第15話 ―最後の適正!?―

 お嬢様、店主、老執事の三人は店内にいた。今日はもはや剣術はなかった。


 なので、お嬢様は黒の、すそがレースのワンピースに、白の網タイツ。黒いエナメル靴を履いていた。ツインテールのリボンは白で大きかった。


 基本の最後と言って、店主は抜刀術を教えた。そして、実戦と言って3回、野犬と戦った。そしてそれはもう、適正を見るという時間が、終わるという事であった。


 その事を思うと、緊張するお嬢様がいた。


「所で、わらはに適正は……」


 と、言いかけた所で店主が質問してきた。


「いまさらなんだが所で、なんで剣が必要なんだ?戦う条件によっては、剣じゃない場合もあるんだぞ?」


 ただの思いつきで、剣を求めて来たと思っていた所、意外にも根性があり、素質もあり、その他、自分の気持ちもあったのだが、改めて根本的な質問を店主はした。


 お嬢様は、すーっと息を吸った。そして言った。


「お父様を救い出しにじゃ」


「えっ!何故それを先に言わないんだ!?」


 店主は目を丸くして驚いた!!


「人質に取られてるのか?相手は?人数は?」


 店主は矢継ぎ早に質問した。


「いや、そういうのではない」


「ではどこへ?」


「どこへと言われても……」


 と、お嬢様が口ごもっている所へ、老執事が間に入った。


「まだ極秘裏にしておりまして、場所については言えませんが、戦闘環境としては、ダンジョン探索になるかと」


 老執事の言葉に店主の頭が、物凄い回転を始めた。


「ダンジョンか!では相手は……」


「怪物が主に」


「そうかダンジョンなら、少人数パーティだな。それも、選りすぐりの。最低でも戦士は2名、それに探索魔法の出来る魔法使い、あと近接も出来る槍使い、そして治癒がいるから必ず僧侶だな」


