おまけ①「我が剣の元に」

このお話は、『ショートストーリー』の、第355話「我が剣の元に」の転載です。


◇◇◇


俺は悩んでいた。

決断の時は迫る……

みなが俺の声を待っているからだ!


「あと、もって数刻です……」


稀代の魔術師が、冷静に言った。

その言葉と裏腹に、魔術師の表情は険しい。

かざした両手の向こうには、巨大な扉があり、魔法での食い止めるには限界が近付いていた。


吟遊詩人は、魔術師の労を労う詩を奏でた。

彼女の歌声は、戦場で数千という兵士の心を癒すと言う。

吟遊詩人の歌声は、確かに魔術師の心に届いていた。


風の妖精エルフは、我々、冒険隊を守る為、精霊達で壁を作っていた。

それをも、かいくぐる敵を、俺とドワーフで打ち倒した。


「しかし、地獄の扉が本当にあったとは……」


俺は呟いた。

俺たちだけなら、魔術師の魔法で、地の果てに逃げる事は出来る。

だがしかし……

それは、時間稼ぎにしかならないだろう。


地獄からの軍勢は、何千万とも何億とも分からない……

いつかは戦う事になる……

吟遊詩人が心配そうに俺を見た。

打ち下ろした戦斧を、また構えてドワーフは言った。


「俺たちの隊長は、あんただ!あんたが決めてくれ」


魔術師は言う。


「命はとうに預けています!」


エルフは言った……


「精霊の身名(みな)において、貴方様との契約を守ります」


と。


吟遊詩人は優しく微笑み、うなずいた。

今、戦うか?

それとも?


「もはや限界です!」


魔術師が叫ぶっ!

地獄の扉が少しづつ開き、得体の知れない何かが、その隙間から飛び出して来た!

その時だった!


「待たせなあ、貴様!」


振り返ると宿敵、シュトラウス万騎長(ばんきちょう)がいた。

その後方から、放たれたる幾万の矢が敵を打ち倒す!


「今は話せる時はない!」


シュトラウスは馬上から敬礼をし、俺に言った。


「我が帝国は、ただ今を持って全軍、貴殿の指揮下に入る!」


帝国が動いた。

シュトラウス万騎長の後には、小高い丘があり、数千万はいるだろう帝国兵の姿が見えた。


ボコッ!


左手に大穴が開いた!


「ホホ~イ!来ましたぜ、王様~!」


ドワーフの仲間達だ!

出て来たドワーフ達は、ドワーフに頭を下げた。


「王様、遅れてすいやせん!工期の関係で……」


「お前ら、遅いんじゃ!!」


ドワーフは、こう見えても、地下帝国の王であり幾千万のドワーフ達を束ねていた。

屈強のドワーフ達が、穴からワラワラと現われて、次々に得体の知れない者を打ち倒していく。


「人間の若造!早く指揮をとらんかっ!」


ドワーフ達が叫んだ!!

右手の森からは……


「えっ、本当ですか!?」


エルフは何かに気付いたようだ。

エルフの目に涙がたまる。

一陣の風が通り抜け、扉から漏れ出す敵を一掃した!

声が響く……


「我が名は、風の王。今しばらく、そなた達に加勢する所存だ!」


身の丈、156ガル(30メートル)を超える風の王が現われた。


「お父様……」


「娘よ……よくよく立派に成長されたものよ」


風の王が俺を見下ろす……


「人間よ……礼を言うぞ、娘をありがとう」


風の軍勢が集まった。


さあ、地獄の扉が今、開く!

生きて帰れる保証は、どこにも無い!


「みなに声を!……」


シュトラウスが、俺を騎馬に乗せる。

馬上より、俺は剣を掲げ……


叫けんだのだった!!


「我が剣の元に集まりし者よ!今一度、我に命を預けん」


一瞬の静寂……


「全軍、紡錘(ぼうすい)隊形をとり、突撃っ!」


地上の

生きとし生きる者と

命無き者との戦いは……今始まった!


おしまい


◇◇◇


10年くらい昔、作った短編がつながるとは!思いもよりませんでした。

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