬢様は間合いを詰め、野犬に斬りかかる。が、野犬は後ろに跳び、お嬢様の剣をよけた。


「剣を鞘にしまえ!まだ一対一だ!!『鞘走り』の『横抜刀』だ!!!」


「そんなのは、まだ出来ぬ!!」


「とにかくやれ!やらなければ殺(や)られるぞ!!最速の抜刀だ!!!」


 お嬢様は、意を決して剣を鞘に戻した。


――サッ


 と、お嬢様は膝を開き曲げ、横抜刀の構えをとった。その時、野犬が襲って来た!


「今だ!」


店主の声に反応して、お嬢様は夢中で抜刀した。




――スパンッ


 お嬢様の剣が、野犬の首を跳ねた。


―ダンッ、ダン


 そして離れた、首と体は地面に転がっていった。


「えっ!?」


 お嬢様は自分の剣で斬った事に驚いていた。


『剣を振っただけなのじゃ!?』


 本当に振っただけだった。手ごたえなどない!物凄い軽さだった。


「お見事!首を一発とは凄い!!即死だ!非常にいい!!」


 店主に誉められ、お嬢様の表情がパッと明るくなった。


『まさか!本当に鞘走りを決めるとは!!あれは奥義なんだぞ!?』


 店主は驚いていたが、嬉しくもあった。


「よし!その調子で、ドンドン行こう!もうすでに囲まれてるからな!!」


 お嬢様は店主の言葉に周りを見た。


――グルルルッ


 野犬たちが喉を鳴らして囲んでいた。お嬢様の表情が引き締まる。


「野犬こそが最強の犬だ!本能のままに襲って来るぞ!!喉を噛みちぎられないように、絶対に縦に切るな!剣先を下げるな!!」


店主の声に、お嬢様は応える!


「分かったぞ!!」


 この後、本当に危ない時以外は、店主は手出しせず、お嬢様にひたすら戦わせた。


――スパン!


「息を止めるな!吐いて吸え!!」


「分かったのじゃ!」


―ザクッ!!


「斬った剣は、すぐ正面に戻せ!!」


「分かっ、はうっ!!」


――スパン!


 お嬢様の足元に、何匹もの野犬の死骸が転がった。しばらくすると、野犬たちの襲って来る気配がおさまった。


「ハアハア、これで終わりなのか?」


 お嬢様は剣を杖にし、肩で息をしていた。その脇で店主は、野犬の体から血抜きをし、持って来た背負子に乗せ縄で止めていた。


「ああ、終わりだ。それじゃあ帰るぞ」


「ハアハア、その野犬たちは?」


 お嬢様は息も絶え絶えに、店主に質問をした。


「ああ、これか?町役場に持って行くと、害獣駆除の報奨金がもらえるんだ。この辺りも安全になるし、金ももらえる!」


 そして店主はニッっと笑って言った。


「そしてなにより、お前の剣の適正も分かるから、一石三鳥だな!!」


 そう言うと背負子を背負い、町に向かって歩き出した。


「ああ次は、五キロの砂袋を背負って戦うからな。ちなみに行き帰りは走るからな」


「はうっ!!」


 淡々と言う店主に、お嬢様は、ウヘッ!という表情になった。その様子を、老執事はにこやかに見ていた。


「やっぱ、さらに五キロ追加な!」


「鬼なのじゃ!!」


 お嬢様は、とうとう無表情になった。


「あははは!」


「ひどいのじゃ!!」


 その姿を見て、草原に店主の笑い声が響いたのだった。


【ステータス】


☆お嬢様

・現在、最高の両手持ち剣(重心柄、重さ中、柄太め、刃小幅、肉中厚)

・上下革の服の上に、頭からかぶる、手首までのワンピースみたいな鎖かたびら

・堅い革ブーツ

・革の手袋

・『突き』『受け返し』『抜刀』『横抜刀』そして『鞘走り』らしき技

・返り血対策!真紅のパンティ


つづく


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