 店主の頭の中では、条件に合わせたにシミュレートが始まっていた。


「ええ、なので今、それら人選の救出部隊を編成中です」


「所で救助者の状況は?」


 今の今までの時間から、猶予はかなりあるのだと店主は思ったが、はっきりとしたものが知りたかった。


「それは大丈夫です。無事に生きているのは確認出来ています」


 えっ!ダンジョンなのに?と、店主は違和感を感じた。


「食料も今の所、1ヵ月半は大丈夫です。あとは本当に、人選だけなのです」


 その老執事の言い方に、暗に言っている!と、店主は感じた。店主がお嬢様を見ると、お嬢様はチラリと老執事を見た。


『そういう事か』


 店主が思った瞬間。老執事が口をあけた。


「はっきり言います。どうか救出部隊に入っては頂けないでしょうか?」


『そういう事か。ここへ剣を習いに通ってはいるが、見られていたのは、こっちもだったのか』


 なので、店主は即答した。


「それは出来ない」


 店主はきっぱり言った。


「何故でしょうか?貴方様ほどの技量には、まずお目にかかれません」


 老執事が身を乗り出して言った。


「俺は今、武器屋なんだ。現役は引退したんだ」


「でも!」


 老執事は食い下がる。


「下手に技術を見せ、期待させた。すまん」


 そう言うと店主は、お嬢様に向かって頭を下げた。店主の人柄を分かっているだけに、お嬢様は辛かった。


『分かっているのじゃ。初めから、自分でやろうと思っていたのじゃ』


 お嬢様は、凛とした表情で店主に言った。


「頭を上げるのじゃ。こっちこそ無理なお願いをしてしまい、本当にすまぬ」


 その姿は、普段のお嬢様ではなかった。気品と風格を持ったたたずまいだった。


『ああ、俺は何て言えばいいのだろう』


 お嬢様の姿に、店主は何か応えねばと思った。


「お嬢様の適性は……」


「どうなのじゃ?」


「適正は、大いにありです!」


 店主の答え方も変わった。丁寧な口調になった。紳士的だが、どこか事務的で冷たい。


「本当か!?」


 だが、お嬢様は店主の言葉に、嬉しくて驚いていた。


「本当です。なのであとは剣術指南をする、どこかの指南所をお勧めします」


 でも、気づいた。店主から突き放された事に、そしてその事に、お嬢様は愕然とした。


『ああっ、何故わらはは、ずっとこのままだと思ったのだろうか?』


 その瞬間、こらえても、こらえきれぬ涙が、ポロポロとこぼれてしまった。


『そうなのじゃ、そう、わらはは、ただ、剣を求めて来ていただけなのじゃった』


 その様子を見て、また申し訳ない気持ちになる店主。お嬢様は泣きながら、でも凛として店主に聞いた。


「もうそなたとは、お別れなのじゃな」


「そういう約束でしたから」


「……」


 その時、急に老執事が立ち上がった。


「どうしたのじゃ!?」


 そして、手袋を脱ぐと店主の頬をめがけ……


「待つのじゃ!!」


 投げつけたのだった。


「店主殿!救出をかけて、決闘を申し上げます!!」


「えっ!……えっーーーーー!?」


 店主は老執事の言葉に目を丸くした!!


◇◇◇


『なんでこうなった?老執事ってこんな奴だったか?』


 店主は今の現状に驚いていた。


『というかそれだけ、お嬢様を大切にしているって事か……』


 老執事の今までを見ていて納得している所もあった。 


 決闘は野犬を退治した草原の奥で行う事になった。どんな装備かは分からないが、お互いに最高の装備で立ち合った。


『まさか!』


 店主が老執事を見た。そこには、長いランスを持ち、全身鎧に身を固め、鎧騎馬(よろいきば)にまたがった騎士、いや老執事がいた。


 対して、店主はロングソードと予備の剣、防具と言ったら鉄鎧は胸当てぐらいで、革の服とブーツだった。だが、それが店主にとって、考えうる最高の装備だった。


「やっぱ、やめようぜ!」


 店主の大声が草原に響く。


「人が集まらぬとあれば、あとは、わたくしめが救出に向かいますが、それでもいかんせん人が足りませぬ」


 老執事は、最後の覚悟を決めた。


「ここで店主殿をお連れ出来ぬのであれば、灰燼(かいじん)に帰(き)す所存(しょぞん)です」


 老執事の覚悟に、お嬢様が叫ぶ。


「お願いだからやめるのじゃ!どちらにも得はないぞ!!」


 お嬢様の忠告も、老執事には届かなかった。


「あとは、武(ぶ)をもって語るのみ!……はっ!!」


 鎧騎馬が走りだした。ランスが店主の心臓を狙う。


――ギュワン!


 馬が店主の脇を駆けて行った。


 ランスの一撃を、素早くロングソードでしのいだ。だが、馬は向きを変え、また店主を狙って駆け出した。


――ギュワン!


―ギュワン!


 ランスと剣の擦れ合う音が、草原に響いた。今日は、お嬢様の他に、いつも警備で隠れている者たちも、その場にいて見守っていた。


 馬上から下に突く力、下から上へ叩ききる力が、ぶつかり合っていた。


 その時だった。


――ギュワン!


―ドサッ


 一瞬だった。


 馬が転倒した。


 店主が左によけたかと思うと、剣の平を右肩につけ柄を上に向け、ランスを滑らせ『受け』た。そのまま、馬が駆け抜けるに合わせ剣を返し……


「ありえない」


 その場にいた警備たちの声が風に乗る。


 店主は馬の足の間に、怪我をしにくいよう剣を平(たいら)にして『返し』入れていたのだった。店主はすぐに、馬から転がった老執事の元へ走っていく。


 老執事は落馬するやいなや、ランスを手放し腰の剣を抜き体勢を整えようとしていた。


「そこまでだ」


「お見事……」


 老執事の首には、店主の剣先が突きつけられていた。


 帰り道の馬車の中は、とても重い空気だった。一言も誰も、しゃべらなかった。


『救出?それもあるがやはり、お嬢様の事が気がかりなのだろう……』


 店主は老執事の気持ちを深く考えていた


『剣術指南か……なぜ、俺は引き受けてしまったのだろうな……』


 でも、その空気の中、とうとう店主が口をひらいた。







「明日からも来い」


「なんと申した?」


 お嬢様は耳を疑った。


「明日からは、弟子にしてやる!」


 お嬢様の目に涙が浮かび。


「店主殿、かたじけない」


 老執事は涙ぐんだ。


「あーーーーん!」


ギューッ


「いやだから、いちいち……」







 お嬢様は店主に抱きついたのだった。


【ステータス】


☆お嬢様

・パンツは黒


つづく

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